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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
154/222

追加 護衛騎士


 護衛騎士になって数日。訓練の休養日となったその日に、なぜかラザン将軍から呼び出しがあった。


「うむ。皆集まっているな。では新たな仲間3人の歓迎会をする」


 いつも使っている訓練場の一画で、将軍はそう宣言した。

「いやいやいや。将軍、歓迎会ってのはわかる。仲間だからな。連携や意思の疎通を潤滑にするためにも必要なことだと思う。思うんだがー・・・」

 シシールがラザン将軍の背後に置かれた物をみて言いよどんだ。

「うん、将軍・・・その後ろのはなんでしょうか・・・。大きな包丁に見えるのですが・・・」

 鍋やタル、薪によくわからない箱がいくつも。けれどそれ以上に、将軍の背中におかしなものがあった。

 それは大きな包丁だった。

 大きさはラザン将軍の背丈ほどもある。おまけに刃がギザギザとノコギリのようになっている。肉を断つというよりも削り切るためにあつらえたような刃だ。

 それがドドンとラザン将軍背中に収まっていた。

「うむ。竜刀だが?。今日はせっかくだから竜を馳走ちそうしようと思ってな。なに、ディーアを見て、そういえば最近竜を食していないなと思い出してな。これはいい機会なのだから歓迎会として竜を食べるかと思いついたわけだ」

 シアを見て竜をって・・・微妙に不敬にあたらんのかね。シアは龍族だけど、竜とは似た種族みたいなものだろう。同族喰いとまではいかないが、龍に竜を食べさせるっていいのだろうか。

「いや将軍、それはディーアに失礼なのでは・・・」

 冷や汗をかきながら言葉を濁すシシールに、シアが言った。


「竜・・・食べたことない。楽しみ」


 目が輝いていた。

 そういや昔、竜の住処を寝床としてた時期があったが、あの時でさえ竜を食べてはいなかった。あたりをちょろちょろしていた大きめのトカゲを食べてしのいでいた。

 シアにとって竜は、まだ未知の食材だったのである。

「あら。ご主人様は食べたことなかったんですの?。あれはいいものですわよ。ちょうど竜特効の包丁もありますし、私も一品作らせてもらおうかしら」

 エステラもやる気のようだ。流石包丁を主武装にしているメイドである。ただし料理の腕はあまり期待できないが。


 本日の王子の護衛担当のシシール以外の一同は、一時間後に再集合しラザン将軍が教えてもらったという近場の竜の住処へ向かうことになった。


「聞いてない!聞いてないぞっ」

「ちょっと!将軍!?、本当にこんなのを相手にするんですかっ」

「ちくしょうっ、やってやるっ。これも鍛錬だっ、秘剣《氷輪》っ」

「将軍っ、見てないで手伝ってくださいよっ」


 ワーワーギャイギャイしているクラウニードとジェフリーの様子を、シアたちはラザン将軍と眺めている。

「わはは。その程度の竜くらい、二人で相手をせんか。わしの若いころなどは竜の暴走なぞ茶飯事だったからな。複数の竜に囲まれるくらいあたりまえだわい」

「死ぬっ、死にますよっ」

「くそっ、手が足りない、将軍口ではなく手を貸してくれっ」

 あたり前と言うが・・・彼らが相手にしているのは竜の中でも別格として恐れられる『黒竜』だ。

 大きな角を生やし、後ろ足で立ち、体は固い外殻にまもられている、そして大あごと牙のならぶ口角をもった肉食恐竜のようなシルエットの竜である。

 ひたすら凶暴。とんでもなく硬い。

 黒竜に狙われたら一目散に逃げることを推奨される危険生物である。

 そんな黒龍が2匹。クラウニードとジェフリーは二人でわーわー言いながら相手していた。


「・・・・・・手伝う?」

「いらんぞ。これは3人の歓迎会なのだから、主賓となるお主らは場が整うまで待っていればよいのだ」

 二人から助力を請う悲鳴が聞こえるが、ラザン将軍はシアの手伝いを断る。

 まぁ、いよいよ危ないとなればラザン将軍が手助けをするのだろうけど。

 うずうず

 ・・・・・・シアはただ単に自分も戦ってみたいだけだった。


「ぐあっ」

「ふむ」

「!」


 クラウニードの叫び声に、シアは目を輝かせる。


「・・・・・・そう言えばディーア殿、護衛騎士はどういった仕事をするか、知っておるか?」

 出番ではないとわかり、シアがしゅん、とする。

「王子を守る。」

「まぁそうなのだが。守ると一概に言ってもいろいろだな。防衛力を高めればいいだけならあのジェフリーのような盾騎士を多く集めればいい。暗殺から身を護るなら毒の知識や耳の良い物、気配に鋭い物をそろえればいい。けれど王子の身の回りには個において戦闘力の高い者が多いと思わんか?」

 シア達を抜いて考えると、ラザン将軍やクラウニードだろうか。シシールは器用貧乏というか、気配に鋭かったり毒の知識を持ってそうだと思う。

「うーん?」

「ふむ。まぁ夜勤組のベイルやオミットと顔合わせもしておらんから、わかりにくかったか」

「将軍もそう?」

「そうだな。わしも一度は軍の総指揮官になったのだが、どうも指揮をするというのが性にあわんでな。前線にでれる配置に変えてもらったのだ。ちょうど第一王子が初陣を飾るというタイミングでな。わしはそのころから王子の護衛騎士をやっておるよ」

 総指揮官だったから”将軍”ってついているのか。今現在は将軍相当の立場にいるわけではないらしい。

 名誉称号みたいなものかな。

「称号・・・総指揮官になれば<将軍>がもらえる・・・」

 いや知らんが。

 そういう狙ってみるかな、みたいな顔はやめなさい。軍が大混乱になるから

「むー」


「わしは特別な例ではあるが、王子の護衛騎士の選び方はある目的のための選び方と言える」

 あ、それはなんとなくわかる。

 シアが呼ばれた原因だな。

「・・・聖剣?」

「『魔王討伐』。それに尽きよう」

 だから守りに特化した護衛ばかりではなく、少数で高い戦闘力を持った者も選ばれているわけか。

「おそらく魔王の誕生を知る前から、王子は自分が魔王と対峙することを想定して護衛を選んでおる。まぁクラウニードやシシール、タルティエは学生のころからの腐れ縁とも言えるがな」

 あー、彼らは学友なのか。年頃は同じくらいだもんな。・・・シシールだけはダークエルフだから齢はわからないけど。


「王子は、なぜ魔王をたおしたいの?」

「ふむ。どう話したモノか・・・。まぁあれではあるな。彼には従弟がいる。その従弟との差を広げる目的であるといえるかな」

 王位継承権の問題か?

「今のディーアハルト王はヴァーダリウス王子の父ではない。前王であった兄、ヴァーレンアイン様の残された子供なのだ。ディーアハルト様は自身の子供ではなく、次の王にヴァーダリウス王子を、と申され、王子の継承権をそのままに王位を継がれた。いわばヴァーダリウス王子が大きくなるまでの仮王として一時的に王位を預かるという立場を取っておられる。が、まぁ貴族の中にはそれで良しとしない者たちもおるからな。そういったことをわかりやすく解決するためにはやはり王となるにふさわしい”偉業”を成し遂げるのがはやいということだ」

 ・・・護衛が手放せない、というのにも関係がありそうだな。

 朝に、夜に護衛を付き従えているのは、王子が暗殺される危険があるためなのだろう。イズワルド王国はこの世界では大国として位置づけられているが、内部はそういったドロドロした思惑であふれているってことか。

「・・・大変なのですわね」

 元王族だったエステラが親身につまされてそう言う。

 というか、そういう危険もあるなら護衛騎士になったときに教えといてほしいものだけど。

 魔王を倒すまでの一時的な護衛として採用されたから、それ以外の情報はいらないということなのかな。

「護衛騎士の仕事・・・」

「うむ。悪意を持って近づいてくる者からも守るのが、我ら護衛騎士の仕事でもある。覚えておいてほしい」

「ん。」


 さて、そんな”護衛騎士”のあれこれを教わっている間も、クラウニードとジェフリーの戦いは続いていた。

「おいっ、おいじじいっ、ちょっとは手伝えこらぁ!」

「だめっ、だめだっ、ひいぃぃっ!ぎゃああぁ!」


「・・・そろそろまずそうですわよ」

「ですね。手伝いましょうか?」

「ん。」

「そうだな。そろそろこのじじいも運動しておくか」

 どれ、とラザン将軍が腰を上げる。

 次いであたりまえのように腰をあげようとするシアに将軍は心配ない、と手をあげて制した。

「わしだけで大丈夫だ。みているが良い」

 シアは絶望した。

 ひざから崩れ落ちるシアを背に、ラザン将軍は二匹の黒竜の前にたった。

「クラウニード、ジェフリー。見ておれ、黒竜の相手とはこうやるのだ」

 竜は将軍を警戒してか、一匹が将軍へと突進してきた。

「いい突進だ。だが・・・!」

 ラザン将軍はひらりと避けると方向転換で突進の速度を落とした黒竜の背中に持っていたタルを投げつけた。

 バシャンとタルがこわれ、中の液体が黒龍の外殻にかかる。少し黒みがかった液体。これは――?。

「《火矢フレイムアロー》っ」

 ごぅっ

 と黒竜が燃えた。尋常ではない燃え方だ。引火物がなければこんな速度での炎上はありえない。さっきの液体は油かガソリンってことか。


「わはははははははははっ、これぞ黒竜の包み焼だっ」


 竜がのたうち回っている。地面を転げまわり、体の火を消そうとやっきになっている。

 けれどラザン将軍が次々にタルを投げ込み、火は絶えることなく燃え続けた。


 ぎょえぴいぃぃぃぃぃーーーー・・・っ


 悲壮な鳴き声を残し、黒竜二匹は丸焼けになった。

 火は燃え続け、しばらくして黒煙だけを残して消えていく。

「そんなばかな・・・。あれだけ苦労した黒竜が・・・・・・はぁ」

「ははは・・・はぁ・・・」


「うむ。できたな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 にこやかなラザン将軍の後ろでずっと戦わされていたクラウニードとジェフリーが肩で息をしながら不満そうにしている。

「・・・・・・こんな・・・方法があるなら、もっと早くにやって、ほしかったですね・・・」

「はぁ、はぁ・・・ほんとにな」

 ラザンは武器を持ってきた巨大包丁に持ち替え、黒竜の体に突き立てながら答えた。

「おろかもの。お主らの協力がなければこれほどの手際はこなせなかったのだぞ。ただ油タルを投げればどの魔物もこんな簡単に焼き殺せると思うのかっ」

「・・・違うのか?」

「違う。まず、この黒竜という生物は外殻に覆われている。この外殻は鋼のように重く、硬い。ならばこれを潤滑に動かすためには何が必要だ?」

「・・・筋肉か?」

「『油』だ。この黒竜は汗の中に、油をいっしょに混ぜて体になじませておる」

 運動すればするほど潤滑油が体を覆うってことか。

「油自体は引火しやすいものではないがな。こうやって長く火で熱してやるとその油も高温になり、中までじっくり焼くことができるのだ。しかもその油はこのあたりに生える植物の葉から採れる。黒龍は葉を食べ、その油を体の外にまぶしてゆく。この植物の油というのが、またおもしろい香りのある油でな。それを己の硬い外殻でつつみ、香りを逃さずに焼くことによって――・・・」


 ラザン将軍は切り出した肉の一部を、座り込んでいる二人に差し出した。

「ほれ。食べて見よ」

 二人はしばらく困惑していたが、どちらからともなくその肉に手を伸ばした。

「・・・・・・・・・・・・うま」

「・・・・・・なんですかこれ。おいしい。・・・・・・でもちょっと塩気がほしいかな」

 もしゃもしゃと、おいしそうに食べ始めたのをみてラザン将軍が満足そうにうなずく。


「うむ。では本格的にはじめるか。準備するのでそこの3人はちと周囲の警戒をしていてくれ」

「わかりましたわ」

「楽しみですね」

「ん。・・・あじみ」

 シアはエステラに首根っこをつかまれてひきずられていく。

 竜の生息域ではあるが、そんなに頻繁に竜が現れるわけでもなく、警戒といってもあまりやることが無かった。

「竜・・・」

 シアはまだ黒竜との戦闘に未練があるようだったが、他の二人はすでに今日の食事へと思考がうつっていた。

「どのような味かしらね」

「植物油で味付けられてるとのことですから、さっぱり目なのかもしれません。エステラさんが作るとしたらどんな料理にする予定ですか?」

「そうね・・・、予定では煮込んで柔らかくするつもりだったけれど、包み焼のせいで柔らかいみたいだし、どうしようかしら」

 ナベを持ってきたエスレラだったが、少し予定を変更するかどうか悩んでいた。

「別にもっと柔らかくしたっていいと思いますよ。それに肉をメインに食べた後、スープで口を休ませるのはとてもいいと思います」

「そう?」

「はい」

「ならそれでいっか。・・・ちょっと先に準備をはじめさせてもらうわね」


 エステラは料理をしに自分の荷物を取りに行ってしまう。

 残されたシアとディーアは雑に警戒しながら、黒竜のことを話題にしていた。

「主様、黒竜は確かに凶悪な生き物ですが、所詮生き物の域を外れることはありませんよ。主様が戦いたい、というほどの手ごわさはないように思いました」

「・・・・・・そうかな」

「えぇ。クラウニードさんとジェフリーさんが2匹をおさえられたのも、戦闘方法や行動の思考が単純だからです。スキル、魔術を使う種族に比べると、どうしても見劣りしますね」

 角、牙、シッポ、体当たりと、攻撃方法は複数あるけれども、どれも来るとわかってしまえば対処ができるものばかりだ。

 何が飛び出して来るかわからない対人戦闘とは違うということらしい。

「そう・・・かも。わたしが手をくだすまでもなかった・・・」

「ふふ、そうですよ」

 まぁ、それでいいならいいか。

 ともあれ、そんなこんなで料理ができたのでさっきの場所へと戻ると、山のような肉と気持ちばかりの生野菜、そしてエステラが作ったのであろうスープが用意されていた。

 男連中の所には酒が、そして女子の席の所には果実水らしきものがおかれていた。


「そろったな。では、新たな仲間の来訪を祝って・・・乾杯!」

「乾杯」

「みんなようこそ。乾杯!」

「ありがとうございます」

「よろしくお願いしますね」

「んっ。」

 よろしくー

 あいさつもそこそこに歓迎会が始まる。

 つまみは肉。

 肉のお供に肉を食べる。

 肉を飲み物で流し込み、そしてまた肉を貪る。

 肉しかない。

 ・・・肉しかないが・・・

「おいしいっ」

「こんな肉ははじめてですねっ」

「おー。・・・・・・おー。」

 みんな十分満足そうだ。

 どんな味なのか気にならない、と言えばウソになる。

 けれどオレには、シアがおいしそうに肉を貪っている姿を見れるだけで十分満足だった。

 新しい仲間。

 彼らがシアにとって良き仲間であることを祈る。

 新しい居場所になれることを祈る。

 オレの言葉は聞こえないだろうけれども。どうか、よろしく。



 余った肉は馬車の荷台にくくりつけ、陣営の物資管理部に預けられた。

 管理部の兵士が驚いていたが、すぐに大量の肉に歓喜の声をあげるあたり、みんな肉が好きなのだろう。

 日々運動する成人男性が多いから肉の需要は高い。

 これでしばらくは肉に困らない食事が続くだろう。


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