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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
150/222

東の王子と勇者候補1


『あれー、館の周りに人がいっぱいいるよ。なんだろうね、兵士君の仲間が援軍を引き連れてやってきたのかな?』

 街に戻ってきたシア達は館の周りを大きく旋回する。

 確かに館の入り口に騎馬に乗った兵士が多数。その後ろにも歩兵をひきつれた兵士たちで道があふれていた。

 みんながこちらを見上げ、指をさしたり手を振ってきたりしている。

 あの恰好・・・・・・グラッテン王国の兵隊服じゃないな。他の2国のどちらかだろう。魔族の強襲にあったから、救援にきてくれたのだろう。

『館におりていいかな。いいよね。もういっそ彼らの目の前に降りちゃう?』

「ん。降ろして」

 門の目の前に降下し、一度上昇する。速度が落ちた瞬間にシアがアクリアの背から飛び降りた。

 兵士たちからどよめきが起きる。

 あ、そういや熟練度稼ぐために《龍変化》したままだった。

 シアには漆黒の衝角としっぽが生えている。

「龍だ・・・」

「龍様」

「おぉ、これが、神の使徒か・・・」

 龍を見慣れてはいないからだろう、兵士たちはおどろきの表情でシアを見ていた。


 シア、そしてさくっと変身してきた人の姿のアクリアと、アクリアにお姫様抱っこされたエステラがいる。

「ん。・・・何か、用?」

 門扉には対応をしていたらしいエイハムがいた。苦々しい顔をしてこちらを見ている。

 シアはその横を通り、門扉ごしに騎乗している兵士たちに声をかけた。

 兵士の中から一人、一番豪華な外套を羽織った男が騎馬から降りてシアの前に歩いてきた。

 そしてシアの前にひざをつき、頭を垂れる。

「私はイズワルド王国、第一王子ヴァーダリウス・イズワルド・コルドライア。お初にお目にかかります、龍の方よ」

「・・・その第一王子が、ここに何をしにいらしたの?」

 シアはこころもち貴族対応モードにチェンジしたらしい。グラッテリアの学園以来だ。

「こちらに聖剣の祝福を受けた勇者候補がいると聞きました。けれどそのせいで魔族の襲撃を受けたことも。・・・勇者候補の安全は、私たちがお守りいたします。ぜひとも、勇者候補を我々に預けていただきたい」

「話はわかった。返答にはしばらく時間がかかるから。お待ちいただいてよろしい?」

「いえ、こちらから改めて話をする人員を送ります。その時に返事を聞かせてもらいますよ」

 王子はそう言って踵を返すと、彼の部下が待機させていた騎馬に乗り、道を去ってゆく。

 けれど館を囲む兵士たちはそのままだ。

 どうやら場合によっては力ずくでもことを起こすというつもりらしい。

 ”聖剣”さえ手に入れられれば、持つ人間は誰でもいいということだろう。

 これはまた、やっかいな話になりそうだぞ。




 相手が使者を送って来るまでは時間ができたことになる。

 みんなは館の一室に集まり、事の起こりから何があったかを確認しあう。

 参加者はシア、エステラ、アクリア、そしてエイハムとディー、ディーアの爺孫、それから館の主のロウ・S・ジェラルダスと、彼の執事長の8人だ。

 応接室に椅子を持ち込み、適当に車座になって各自の報告を聞いた。

 ・・・・・・というか、まずシアに生えた角としっぽのことを聞かれた。

「アクリアが龍に変化するのと同じ」

 かなりいい加減な説明だが、そういうことだ。一応はそれで納得してもらった。


 さて、シアたちがいなかった間の話を聞くことにした。

「喧嘩しなかった?」

 ディーとディーア、それからエイハムに向けての質問だ。

「うむ」

「していませんよ」

「・・・・・・個人的に思う所がないわけではないが、だからと言って行動に起こすかは別のことだ。彼らが君の味方になるというのなら、私もそのように対応する」

 エイハムが理性的であってくれてよかった。流石は元風紀委員長。感情よりもルールを優先する男だ。

「ん。それならいい。それじゃ、一番の問題」

 あの王子は何をしに来たのか。


「何の連絡もよこさず、今日突然現れましたな」

 と言うのはジェラルダス家の執事長だ。王子相手でも礼儀がなっていないことに不満があるようだ。

 ”御子”一族は貴族、王族とはまた別の組織だ。必ずしも王族だからといってかしずかなくてはいけないわけではない。

 むしろ館に”龍”がいる今、頭を下げるのは王族の方であるらしい。

「そもそも他国の王族にどこまでへりくだっていいのかわかりませんわね・・・」

 今は国土が安定しておらず、そのためにグラッテン王国の土地にイズワルド王国やネメリア王国といった他国の戦力を入れて魔族軍に対応しているのだ。

 イズワルドを怒らせてもいいのか、同盟軍としての立場としてはどういう扱いがいいのだろうか。

「同盟軍は、イズワルド王国が5、グラッテン王国が3ネメリア王国が2といった割合だ。イズワルドは自国も魔族領に接しているからそちらにも戦力を割かねばならない。それでもこちらに相当の戦力を割いてくれているのは、おそらく戦争後のことも考えてだろう」

「戦争後?」

「グラッテン王国が戦後の復興に時間がかかるようなら、多くの貸付金をさせて利益を得ることができる。もしくは、国力が弱っている所を一気に攻めてグラッテン王国を乗っ取ることもできるな。そのための地理を把握されてもいるだろう」

 まぁ、今のグラッテンでは他国のなすがままだろう。他国の第一王子が国のこんなところにまでやってこれてしまうのが悲しいところだ。

 イズワルドを自由にしたくはないが、それをさせないための戦力がグラッテンにはない。

「ということは、イズワルドを持ちあげつつ、こちらのいいように動いてもらう方がいいのですわね」

「そうだな。それができればありがたい」

 軍属としての意見だった。

 龍としてはどうなんだ?、もしイズワルドに戦争参加を願われたら手伝ってやるのか?

「ん?、私?戦争には参加しないかなー。それは、一方的な殺戮になっちゃうからね。しっかりとした理由でもないとそんな大人げないことはしないよ」

 あの第一王子は龍に会いに来たわけではなさそうだからいいか。


 問題は聖剣と勇者の二点。

「聖剣ですわね・・・」

「勇者候補をどうするか、だな」

 聖剣は壊れている。壊れてオレの中にある。

 この情報がイズワルドに流れているのかどうかだが・・・

「知っている、と考えるべきだな。君が私たちの目の前で聖剣を持つ勇者候補である、と表明したときに、イズワルド王国の部隊長もその場にいたはずだ。ならば、情報は渡っていると考えて準備をしよう」

 めんどうな。

 同盟軍のお偉いさんがいる場で聖剣を持っている勇者候補ですって言い出したのは誰だっけ?エステラだな。

「金の目をした黒髪の少女ですわね。そして気持ち悪い武器を持っている。そんな感じの情報が知られているのではないかしら」

「・・・あぁ」

 シアを見る。気持ち悪い、と言われてちょっとむくれている。

 しかしシアのことを”龍”だと勘違いしていた様子だった。

 となると、詳しい勇者候補の情報は持っていない可能性が高い。


「・・・・・・うむ」

 ディー・ロームが何かを言った。

 ディーアは驚いた顔で祖父を見つめている。

「・・・・・・あの、もしかすると私なら、シア様の変わりができるのではないかと、おじい様が言っています」

 かわり・・・。

 みんなの視線がディーアに向けられる。


 薄茶色の瞳にダークブラウンの髪、武器はないが、黒くて長いロッドを使っていると言う。ディーと違って耳も長くないし、魔族的な特徴はほとんど見られない。年齢的には・・・まぁ10代半ばと言えなくもない。

 少し髪を染めて片目に黒いコンタクトレンズでも入れれば騙せなくはなさそうだ。・・・いや、目はやめておくか。シアが王子と会った時にそのままだったから、同じようなキャラが2人いると怪しまれる。最初からこうでした、というつもりで目はそのままにすればいけるかもしれない。

 ともあれ、偽装は可能だろう。

 イズワルドが欲しいのが”聖剣”なのか、勇者候補なのかわからない今、シアをそのまま引き渡すのは危険すぎる。

 だから身代わりを立てようと言うことだ。

 けれど、もしイズワルドが”聖剣”が欲しかった場合・・・身代わりは殺される可能性がある。

「死ぬかもしれませんわよ」

「ええ、まぁ。けれど自分の主を危険にさらせませんから。それくらいの覚悟は軍に協力することになったときに、してきていますよ」

 そう言って力なく笑う。

 シアに対して忠誠心なんてまだ芽生えてないだろう。けれどシアの代わりをやると言う。

「なら、私だってやりますわよ。あなたよりはきちんとやってみせますわ」

 張り合って言い出したエステラだったが、エステラの姿はさっき王子に見られている。

 印象的な銀髪だし、シアの身代わりをするのは無理だと思う。

「ん。・・・なら、私がディーアを守る」

 シアはそう宣言した。


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