スキルためしてみた
城から白い足場に乗って湖の岸辺に到着する。
「んー。終わった終わったー。後は夏になったら水龍に会いにいけば完了だねー。さぁて、それじゃこの後はどうしよっか。シアちゃんが見たっていう、黒い死体を確認するのでいいかな?」
「んー・・・、その前に、スキルを使ってみたい」
シアはそう言うと、新しくなった三つのスキルのことを説明した。
闇無効、《龍力》、《龍変化》。
シアが試してみたいと言うのは《龍変化》のことだ。
「龍が人間に変身できるスキルだね。変身中は筋力・耐久・魔力のステータスが半分になるから注意しなくちゃいけない。でも代わりに器用・感覚・速度が上がるから必要に応じて使い分けかな」
なるほど。寒さに敏感になるのは感覚によるところが大きいのか。
味覚や臭覚もかな。
器用さもあがるとなると、聖龍が人間形態でいたのにも納得がいく。もの作りは龍の姿ではしにくいだろう。
ただ、速度はどうなんだろう。早くなっても体が小さくなるせいで、実際の移動距離は短くなる。大きさそのままで、ということであれば別なんだろうけども。
何にせよ、使ってみなければわからない。
「クールタイム・・・準備時間は?」
「それは一日だよ。どれだけスキル進化しても、それだけは変わらないね」
進化とはなんだ!
先生、スキル進化について教えてください!
「進化とは」
「スキルの練度を一定まで上げたとき、練度が0になる代わりに新しく強化されることだね。内発系スキルに多いかな。進化する内発系は効果が高くなったり効果時間が上がったりするよ。《龍変化》と《龍力》はどっちも準備時間は一日だけど、進化で効果時間が伸びるスキルだね。10回くらい進化させられれば、一月くらい変身しっぱなしになれるよ。あぁっと、もちろん変身中に戻りたくなったらまた変身するか、《失力》すればもどれるから安心だね」
10回スキル進化とか・・・何年かかるお話なのやら。
流石1000年単位で物事を計る存在だ。
おそらく《竜力》が《龍力》になったのもスキル進化だろう。《鑑定眼》の性能があがるらしいのもスキル進化だと思う。
さて、いろいろと教えてもらったことだし、実際に使ってみよう。
「ん。・・・ここで大丈夫?」
「ここでかー、・・・変身した後の、大きさの問題だよね?」
シアが頷く。
もしシアが黒龍に変身できるのであれば、その大きさはかなり大きくなるのではないかと思う。
黒龍のディアドリカ・D・ファフニールはアクリアの5倍くらいの大きさがあった。
シアが同じ大きさだとすると、浮島であるこの島が体重で傾いてしまうかもしれない。
「そうだなー、それじゃぁちょっと下に降りて試そっか」
アクリアの翼で地表に降りる。
下は冬の景色が広がっていた。城の中庭は緑が茂っていたのだけれど、ここには葉を落とした裸の木々ばかりだった。
シアも同じように着ている物を脱ぎ、体を覆うマントのみになる。
「よし、それじゃぁ使ってみようか。大丈夫、最初の効果時間は短いから、すぐに変身が解けると思うよ。体が変わる違和感に気持ちを振り回されないようにね」
「ん。・・・やる」
シアはアクリアとエステラから距離をとる。
一つ息を吐いた後つぶやいた。
「《龍変化》」
スキルの発動により、シアの体に変化が現れる。
体を走る新しい感覚、神経が先へ、先へと育っていく。シアは体の育つ違和感につらそうな声をもらす。
「ぐ・・・あっ、は、く・・・あ・・・あぁっ・・・」
シアのお尻から黒い甲殻に覆われた新たな器官が生える。シアの額から漆黒に濡れる衝角が伸びる。
そして―――それだけだった。
シアの大きさは変わらない。
しっぽと角が生えただけでシアの変化は完了してしまった。
これがシアの《龍変化》
将来的にはどうなるかわからない。けれどこれが今のシアだ。
「・・・・・・ちっさい。」
そうだな。
劇的な変化は無かったか。ひとまずステータスを見てみるか。
筋力 92(46)
耐久 52(26)
器用 14(27)
感覚 12(23)
知力 20
魔力 58(29)
魅力 20
速度 16(31)
・・・なるほど。筋力・耐久・魔力が2倍。器用・感覚・速度が1/2減少か。減少量に対して増加量が多いな。というか、変化っていうのは主能力が変わるのか。
いままで内発系の魔術を使ってもステータスに変化はなかった。《筋力+》の特殊輝石を装備していても同じだ。
けれど、《龍変化》だと変わる。・・・人ではない、完全に別のモノということだろうか。”龍”になっている間は龍特効攻撃なんかには弱いのかもしれない。
ふむむ。
「・・・・・・いやー・・・この変化は予想できなかったなー。ほとんど人じゃん。龍になれなかったのかな。ステータスに変化はない?」
「変わってる」
「うーん・・・龍になるための素材が足りなかったのかなー。まぁ変わってるならいいかな。後はどこまで龍の能力を持ってるかだけど・・・ちょっと移動しようか」
アクリアはそう言って”龍”になり、シアとエステラを手でつかんで飛翔した。
「おお・・・」
「今度は何ですの・・・」
再び浮島にあがり、湖の上で翼を羽ばたかせる。
『それじゃ、離すよー』
「は?」
手が開く。
湖に二人はまっすぐに落ちて行く。
・・・って、落とすのかよっ
「何で私まで!?」
「んー」
ばしゃんと湖面に波紋があがる。
二人は水を掻きながら浮上する。
「まったく、何を・・・あら」
エステラが城の方を見上げている。
キラキラと、城から何かがきらめきながら飛んできている。・・・――矢と、魔術だっ
「エステラっ」
「え、えぇ、逃げますわよっ」
二人は大急ぎで湖岸へと泳ぎ出す。
「にょおおおおおぉぉぉぉおおっ」
「んんっ、あいたっ、あいたっ、んん~、いたっ」
エステラの後を泳ぎながらシアが矢やら氷の魔術やらを手で払い落としている。・・・硬いな。異常に硬い。
シアの体にもそれらの攻撃が降ってきているが、一本も刺さらない。
肌の柔らかさまで失われているわけではなさそうだが、シアの体は降って来るあれやこれやを水面に落としておきざりにしていた。
これが”龍”・・・いや、”黒龍”の能力か。
硬い甲殻を持つ黒龍。その高耐久の能力が、今のシアにも与えられている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思いましたわ・・・」
岸につく頃には城から飛んでくる攻撃がやんでいた。
自動発動で迎撃する機能らしい。
城から離れれば安全なのだ。
「あ・・・」
ふよふよふよ・・・と、しぼむ感じでシアに生えていたしっぽと角が小さくなって消えて行った。
効果時間は600秒。
ステータスは元にもどっている。柔らかさは・・・流石に試せないが。
ひとまずスキルの確認はできた。
「シアちゃーん、どうだった?。龍変化、堪能してきた?」
ニコニコとアクリアが人の姿で寄って来る。
こいつめ・・・湖に落としやがって。もし二人に何かあればどうするつもりだったのやら。
「・・・・・・ん。」
あきらめの溜め息と共に返事が漏れ出ていた。
・・・まぁ、無事だったからいいけど。
ともあれ、《龍変化》を使えば強く、硬く、魔術がすごくなるのか。そうなるとステータスの主能力値が大きく反映される攻撃スキルが欲しいな。
「パパ・・・硬くなれる」
ん?硬くなるのがどうした?
「矢も通りませんでしたものね・・・」
「ん。」
・・・もしかして防御術か?カウンタースキルだが、筋力ではなく、耐久がモノをいうのかもしれない。・・・・・・いやいや、防御術はシアじゃなく、オレのスキルだ。シアの硬さは関係ないだろう。
「・・・・・・『耐久』と『耐性』をあげられる」
そうか。上げ方のわからなかった耐久をあげるのに使えるな。それから耐性か。さっきの城からの攻撃では何も耐性を得られなかったが、あれを続けていれば《突耐性》と《氷耐性》は得られたかもしれない。・・・・・・うん。クールタイムがあけるのは一日後か・・・。
「うふふー、私の協力がいるのかな?。また安全装置を解除して体を鍛えたくなっちゃったのかなー?」
《竜力》を無理やり100にした時のようにか。・・・・・・少し魅力的だけど、流石にあの苦労をもう一回、というのは心がすり減る。
「・・・ちょっとだけ、やりたい」
・・・・・・
「・・・・・・ご主人様、被虐趣味があったのですね」
オレの娘を変態扱いするな。
さて、アクリアのクールタイム消失スキルによってシアは《龍力》、《龍変化》をフルで使い続けられるようになった。
一時間後。
「ですので、もう二度と、このようなことはなさらないでくださいねっ」
「はい。」
「申し訳ありませんわ」
「てへへー」
ひたすら城から降って来る雨あられを一身に受ける修行(?)をしていたところ、城から御子の男性がやってきて叱られることになってしまった。
城に貯めていた防衛用の矢と魔素の備蓄が大きく減ってしまったらしい。
さもありなん。
本当に申し訳ない。
が、
得られるものもあった。
・耐久28(26)
・突耐性5(新規)
・氷耐性2(新規)
どうやら氷の矢の魔術も『突耐性』に加算されるらしく、突耐性の伸びが良かった。
一時間でこの数値かー・・・魔素を供給するので氷の矢だけでも降らせ続けてくれないものだろうか。100時間くらい漬かっていたい。
まぁしかたない。またここに寄ることがあればちょこちょこ利用させてもらおう、ぐへへ(鬼畜)
実際にやってみて、《龍変化》は耐久性を伸ばすのにすごくいいことがわかった。
時間があればいろいろ試してみたい。
長くお世話になった聖龍の浮島を離れ、太陽を追いかけるように空を駆ける。
――グラッテン王国、旧首都グラッテリアへ。
「へぇ・・・これがエステラちゃんの言っていた、石化してしまった人たちかぁ。お城の舞踏会一つ丸ごと石化って、そりゃまたとんでもない能力があったものだね。聖剣にも匹敵する威力じゃないかなぁ。・・・失われてしまったのが悲しいね」
エステラが言うことには、彼女のお姉さんの固有スキルであったらしい。魔物の特殊スキルを複製し、使うまで保存しておけるスキル。
範囲、そして効果を考えれば、確かに聖剣に比類する性能だろう。
けれどそのお姉さんはいったいどのようなつもりでこの能力を保存していたのだろうか。
使えば自分まで石化してしまうとは・・・。
それとも効果範囲を自分で設定できるスキルだったんだろうか。
今となっては謎のままだ。
シア、エステラ、アクリアは宝物庫にやってきた。
前に来た時と同じで何もない、まっさらな部屋だ。
「ん。こっち」
シアはまっすぐに宝物庫の中ほどへ歩いていき、白い床を操作し、隠し扉を開ける。
「これ」
「これですわ」
ほとんど元の形を残していないボロボロの縄で拘束されていたらしい、黒いミイラがあった。
アクリアはそれをじっくりと見分する。
「・・・・・・うん。悪魔だと思うな。こんなカピカピになった姿は見たことなかったけど、私の知ってる特徴と同じだよ」
そうか・・・。やっぱり悪魔だったか。
これが”龍”が殲滅した、”邪”の眷属か。
「悪魔・・・」
「そうだね。さぁて、シアちゃん。”龍”の役割を覚えてるかな」
アクリアがシアに問う。
「・・・ん。神の”掟”を守り、守らせる」
「そうだね。そして悪魔はその”掟”を変える力がある。だから消去しなくちゃいけない。それも、私たち”龍”の仕事」
「ん。」
そうだ。”龍”、正確には”龍族”には役割がある。世界を形作る”掟”を守り、世界が揺らがないようにすること。
そのために”龍族”になると一つの能力を獲得できる。
「・・・”龍”は昇位すると、”悪魔”を消去できるようになる」
「そうそう。悪魔はしぶとくてね、私たちや聖剣でもないと完全に滅ぼせないからね。それじゃ、やってみようか、シアちゃん」
コクリとうなづいてシアはオレを構える。
そして特に何の逡巡もなく、シアは黒いミイラの胸にオレを刺した。
ミイラは、刺した場所から黒い灰になってサラサラと崩れ――消えて行った。
「あっけないですわね」
「ん。私もできるってことを、確認できた」
シアにもきちんと”悪魔”を消去する能力があることがわかった。
今の世界では”悪魔”は新しく生まれていない。だから、もしシアが役割をこなそうとしたら、こういった見つけにくい場所に埋もれている死体なんかを探して滅ぼしていくことになる。
そして、その中の一体として”魔王”がいるのかもしれない。
「よし、終わった終わった。これ一体だけかな。それじゃ、帰ろっか。流石に新しい配下をほっぽり出したままっていうのはかわいそうだからね、さっさと帰ってかまってあげないとね」
「ん。」
そうだった。
エイハムといっしょに館に置いてきたからなぁ・・・殺し合いとか初めていなければいいけれど。
魔将の二人はエイハムの部下を殺している。軍属としての敵と味方のことだから割り切ってくれていればいいが、仲間のかたきを討つのだ、と言い出したらすぐ行動にうつしそうだからなぁ。
早く帰って安否を確認しよう。
「・・・ん。」