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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
145/222

魔将2


 頭上からは火球が降って来る。周りの館の屋根、庭、玄関と適当に降らせていることがわかる。

 近くの館にも落ちてきた。大きな爆発音と、・・・人の悲鳴。そして火が燃える音が聞こえる。

「逃げていない人もいるのですか」

「自分の館の守りを厳重にしていれば、蚊帳の外でいられると思う住人も多いだろう。自分たち貴族に手当たり次第に喧嘩を吹っ掛ける相手がいるとは考えなかったらしいな」

 どこかの貴族が家のごたごたで襲撃されている、と思われていたならそうなるか。

「街が・・・」

「まずいですわね」

 思ったより被害が多くなるぞ。

 火事によって少しずつ辺りが明るくなりはじめる。

 シアのせいとは言わないが、人間の街などどうなろうと知ったことじゃない敵が相手だ。どこまで街を破壊するのかわからない。


「エステラ」

 シアがエステラに声を掛け、合図をする。

「いいのですね?」

「待て、もう少し待て。ザックがアレを誘導しはじめるはずだ」

 エイハムはザックに指示を出していたけれど、そのザックはどんな方法で誘導をするつもりなんだろうか。

「・・・奴は信号用に光矢を放てる弓を持っている。光の攻撃なら、相手が喰いついてくるはずだ」

 なるほど。

 ということは、矢よりも威力の高い《雷光》であれば、もっと喰いついてくるはずだな?。

「エステラ。やって」

「えぇ、いきますわよっ・・・《雷光スパークレイ》!」

 方陣から放たれた光の雷が中空の大岩にあたる。

 二発、三発と岩への攻撃をすると、どうやら完全にこちらを標的だと理解したらしく、火球がすべてこっちに落ちてくるようになった。

「ひゃぁ、やっぱり、こうなりますわよねっ」

「ん。・・・《魔素喰いグラトニー》」

 シアのMP吸収フィールドに吸い込まれるように火球が投げ込まれる。

 何発も、何発も火球が爆発することなく地表で消える様子を見て、相手も理解したらしい。火球が降ってこなくなった。

「エイハム、グリフォン」

 シアはエイハムにグリフォンを見つけてくるように言った。

 空中戦を仕掛けるってことだ。

「・・・・・・ただの移動用飛行騎馬は戦闘させられないぞ。戦闘に使っても逃げ出さないように訓練したものでなければ無理だ」

 ・・・・・・そう言われるとそうだ。

 自分の近くに魔術や刃物が飛び交うのだ。魔物だって命が大事なのだから、騎乗主を放り出して逃げてしまうだろう。

「・・・・・・。ん。逃げよう」

 結局逃げることにしたらしい。

 が、相手もこちらを見逃すようなことはしないらしい。火球の代わりに大量の氷矢が降って来るようになった。


「ひえええぇ、まずいですわ、まずいですわっ」

 シアが《魔素喰い》を設置するが、設置した吸収フィールドを氷の矢が通過してくる。氷自体は物質なので魔素だけ吸収しても攻撃が消えないのだ。

「行くぞっ、ひとまず城壁の通用門まで行けば頭上からの攻撃をしのげるだろうっ」

 3人が物陰に隠れながら逃げ出す。

 けれど門に向かっていることに気がついているのか、すでに門の上の部分を火球で壊し始めていた。

「・・・まずい、本格的に逃げ場がなくなってきたぞ」

 エイハムから弱音が聞こえてきた。もしかすると本当にまずい状況になっているのかもしれない。

「エステラ、魔素は?」

「まだ回復していませんわ。《雷光》なら、あと3発で打ち止めですわね」

 城門から大きな音が響いた。

 どうやら門の一部が破壊され崩れたらしい。逃げ込める先を失ったわけだ。

 シア達は別の通用門の方へと方向転換を始める。道をジグザグに移動しながら今度は街の東へと進んでいく。

「まだ追いかけてきますわ。いったいどれほど魔素を持っているのかしらっ」

 確かにとんでもない量だ。

 これまでの攻撃を考えれば、それは戦場で使われる一日の魔素量と同程度の火力になるだろう。

「かなりのポーションを使っているだろうな。・・・相手にそれだけ払わせたのだ。このまま見逃してはくれなさそうだな」

 けれどそれはこのまま逃げ続けていれば、いつかは魔素が尽きるということだ。・・・こっちの体力の方が先に尽きそうだが。

 特にエステラがばてはじめている。

 熱でさっきまで倒れていたシアの方がまだ元気だった。

「ひぃ、ひぃ、もう、そろそろ、どうにかなってしまいますわっ」

 いっそエステラを置いていくか?狙われているのはシアだろうから、それが相手にわかるようにできればエステラを置いて行っても狙われないだろう。

 えーと。・・・だめか。シアが聖剣を持っていることがわかる《ノコギリ草》はクールタイムがまだかなりある。他に方法がないのだから、シアもエステラもエイハムも、みんな狙われることになる。

「・・・3方向なら。」

 3人がみんな分かれて敵の攻撃を分散させるのか。

 あまりいい作戦とは思えない。もしエステラが変な献身を考えた場合、最初に狙われるのはエステラになる。オレは嫌だ。

「・・・ん。ごめんなさい」

 いや、いい。オレも作戦が浮かばないもんな。

 けれどこれでは時間の問題だ。

 氷の矢にくしざしにされてしまう。


 ドンッ、っと音がして道の先に巨大な氷の塊が落ちていた。

 ドンッ、ドンッ、と後ろ、右へ曲がる道にも塊が落ちる。

 しまった、逃げ道をふさぎに来たかっ。

 少し広範囲の道々に、行く手をふさぐように巨大な氷の塊が降っていく。

 シアはオレを振りかぶり、すぐ横に建っている建物の壁をコの字型に切断し始める。

 やばいやばいやばいっ

 ここは庭もない、建物ばかりに囲まれた細道の場所だ。道をふさがれたら家の壁を壊さない限り行き場がなくなってしまう。

 だめだ、シア避けろっ

 オレの合図でシアがその場を飛びのいた。その次の瞬間、シアがいた場所と壊しにかかっていた壁に無数の氷の矢が着弾し、その場所を氷で覆いはじめる。

 くそっ、逃げ道をつぶされたかっ

 相手はこっちの行動を予測して手をうってきている。まずい、どうする、何か、何か方法は・・・!

 けれど何も思い浮かばない。

 あぁ、これはどうしようも―――

 ない、と。

 あきらめようとした瞬間、空に一本、真横に岩塊を貫く青緑の光線が見えた。

 景色から遅れて、ドオオォオンという轟音が鳴り響き、路地を突風が吹き抜ける。

 風に目を閉じてしまうが、再び目を開けたときには空に浮いていた岩塊がいくつもの破片になって落下していくところが見えた。

 ・・・・・・わーお、すげー・・・

 こんなことができる知り合いは3人くらいしか知らない。

 緑のと、黒いのと、赤いのだ。


 バサリという音と共に、オレたちの頭上に巨大な緑の龍が現れた。

『やぁやぁ、お助けおねえさんだよ。シアちゃんをいじめてたみたいだからやっちゃった。いいよね?』

「ん。助かった」

 シアがお礼を言うと、少しくすぐったそうにアクリアが体をくねらせた。

『んふふー、本当は属性種族にあんまり手は出しちゃだめなんだけどね。石だけ狙ったからいいよね。死んじゃったら運が悪いだけだから、そういうことにしておこう。とまぁ、そんなわけで、お姉ちゃん薬草を採ってきたんだけどさ、シアちゃんはもう体調平気そうだね』

 属性種族?石?まてまて、どういうことだ。

 属性種族ってのは、あれか。星神が創った種族ってことだな?。逆が無属性、もしくは邪属性って言われる悪魔とかのことか。オレも邪属性らしいから龍には逆らわないでおこう、うん。

 石を壊したってことは、上に乗って操作していた魔族は生きてるってことか。落下で死んでいればいいが、あんな魔術を使う魔族なら落下の衝撃を抑える魔術も持っているかもしれない。

 確認に行きたいけどどこに落ちたのかわからないからなぁ。目をつぶっていたのがくやまれる。だいたいの方向はわかるんだけども。

「・・・・・・ん。体調は、大分よくなってきたから。アクリア、ありがとう」

『どーいたしまして。さて、じゃぁどうしよっか。なんか一方的に攻撃されてたみたいだけど、もういいのかな。用事が終わったならお姉ちゃんと他の龍の所を廻ってみようか』

 用事ではないけどな。

 面会予約も紹介状も持っていない、不届きな襲撃者だった。

「少し待って。私のせいで街が壊されたから、街の安全を確認したい」

『わかったよ。うーん、そうだなー、病み上がりみたいだから私もシアちゃんについていこうかな。いいよね』

 と言うと、返事を待たずにアクリアは人間サイズに変身した。

 いつもの一枚服を着てやぁやぁと挨拶をした後、寒さに震え出した。

「うぅ、寒い寒い。早く用事すませちゃってよ」

 裸足じゃなぁ・・・。


 さて、4人は警戒しながら岩塊の壊れたと思われる場所に移動していく。

 ・・・・・・敵は逃げる気はなかったようだ。

 広場には二つの影があった。

 耳の長い男の老人と若いメガネをかけた女性。二人ともマントに似たローブを着ている。どうやらどちらも魔族の魔術師らしい。

 老人の後ろにはいくつもの氷の槍が浮かんでいた。

 こちらが広場に入ったのを確認すると、老人は左手をスイッと振り下ろした。氷の槍がこちらを串刺しにしようと向かってくる。

「まかせて」

 シアが前に出てオレを振り回す。

《円舞陣》

 蛇腹槍になったオレは次々と向かってくる氷を、すべて破壊していく。

 これが氷の矢だったなら、いくつか落としきれなかっただろう。けれど威力が高くなる代わりに本数が少ない槍なら、すべてさばききれる。

 シアは前へと踏み込んでいく。

 老人は攻撃に《夜槍》を混ぜ始めた。避けにくく、そして物理部分がない攻撃だったが《暗視》のあるシアにはあまり効果がない。魔術の槍だったが、オレの刃にあたれば氷の槍と同じように砕けて散っていく。

「シア様っ、横!」

 シア、下に方陣円っ

 シアの足元にできた黒い方陣円から鎖が伸びる。とっさに足を引いたシアに、左右から岩がせまってくる。

「つ、《旋風刃エアスラッシュ》っ」

 左右の岩を《旋風刃》で破壊する。緑龍の加護のおかげか、速度も大きさも射程距離も伸びている《旋風刃》だ。けれどその後ろから氷の槍が現れる。

「左は任せろ」

 エイハムが飛び出し、左の氷の槍を盾で受け止める。シアは右の氷の槍を回避する。

 ――さらに方陣円。それはシアの頭上を中心に、このあたり一帯を巻き込むほどの大きさの方陣円が展開されていた。

 避けきれないっ

 空気が降りてきた。

 質量を持った空気が、辺り一帯を押しつぶすように降って来る。後から、後から、シア達をその場に縫い付け、ペチャンコにするほどの圧力で。

 パチンとアクリアが指を鳴らした。

 その風の圧力は、まるで何もなかったかのように消え失せた。

「・・・助かる」

「風は私の得意分野だからね。解除スキルだってお手の物さ」

 何でもないことみたいに言うけれど、何だよ解除スキルって・・・。

 魔術の発動を無かったことにできるスキルか?。魔術スキルは方陣を描いてから発動する。普通のスキルよりも発動に時間がかかるのだ。特に上級になるとその方陣が完成するまで中級以下の魔術よりも明らかに遅い。そして一度発動してしまえばその効果は高い。だからその発動を止める、もしくは発動したのを取り消せるように解除スキルなんてのがあるのだろう。

 龍の知識がどれだけ深いのか、時間があればいろいろ聞いてみたいな。


 魔族の攻撃が途切れ、シアはオレを構えなおす。

 今の魔術の連続攻撃は巧だった。

 下、横、さらに横に警戒をさせながら、上に回避しにくい大きな魔術を展開する。

 魔術のみで構成された遠距離ではない戦闘技術。

 ・・・・・・戦いなれている。

 この二人、強いぞ。

「・・・・・・んっ。」

 シアたちは警戒を強めながらジリジリと二人との距離を詰めている。

 アクリアだけはおもしろいものを観ている様子で突っ立っているけども。

 老人の手が上がる。

「・・・うむ」

「おじい様はこう言っています。降参じゃ、と」

「・・・・・・はい?」

「うむ」

「そちらに”龍”様がいるかぎり、勝ち目はないので降参じゃ、と言っています」

 ・・・うむ、しか言っていない老人の発言を、メガネの女性が翻訳?してくれている。

 確かに。

 どれだけ高威力の魔術を用意しても指パッチン一つで無効化されたのではどうしようもない。あまり戦闘に参加しないような顔をして、大事なところでは新しい同胞を助ける行動をするのだから、これでは彼らは絶対に勝てない戦いをさせられているようなものだ。

 早々に負けを認めるのは納得できる。

 けれど・・・魔族であるかぎり、魔王の”支配”が作用すると思っていたが。

 勝ち負けにかかわりなく、殺すぞ!という気迫で迫って来るものだと思っていた。

「・・・魔王の”支配”は、いいの?」

 シアが相手に質問を投げる。老人はかわらずにうむ、と答えて隣の女性が解説してくれる。

「魔王と会ったときにおじい様は配下契約をさせられましたけれど、魔術に長けたおじい様ならそんなモノ、どうとでもできます。一応は仕事として命令を聞いてはいますが、他の支配下の者とは仕事への積極性が少々違うかもしれません」

 大分違うが。

 というか、なんかすごい爺さんなのか・・・?

「誰?」

「うむ」

「魔将、ディー・ロームじゃ、と言っています」

 いやいやいや。何でそれで会話が・・・って、

 魔将!?

 でぃーろーむっ!?

「ちなみに私は孫のディーア・ロームです」

 よろしく、と言われた。この人も魔族の”支配”にかかっている様子がない。なんてこった。魔術に長けていると支配を回避することができるのか。それとも”魔将”まで昇位すると支配のかかりが悪いのかもしれない。


「それで・・・魔将が、私たちに何の用ですの?」

 エステラが聞く。まだ警戒を解けないが、少しは話をする空気が流れはじめている。

「うむ」

「奪われた”聖剣”を取り返しにきたのじゃが、影も形の無くなってしまった。おきにいりじゃったがあきらめるのじゃ。眠いし、と言っています」

 ・・・・・・そういやどっかの魔将が聖剣奪われてたっけ。ブヒ蔵の配下になった裏切り少年に聖剣を奪われて、先日のグラッテン王国南東の戦場でその奪われた聖剣の力と思われる対集団スキルが使われた。

 その魔将がディー・ロームか。

 こうなると奪われたディー・ロームの失態がかなり濃いものになるのだろう。

 だから奪い返しに来たと言うわけか・・・。

 イリーニャに化けていた魔物も人間抹殺よりも聖剣を狙っていたし、失態を取り戻すことを念頭に行動していたようだ。

「・・・うむ。」

「では、機会があればまたまみえよう。さらばじゃ、と言っています。失礼いたします」

 そう言って二人は背中を向けて去って行こうとした。

「あら、どちらに行かれますの?」

 遠ざかろうとする背中にエステラが待ったをかける。

 二人は少しだけ立ち止まってから、ゆっくりとこちらに振り返った。

「うむ」

「布団が恋しい、と言っています」

 その気持ちはわからなくもない。まだ雪がつもる路地での立ち話だ。誰かが魔術で出した巨大な氷の塊も転がっているし。寒くてしかたないだろう。

「降参ということでしたら、あなた方の処遇をこちらで決めてもいいということですわよね?。シア様、どういたしましょうか」

「ん。死?」

 ひいぃ、と二人が震えあがった。

 イリーニャにしたことやこちらの兵士の被害、街の被害などを考えればそれもありかもしれない。また、聖剣を取り戻す気はかわっていないだろうし、ここで見逃しても後々まで付け狙われる気しかしない。

 ここで処してしまうのが後腐れなくていいかもしれないけれど、どうせなら何か有益な情報とかほしいね。


「ん。・・・魔王の”支配”をどうやって回避したの」

 シア自体には効果はないだろうけれど、モルテイシアお嬢様を救うには必要になる。方法があるのなら聞いておきたい。

「う、む・・・」

「助けてくれると言う保証があるなら教えてやっても良いのじゃが、と言っています」

「ん。助けるから教えて」

「うむ」

「約束は必ず守るのじゃぞ。実はな、魔将には魔王の従属スキルの効果が半分くらいしか効かないのじゃ、と言っています」

 従属スキルってのがオレたちの言うところの”支配”効果のことか。

 しかし半分か。種族が上がれば効果が無くなっていくというのは確かみたいだな。

「けれど、半分・・・」

「うむ」

「あとは”無”属性魔術の《失力イレイズ》で消すしかない、と言っています」

 まー・・・そうなるか。昇位する前のシアと同じような状況なわけか。《失力》が効く効かないは熟練度によって変わるだろうから・・・。魔術に長けた人は難なく消せるんだろうけれど、熟練度が低いシアは消せるかどうか、確率で決まる感じだった。数打てば消えるわけだけども。

 お嬢様を魔将にするのも選択肢としては有るわけか。

 ふむむ、とシアとエステラが頭を悩ませていると、それまで成り行きを聞いていたエイハムが疑問の声をあげた。

「老人。さっきの話に、配下契約をしたと言ったな、魔王と。魔王は”支配”が半分しか効果がないことを知っていて、魔将とはそれぞれ配下契約をするのではないか?、だとしたら、それはどうやって無効化したのだ?」

「・・・・・・」

 エイハムの疑問にディーとディーアは顔を見合わせる。

「うむ」

「《失力イレイズ》で消せます」

 あぁ、そういやそうだった。エステラがどこぞの町の商人魔族に無理やり契約されたのを、シアが消したんだった。

「そうでしたわね」

「ん。」

 納得だね、という空気が流れる。


「へー、そうなんだ。魔王ともあろう存在がそんな簡単に消せるレベルの契約を魔将相手に使うんだねー、お姉さん驚いちゃうなー」


 ピクリ、と二人が固まる様子が見て取れる。

 ・・・そういやさっきは”と言っています”って言わなかったな・・・。あぁ(察し)

「それじゃぁ実際にどれくらいまでの契約魔術を消せるかやってみようか。”龍”の契約でも消せるのかなー?」

「・・・うむ」

「消せないのでやめておくのじゃ、と言っています」

 アクリアはディー・ロームの言葉を無視してシアの目の前に二人を持ってくる。細い腕からは考えられない腕力でぐいっと。

「シアちゃんの配下でいいよね。裏切りは死、と・・・主として与える物は誉め言葉、食べ物、罵倒、攻撃全般に設定してっと。・・・できたよー」

 はい、と言って二人の目の前に同じ契約の魔方陣が現れる。

「・・・・・・うむ」

「本気か、と言っています。・・・あの、もうちょっと契約内容だけでも、どうにかなりませんか?」

 ディーアが涙目で契約の変更を訴えてきた。主として与えられる物ってのがよくわからないが、契約ってのは一方的ではなく、金銭なんかで雇用することもできるようにってことなのかね。本来は労働に対する対価を決めるところなんだと思う。そこを罵倒や攻撃に設定するというのは・・・とてもひどい契約だ。

 ブラック企業へようこそ☆

 二人はあきらめた顔をしながら腕を伸ばす。

「ほいほいエステラちゃん」

「え?はい。何ですの?」

「この腕に《影縛り》をかけてみてよ」

 アクリアが伸ばされた二人の腕を見ながらエステラに魔術を使うよう求めてきた。

「はぁ、《影縛り》」

 ジャラン、と黒い鎖が巻き付き、二人の腕を捕まえる。

「いったい、何をしたいのかしら・・・えっ」

 ボロリ、と二人の腕が崩れた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 エステラの《影縛り》は使っている間中、MPを消費する。けれどそれとは別にMP吸収スキルがあるので常に相手からMPを吸い続けることができる性能にもなっている。

 これは、たぶん腕のMPが無くなったのだと思う。

 腕の形をした”何か”のMPが。

「錬金魔術かなー。こうやって魔王の目も謀ったんだろうね。いやー、賢い。普通なら見逃しちゃうね」

 私だから見逃さなかったんだよー、すごいねーと”龍”が自己主張している。ほめてあげれば満足する気がするが、シアは何も言わなかった。

 アクリアはひとしきり主張したあと、二人にはい、と手を出して改めて腕を伸ばすように要求した。

「・・・・・・うむ」

「・・・・・・はい」

 二人が腕を伸ばす。今度は止められることなく、その腕が魔法陣を通過した。

 魔法陣が光り、消える。

 契約が交わされたのだ。

「はい。これで二人はシアちゃんの配下だね。スキルも見られるようになってるから確認しておくといいよ。何をさせるか、何を覚えさせるかとか、主は配下の管理をしなくちゃいけないからね。まぁ、すでにエステラちゃんがいるからそのあたりは分かっていると思うけどね」

「ん。・・・・・・いっぱい」

 スキルを確認したシアの目が上下に動く。どうやらステータス欄が非常に長いらしい。

「・・・・・・後でいい」

 読むのをあきらめたらしい。確か魔族はスキル所持数が決まっていたはずだけど、そんなにいっぱい覚えられるのだろうか。・・・耐性とかが長いのかもしれない。

「ディー。ディーア。」

「・・・うむ」

「はい」

「よろしく。」

 こうして魔将とその孫が、シアの配下に加わった。


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