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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
144/222

魔将1


 ドオォォォン

 という大きな音と共に館が揺れた。

「うるさい・・・はふう」

 シアが起きた。

 頭までかけられていた布団をめくり、まだ熱があるのかぼーっとした様子で上半身だけ起こしている。

 おい、シア良かった。魔族の襲撃だ。体調は大丈夫か?

「・・・んー・・・、何それ」

 オレの質問に答える前に、ベッド下に広がっている様子に目が行ったらしい。

 しおれた花弁の中にエステラと、オレと、魔族っぽい死体が仲良く寝転がっている。

 いろいろあったんだ・・・。とりあえずその死体はイリーニャに化けてた魔族だ。エステラとオレが倒した。エステラは魔素切れ中だ。

「ふーん。エステラは後でほめよう」

 オレは?

「パパ、魔族の襲撃はどこ?」

 オレはー?・・・いいけど。外だ。けれど、なんかだんだん大規模な戦闘になってきてる。さっきの大きな音は初めてだが、上級以上の魔術かもしれない

「ん。わかった」


 シアはベッドから下りておいてある装備を付けて行く。

 まだ少しふらふらしている。

 大丈夫か?《異常消去》で治るかやってみてくれ

「・・・《異常消去クリア》」

 ・・・・・・だめか。状態異常扱いじゃないのか、それとも強化に伴う変化の一部なのかもしれない。

 さて、着替え終わり片手にオレを持ってようやくフル装備になったシアは、エステラを見下ろして思案している。

 連れていく?置いていく?

「・・・・・・」

 シアは自分の《魔素治力》の特殊輝石をエステラの上にのっけた。

「・・・・・・」

 おきる様子はない。

 ・・・置いていくか。

「置いて・・・ううん、連れて行く」

 特殊輝石をもどし、エステラの頬を叩く。反応は無い。

 シアはエステラを背中に背負おうとするが、持ち上げようとしたところで挫折した。人ひとり持ち上げられる体力は、まだ回復していない。

 次にエステラの膝の下にオレを置いて、その膝と股の間に体を入れ、オレごと膝を抱えるように持ち上げた。

「・・・ん。」

 そのままひきずる。

 ・・・どうしよう、止めた方がいいのか?、いや、でも置いていくよりはいいか。

 うしろでエステラの頭や腕がゴンゴンとタンスの角や壁にぶつかっているのを無視し、シアは部屋から出て音のする方に移動を始めた。

 シア、できるだけ丁寧に扱ってやってくれ。そいつはオレが魔物に盗まれそうになったのを、全力で守ったんだからな

「・・・・・・ん。」

 心もち引きずり方が穏やかになった。


 玄関から出て館の正門へ移動する間に、部隊がいた公園の方が赤く、燃えているのがわかる。

 館の住人たちは門の警備兵を残して非難を始めたようで、裏門へと人を集めていた。

「お客様っ、こちらは危険です、裏門へ移動してください!」

 警備兵の一人に止められる。

 まぁ、そりゃそうか。意識の無い人間をズリズリ引きずっていれば、さっさと安全な所へ行けと言いたくなる。

「ん。平気。・・・エステラ?」

 シアは引きずってきていたエステラのほおをピシピシと叩く。

「・・・・・・んう」

 動いた。ようやくお目覚めらしい。

 エステラはゆっくりとまぶたを開け、何がどうなっているのか、頭を回転させ始める。

「し、ア様・・・おきたのですか、それに、ここ・・・にぎゃあああああああああっ!?」

 シアがいること、外に連れ出されていること、そして自分の下半身が丸見えなこと。

 すべてを理解したようだ。

 おう。よかったよかった。

「シアっ、様っ、いったい、いったい何がどうなってこうなっているのですかしらぁっ」

「ん。魔族の襲撃」

 シアはそれだけ答えて自分の装備を確認し、戦闘準備を整える。

 エステラもそれを見て急いで立ち上がり、・・・自分の体の痛みに気が付いた。

「いたっ、あれ、何か、たんこぶが・・・それに体のあちこちに擦り傷が・・・あら?」

 それはシアがつけたものです。

「・・・先に行く。」

 シアはそう言って門から出て公園へと走る。

「わ、私も行きますわっ、いっ・・・たた」


 流石に二人とも全力疾走とはならず、いつもよりゆっくりと公園へと到着した。

 そこは中央が爆心地のようにえぐれ、周りの木々が赤く燃える、悪夢のような光景が広がっていた。

 兵士の姿が見えない。テントなど一つたりとも存在しない。

 上級魔術・・・いや、もしかすると最上級魔術が行使された跡だけが残っていた。

「みなさまは、どちらに・・・」

 エステラが辺りを見回す。

 シアは何か言おうと口を開こうとしたとき、金属のぶつかる音がした。――横道の方だ。

 シアが走り出し、エステラが追う。二人が音のした場所についたとき、数人の人間の兵士とその倍ほどの魔族がいた。

 人の方が壁を背に、固まって魔族の攻撃をしのいでいる。

 二人はすぐに助けに向かった。

 エステラが《影縛り》で後方の魔族を動けなくし、シアがオレで魔族を薙ぎ払う。

「た、助かった」

 瞬く間に排除された魔族をほっとした顔で兵士が見ている。

「他の皆様はどうしたのかしらっ」

「は、はい、あの火球魔術のあとは、固まっていてはまた同じように狙われるからと、各自少数で動くようにと中隊長から指示が出ております」

 エイハムは無事か。どこにいるかわからないのは困りものだけど、集まることができればまだ何とかなるか。

「火球?」

「えぇ、おそらく、部隊の半数ほどが巻き込まれたかと・・・。敵の襲撃の後だったから、テントにはあまり兵が残っていなかったから良かったですが・・・」

 応えてくれる兵士の表情が暗い。たった一発の魔術で全滅する可能性もあったのだ。いつものように休んでいる所を狙われなくてよかったが、それをしなかったということは魔族は何か理由があるのだろう。

 まぁ、おそらくは聖剣と聖剣を持っているシアを探しているからだ。

 しかし半数ということは10人がやられたということか。今ここにいるのは5人。たった5人でよくあんな長時間逃げ回りながら戦えたものだと感心してしまう。

 さて、エイハムたちもこの高級邸宅街のどこかにいるわけだが・・・。めだつ方法で合流すると火球で狙われるらしい。

 先に火球の使い手を倒してしまいたい。

「火球の使い手なら、あそこです」

 ひょ、っと兵士は首を上に向けた。

 上?。

 見ると・・・何かが浮いていた。

 雲よりは低い場所、中空に土色の塊が浮いている。

「・・・何ですのあれは?」

「おそらく・・・土の上位魔術で造りだした岩隗を乗物代わりにつかっているのだと思います・・・」

 非常識ですよね。とその兵士はため息をついた。

「”土”属性と”魔”属性の合わせ技ではないかと・・・。あれに乗せられるだけの魔族を乗せて、ここの外壁を越えてきたのだと思われます」

 だから敵の数はそれほど多くないわけか。

 けれど兵士が言うには町の兵士たちはあの岩塊からの攻撃でみんなやられてしまったらしい。一方的に狙い打たれてしまってはどれほど兵士の数がいてもどうしようもない。

 とんでもないな。

 部隊長レベルのやつが最低一人はあそこにいることになる。


「あれ、落とせない?」

 シアはその部隊長を一番に倒しにいくつもりだ。

「・・・難しくありませんかしら。ご主人様の《失力イレイズ》は触れなければいけませんし、私の《魔素吸収》が岩にも効果あるのか不明ですし」

 落とす方法はないということか。

 いや、魔術師を直接狙うことができればいけなくはない。

 とは言ってもなぁ・・・。

 エステラの《雷光》は夜は目立つし、シアの《夜槍》はまだ飛距離が短いし・・・、イリーニャの使っていたクロスボウはオレの知っているものと同じ性能なら普通の弓よりも射程距離は短いはずだし。

 そうなると攻撃がほとんど届かないことになる。

 うん、無理だね。

「ん。わかった。エイハムたちと合流して、逃げよう」

 それが一番いい。一方的に攻撃されるような場所にずっといるのは賢くない。

 そうと決まれば行動は急いだほうがいい。オレたちは兵士たちといっしょに館街の路をあっちへうろうろこっちへうろうろと移動し始める。

 たまに出くわす魔族の兵士たちをシアがほとんど一人で倒していく。闇魔術《暗視》のおかげで家々から人気が無くなり、いつもより暗くなった街で敵を倒すのに役立っている。

「あ、いました。中隊長ですっ」

 兵士が指をさした先には3人の人影があった。


 オレたちは合流し、少し大きめの街路樹の下で無事を確認しあった。

「中隊長、ご無事でしたかっ」

「あぁ。こっちは狙われないよう、街の明かりを壊していた。これで多少は上空の敵からみつけにくくなっただろう」

 ありがたいです。

 こっちのメンバーは攻撃することしか考えていませんでした・・・。

 隊員の生存確認が終わり、こちらにもいくつかの確認を行った後、エイハムは一人の部下の名前を出した。

「シア様が昏倒から復帰されたのは良い。だが、呼びに行ったはずのイリーニャはどうした?いっしょではないのか」

 シアはまゆをピクリと動かし、エステラは暗い顔をした。

「・・・やられたか」

「・・・いいえ。私が、・・・イリーニャに化けていた魔族を倒しましたわ」

 エイハムの表情に驚きの色が浮かぶ。

「化けていた、ですと?」

「えぇ。あの魔族は聖剣を探しているようでしたわ。そのためにイリーニャに《変身》して、知識を奪うために、イリーニャの脳を食べたと言っていましたわ」

「では、我々がいっしょに旅をしていたのは・・・」

「おそらく、魔族だったかと思います」

「・・・・・・・・・・・・」

 身の内に敵が混じっていたのだ。こんなグラッテンの奥にまで襲撃しにきたのも、その魔族が連絡を取っていたからだろう。

 そういえばタイミングも狙っていたのだろう。シアが倒れ、エイハムとシアが分断されているタイミングだった。

 やっかいだな、《変身》能力者。

「強化なら、《失力イレイズ》が効く」

 そうか。一応全員にためしてみるか。

「ん。」

 シアが断ってから一人一人に《失力》をかけていこうとした時、兵士が空を指さした。

「中隊長っ、やつら、またやるつもりですっ」

 見上げると岩塊の上に赤い球体が出来ている。いくつも、いくつもそれが浮いて、大きくなっているのがわかる。

「こちらの位置がつかめなくなったから、一気に辺りを明るくするつもりのようだな」

 火球で辺り一面燃やし尽くすつもりらしい。

「3,3,4に分かれて逃走。合流は西の森のリリオン村。ザック、できれば人のいない方にアレを誘導してくれ。シア様とエステラは私と。あとの班分けはいつも通り。行動に移れ。・・・また会おう」

 その言葉を合図に、みんなが別れ、移動し始める。シアとエステラはエイハムの後を追って走り出した。


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