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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
141/222

赤龍


 次は溶岩煮えたぎる火口だった。

「あつい・・・ですわ・・・」

 エステラがふらふらしながら立っている。

 ・・・すごいな。

 あれのあとで良く立っていられるもんだ。

 流石に休んだ方がいいからと、シアが座って待っているように言う。

 エステラを置いて火口の方に降りて行く。


「おーい、バルドー。いないのかなー?、わったしーだよー」

 わったしーだよーと歌いながらアクリアは火口付近の岩場をぴょんぴょんと移動している。

 熱くないものなんだなぁ。

 シアは流石に火口には近寄らなかった。

 少し離れているここでも額に汗をにじませている。

 アクリアが5分くらいウロウロしていた所、突然溶岩が盛り上がり、赤黒い何かが姿を現せた。

 ドラゴン――巨大なトカゲの王様。

 ででどんででどんという不穏な音楽と共に現れる、放射能で巨大化したトカゲ・・・そんな幻想が思い浮かぶ形状の龍だった。

 これが、赤龍。

 こういう龍もかっこいいなー


『おお、誰かと思えばアクスタリアか。何だ?、今日はどうしたよ』

「やぁやぁバルド。君の加護をこのこに与えてくれないかな。最近知り合ったばかりの新しい同胞なんだよー」

 なんだと、とうめいて赤龍はシアに顔を近づける。

『・・・小さくてわかんねえが、確かに龍っぽい匂いがするな。けどどうもそれだけじゃないな。なんだこれ、あー、魔物か、魔族の匂いもするぞ』

 鼻がいいらしく、シアに混ざっている魔族のことも言い当てる。

『まて、どうにも信じられねえ。人型になるからなめさせてくれねえか』

 なんだ。やっぱりなめるのか。

 ”龍”というのは舌で鑑定する能力があるらしい。

 今日のシアはあっちでもこっちでもツバつけられている。


 人型になった赤龍は短い髪の、褐色筋肉質なかっこいいお兄さんだった。

 すこし攻撃的な赤茶色の瞳がワイルドさを出している。

「んじゃ、失敬」

 シアが準備をする間もなく、そう言ってシアを持ち上げ、首筋をなめた。

「ちょっとバルド、もう少し丁寧に扱ってくれないかなぁ。ごめんねーシアちゃん。こいつがさつで、許してやってよ」

「・・・ん。」

「おう。わりい。・・・しっかし、確かにこりゃ、”龍”だな。そんで魔族も混じっているのか」

「あと、人間も」

 シアが付けたす。

「そいつはめずらしい・・・生粋のモンじゃねえってことか」

 そう。シアは錬金魔術で造られた命だ。

「亜人」

 人と、龍と、魔族が合わさってできている。

「そいつは聞き捨てならねえな。”真核”はどこから持ってきたんだ。造ったやつに聞きに行かなきゃならねえ」

 赤龍はかなり喧嘩っ早いようだ。犠牲になった仲間のことを想って造った相手のところに乗り込むつもりらしい。

「んー、それねー。黒龍の所で死んじゃった子供をあげたらしいよ。ディアドリカ様の所に行って確認してもらったんだ」

「お?なら黒龍んとこといっしょに殴り込みにいくのか?。そのためにおれを呼びに来たんだな」

「違うよ。もう”真核”の話はすんでるってことだよ。黒龍は魔将と取引して”真核”を渡したんだから、殴り込みにいくようなおバカさんはいらないってことさ」

「・・・・・・いらないのか」

「いらないねー」

「・・・すまね。早とちりしたわ」

 頭に上った血が落ち着いてきたらしい。

 しかしこうしてみると、龍と言ってもいろいろだな。ただの姉ちゃんや兄ちゃんみたいなのもいれば、ディアドリカみたいな老成した性格のもいる。

 できればみんなディアドリカみたいに威厳ある性格のほうが、オレとしては幻想が揺らがなくてありがたいんだけど。


 さて、頭も冷えてきたのでアクリアがもう一度、赤龍に”加護”の催促をする。

「おう、いいぜ。ほんじゃ」

 チュっと。シアの額に口づけをする。

 早いよ。

 もうね、シアの同意を得てからやってくれ・・・。

「ほんとがさつなんだから・・・。さーて、それじゃ一度家に帰ろっか。私の”加護”は家についてからあげるよ」

「ん。・・・赤龍」

「おう、なんだ?」

「私はシア。・・・ありがとう」

「ははっ、挨拶がまだだったか。おれはバルド・D・クリカラってんだ。強い奴と喧嘩するならオレを呼べ。手を貸してやるぜ」

 強い奴の定義が不明だけどね。

 けど、ちょっと直情型っぽいのでそこが不安だ。

「大丈夫だ!、おれは喧嘩っぱやくねえ!」

 不安だ。

 まぁ、覚えておくだけはしておこう。

「・・・ん。」



 アクリアに運ばれること4度目。

 雲海に夕日が沈むのを見た後、暗くなってからシア達はジェラルダス邸に到着した。

「・・・飛行移動は、もう二度としたくありませんわ・・・。あぁ。地面がいとおしい」

 地面に仰向けになって揺れない安心感を堪能しているエステラをまたいで、シアもほっ、と息を吐いた。

 流石に疲れたらしい。

 慣れない騎乗飛行だったもんな。

「ふぅ。思ったより時間かかっちゃったね。でも夕ご飯に間に合ったならいいか。シアちゃんはどうする?ご飯にする?お風呂入る?それともわ・た・し?」

 飛行しなれている彼女は余裕がある。シアは少し考えてアクリアに向き直った。

「アクリア。アクリアのがほしい」

「えへへ。そう言ってくれるならあげちゃおうか。いいよ。目をつぶって」

 シアが目をつむる。

 アクリアはシアの肩を抱き、引き寄せる。

 シアの額にふっ、と、優しく唇を寄せる。

「・・・汝に緑龍の”加護”を与える。これにより黒龍・龍族、赤龍・龍族、緑龍・龍族、三者の合意を得て、汝を新たな”龍族”と認める。開け、星の輝きを持つモノよ。汝の行く道はその新たな星が導くだろう、励めよ新人、頑張れ新人、ってね。・・・おめでとう。これで新しい同胞の誕生だねっ。おねえちゃんって呼んでもいいんだよー」

「アクリア・・・・・・おねえちゃん」

「うひょー」

 うひょーとか口にする人初めてみたわ。

 ともあれ、これで昇位がすんだのか。

 おめでとう、シア。

「・・・ん。あまり、実感はないけど」

 まぁ、普通に各地を廻っただけだしなぁ。

 苦労して勝ち取った<称号>というわけでもないし。龍の”真核”を持ってたからだから・・・。

「あまりうれしくない?」

 アクリアが難しい顔のシアに聞いた。

「・・・んー・・・うれしい、けど、喜んでいいかわかんない」

「なるほどね。なら、君がわかってくれるまで、何度でも言おうか。おめでとう!って。ありがとう!って」

 館から執事がこちらにやって来る。何か言いたそうになっているのを待ってもらい、アクリアが続けた。

「君は龍がどれくらい、子供をつくると思う?」

「・・・年一匹?」

「匹なのか。ま、いいけど。・・・1000年に1,2龍だよ。しかも生まれてもきちんと育たないことが多いんだ。強い力に体がついて行かなかったり、心がついて来なかったりね。だから、君のようにきちんと育っている子はね、もうそれだけで奇跡みたいなものなんだよ」

「奇跡・・・」

「そう。君は”加護”をもらうほどのことを成していないと思うかもしれないけどね、でも私たちからすればそれは大違いだよ。生まれてくれて、ありがとう。育ってくれて、ありがとう。君が無事でいてくれて、本当にありがとう、ってさ。わかるかい?バルドが喧嘩になったら呼べ、なんてことを初対面の相手に言うことがどういうことか」

「・・・・・・」

「”龍”はね、この物質世界ではほとんど敵なしなんだよ。ディアドリカ様のところで山脈をえぐった痕に気付いたかな?。あれは黒龍がやったんだ。”龍”ってのはああいうばかげたことができてしまう存在なんだよ。けれどそんなのが君に力をかすぜ、って言う。過剰戦力すぎるだろう?。子供の喧嘩に大人が出てくるレベルじゃないよ。魔王がやってくるレベルだよっ。それでも、君の誕生はそれだけの価値があるってこと。みんなが祝福したいと思っていること、わかっていてほしいな」

 そうなのか。なら、もっと祝ってくれてもよかったろうに。

「まぁ、頭でっかちなやつらが多いからさ、素直に君のことを喜んだりはしない人もいるけどね。内心でどれだけ小躍りしてるか見せてやりたいくらいには、喜んでるさ」

 ディアドリカが小躍り・・・観たいな。

 けれど、そういうものなのか。

 子供を作ったことがないからわからないが、きっと親が子にあげる気持ちで送られた言葉なのかもしれない、あの”ありがとう”は。

 シアは純粋な龍ではない。けれど彼らはそんなことおかまいなしにシアのことを助けてくれようとしている。

 まがい物と拒絶されるか、不純物と嫌悪されるか、偽物と殺されることもあるんじゃないかと思っていたから。

 実際はそれぞれから暖かい言葉をもらった気がする。

 涙がでるくらい、うれしい。

「だから、胸を張って<称号>をかかげろよっ。その加護は仲間から仲間へ送る、最高の『おめでとう』なんだからねっ」

 アクリアがシアの背中をバンバン叩く。

「・・・・・・ん。・・・わかった」

「よしっ」

 満足そうなアクリアと、ちょっとうれしそうなシアの様子は、見ているオレもうれしくなる。

 そんな二人の様子に、さっきから困り顔の執事が何か言いたそうに少し離れたところに控えている。

 そろそろ挨拶をしてあげたほうがいいかも。


「ん。・・・終わりました。」

「・・・そうでございますか。無事、お戻りになられて喜ばしいことです。本来ならばすぐにでも休まれるお部屋を準備しておくのでございますが、少し困ったことがおこりまして、朝まで使っていた部屋を、一時閉鎖しております」

「何が、おこりました?」

「シア様、エステラ様のお部屋のお荷物が、何者かに漁られていたそうでございます。今館の人間に聞き取りをしているところでございますが、お手数ですがお二人にはお部屋のお荷物の確認をお願いできますでしょうか?」

 漁られただとっ、泥棒かっ。

「何ですって!?」

 寝転がっていたエステラがむくりと起き上がる。

 そんな大事なものは持って行ってないはずだけど、何が入ってたっけ。確認に行こう。

「ん。・・・っと、」

 歩き出そうとしてシアがふらついた。

 シアも飛行の揺れが治りきっていな・・・ちょ、おい、シア!

 シアっ

 ふらり、と傾いたかと思ったら、シアはそのまま膝から地面に倒れそうになる。

 とっさにアクリアが腕を出してシアをかかえる。

 シアは地面に手を突きながらもアクリアに抱えられ、今、自分に何が起こっているのか理解しようと辺りを見回した。

「・・・地震?」

 違う。シア、お前が倒れたんだ。

「ご主人様っ、大丈夫ですか!」

「シアちゃん、体が熱いよ」

 エステラとアリシアがシアの様子を確認していく。

 体温の確認から始まり、毒物を摂取していないか、魔術をかけられていないか、小さな外傷はないかなど、その場でできる確認をする。

「・・・やっぱり熱かな。”真核”に灯が入ったからかもしれない。普通の龍ならしばらく興奮するくらいですむ変化だけどさ、シアちゃんは普通じゃないからね。安静にしておいた方がいいかも」

「安静にしていれば治るんですのっ?」

 エステラがシアの手からこぼれ落ちるオレを拾い上げながら聞いた。

「ごめんねー、わからないんだ。私も真核を持った、龍の姿をしていない龍の昇位は初めてだからね。いいや、私だけじゃなくて、たぶんすべての龍にとって初めてのことだよ。だから、誰にもこの後どうなるかわからないんだ」

 つかえませんわね、と悪態をつく。アクリアは反論せずにすまなそうにまゆを寄せている。

 シア、大丈夫か、シア。

 ダメそうならベッドで横になるぞっ、解熱剤をもらってヒエノン貼って水分補給して寝てしまおうっ

 シア、熱に負けるなっ

「エステラ様、アクリア様、シア様をおつれいたいします。医師と部屋を用意させますゆえ、移動いたしましょう。ここでは体を冷やしてしまいます」

「そ、そうですわね。お願いしますわ」

 執事がシアを抱え、館の中へ移動していく。エステラは心配そうにその後を追うが、アクリアは少し考えてからエステラに告げた。

「龍に効く高山草を採ってこようか。シアちゃんに効くかわからないけど、人の物で治らなかった場合にそなえて用意だけしておいてもいいよね?」

 それはありがたい。今回は何から何まで助けられている。いつかお返しできればいいが。

「助かりますわ、お礼はいつかいたしますわね」

「ふふ、いいよー。期待しないで待ってるよ」

 じゃ、と軽く手を挙げてアクリアの姿が緑色の光と共に龍の姿へと変わる。彼女は再び風を纏わせながら、空へと飛び立っていった。

 龍のことは彼女にしかわからない。だから暗くなる時刻であっても、行ってくれたんだろう。

 あとはこっちでできることをやるだけだ。

 人の部分でできることは人がなんとかしよう。

 オレは祈ることしかできないけれど。


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