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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
139/222

緑龍3


 魔王の”支配”は”人間”には効果があるが、”人間”の昇位した”人族”には効果がない。

 それなら、今効果のあるシアも、昇位してしまえば、”支配”の効果がなくなる。

 そんな話だった。


「ぐ、ううう、ああああっ」

「遅い。もっと早く。神経の隅々まで意識して。あなたは龍の3倍は頑張らないといけないんだからね」

 シアは地面を蹴る。蹴った地面に深い足跡ができるくらい力を込めて。

「あああっ」

「そう。体のすべてを感じて。血液の一滴、神経の一本、息を吐く呼吸から、髪を揺らす風の流れまで。すべてに意識を向けなさいな。そうしてやっと普通の龍と同じくらいの速度で練度がかせげるようになるよ」

 無茶な話だ・・・。しかしシアの種族”龍”は本来の1/3しかない。だから3倍ガンバレ、というのはわからなくもない。

 昇位に必要なのは2つ。

 1つはシアが龍の真核を持っていること。これはある。《龍胆》のスキル説明に<龍の真核を持つ>ときちんと書いてあるから。

 2つ目は種族スキルの熟練度を上げることだった。

 種族スキルというのはその種族として生まれたとき、おまけとして最初から覚えているスキルのことだ。

 シアで言えば『龍術《竜力》』がそれにあたる。もしこれが龍の種族スキルでなかった場合や、もし持っていなかった場合、龍種としての昇位ができなかった。

あってよかった。本当に。

 そしてこのスキルを熟練度100まで上げなければならない。

 クールタイム一日。持続時間30秒のこのスキルをである。《時間喪失》でクールタイムを短縮しても21時間半くらいかかる。今熟練度がちょうど50なのであと半分なわけだけども。

 けれどその問題はアクリアが解決した。

 彼女の持つ魔術にスキルの安全装置ストッパーを解除するスキルがある。

 クールタイムとは安全装置だったらしい。筋肉や精神にダメージを負わないように、時間を設けて体を保護するための。

 なら魔術の安全装置は魔素ってことか?。魔素がなくなれば勝手に気絶する。ブレーカーが落ちるみたいに意識をうしなうのだ。これだと気絶が安全装置だ。まぁいい。

 安全装置を外され、《竜力》を常時発動することができるようになった。

 《竜力》は効果時間内に意識的に体を動かすことで、多くの熟練度を稼ぐことができる。

 アクリアがシアに言っている、髪の毛の一本まで!みたいなことは、少しでもはやく熟練度を稼ぐための方法である。

 ちなみに、意識して体を動かすのには模擬戦闘がいいらしい。いつもの自分の体の使い方と突発的な使い方、両方が適度にあわさることでうんぬんかんぬん。まぁシアの戦闘力を見てみたかったアクリアの方便だろう。

 そんなわけでシアは超重度な筋肉痛の中、全身に意識を向けつつアクリアと模擬戦を行っているのである。


 5日目。一日に《竜力》の熟練度を10ずつ稼ぎ、ついに100に到達した。

 とんでもないハイペースだった。

「すっごなー。普通の龍でもこの10倍はかかるよ?、やーびっくりだわー」

 この龍、50日間の鍛錬予定だったらしい。

 シアが死ぬわ。

 いまも立ち上がることができず、地面にうつぶせになったまま全身を痙攣させていた。

「いいから。ご主人様の安全装置をもどしてあげなさいよ」

「それは本人に《失力》してもらわないと。ほーらっ、がーんばれっがーんばれっ」

 掛け声にシアが自分に《失力》を使う。

 息遣いが少し落ち着いたかな。

「・・・これで準備はできたのですわね」

「そうだねー。シアちゃんが用意するものは終わったかなー」

 あれ?、まだ何かいるのか?

「・・・・・・ほかに、何がいるんですの?」

「あとはこっちの準備だよ。新しい”龍族”の誕生を承認してもらわないといけないからね。最低3人から。一人は私として・・・あとは赤龍とー、水龍がいればいいんんだけど、まぁ聖龍あたりにたのんでみよっか」

「・・・違いがあるんですの?」

「まぁね。もらえる加護の違いくらいだよ。いや、それだって気にしなくていい。後からでも全種族分、加護をもらうことはできるからね。あ、ちなみにー、シアちゃんって<称号>にこだわりって、ある?」

「・・・<称号>の獲得は金銭よりも重視していますわね。おそらく、あると思いますわ」

「・・・・・・そうなんだ」

 なんだその沈黙は。

「称号の設定の仕方って、知ってる?。こう・・・ステータス欄を開けたときに名前の上につけるやつなんだけどさー、あんまりつけてる人間を見ないんだよね」

 知らんわ。

 そもそもほとんどの人間が自分にしかステータス欄が見えないせいで称号がいらん子になってるわ。

「こう・・・」

 アクリアが虚空を指で二回振った。

「名前を二度押しすればできるんだけどさー。知らないかな?」

 ・・・・・・・・・・・・。

 二度押して・・・・・・

 普通気が付かなくない?

 えええー・・・

 もっと早く教えておいてほしい

 という文句はアクリアに言うのは間違いなのだが。

 そりゃそうか・・・称号っていうんだから設定できて不思議はないよな・・・。

 ひどい話を聞いたわ・・・。動けないシアに代わってエステラが自分の称号を設定している。

「あらー・・・」

 く、うらやましい。オレも早くシアの称号を設定したい。

「・・・それで、これが何か違うんですわよね?」

「まぁね。設定する場合、一番初めにもらった”龍”の加護の名前の称号になるの。私であれば<緑龍の加護を受けし者>だね」

 7種類の龍の<称号>が個別でもらえるわけではないらしい。加護は7種類、<称号>は一個だけ、ということだ。

「ですが、イグンは<称号>はステータス欄には表示できないと言っていましたわよ?」

「んー、全部が出てくるわけじゃないからね。一個だけ、表示したければできるというだけで、他人にいくらでも隠せる部分だからね。スキルみたいにステータスを開ければ全部わかっちゃうのとは別と思っておいてほしいかな。追加効果の内容も基本的には内緒だし」

「基本的には、ですのね・・・」

「まぁね。そこはそれ、きちんと判別できるスキルもないと、何のための”スキル”だよってなるからね。見たければ《鑑定眼》を極めるといいよ」

 極めろとか言っている。

 どんんだけ長い道のりなんだよ・・・。


 しかし<称号>は隠せるというのはあれだな。<海賊王>とか<大盗賊>とか、あまり人に知られたくない称号もあるってことだな。

 じゃないと私犯罪者ですって看板をずっと身に着けることになってしまうから。

 なるほどなー。

「じゃーいいよね。何か急いでるみたいだから、私の加護をサクッとあげちゃおっか。感謝しろよー?、全風属性強化だぞ。剣士にも大人気な属性だぞー」

 全風属性って言うと、風魔術から《風突》とか風の発生するスキルまで全部か。あれ?、この龍実はすごいのでは・・・?。

 ビバ☆緑龍様!

 などとオレが心で踊りを踊っていると、意識を失っていると思っていたシアがボソリ、と何かをつぶやいた。

「ん?」

「・・・・・・」

「もう一回」

「・・・・・・くろ」

「・・・・・・・・・・・・」


 こだわりがあったらしい。

 黒と金はシアを象徴する2色だ。

 黒は良い。シアに似合う色だ。黒龍の加護。・・・いいじゃないか。

「んー・・・、黒、ねぇ・・・」

 どうもアクリアの反応が良くなかった。めんどくさそうというか、苦い物を食べてる時の表情というか。

「・・・わかった。この話はシアちゃんがおきられるようになってからしよう。今は、まだ加護を与えないでおくからね」

「・・・。」

 ん。という返事が聞こえた気がした。


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