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邪武器の娘  作者: ツインシザー
人族領 軍隊編
132/222

東面軍2


 戦争を終わらせるにはどうすればいいか?

 ”魔王”を倒すしかない。

 では魔王を倒すにはどうすればいいか?

 ”聖剣”のスキルを使うのが一番手っ取り早い。


 そして、聖剣のスキルを使えるのは現在、何人くらいいるか?

 おそらく数人・・・いや、もしかすると、今はシア一人の可能性がある。

 現世界でたった一人の聖剣使い。

 もっとも魔王を倒しうる存在。


 それがシアだった。


 まぁ、正当な聖剣使いと言うわけでは無い。聖剣からスキルを奪ったというだけの話。

 けれどもそれでも十分、彼らの頭を垂れさせるには十分な効果だった。

 かなり長い事情やら起きたことの話をして、いろいろ信じさせて、しまいには神技スキルも使ってみせて、ようやく彼らは結論を出した。


 なんとしても、人族の味方になっていただかなくてはならない


 と。

 パルドの姿勢はとても低い。

 東方に伝わる伝説の謝罪奥義《ドゲザ》をしている。

 というか、もう何度目かわからないドゲザだった。

 説明の途中でエステラの正体がばれたのだ。魔王の支配が種族”人族”にはかからないかも、という話からの流れだったのでしかたない。

 ここにいる人間には、くれぐれも、自分はエステラである、ということだけは守ってもらうように頼んでいた。

 うるさいくらいにくれぐれもを連発しながら頼んでいたのできっとその約束は守られるだろう。


「しかしまさか・・・勇者候補だったとはな」

「驚いた?」

「あぁ。驚かされた。学生時代から君は破天荒だったな」

 シアとエステラはエイハムの後をついて歩いていた。これからオレたち用に建てた天幕に案内してくれると言う。

 一般の兵士はテントだ。天幕は偉い人や仕事で使う者を入れておくのに使われている。

 シアとエステラだけで使うには天幕は破格の待遇と言える。

「風紀委員長?はどうやってあの災害を回避したのかしら。確か風紀委員も聖誕祭にイベント参加していたはずだけれども」

「あぁ。あの日はちょうど親族の結婚式でな。首都を離れていたんだ。おかげで助かったが、仲間たちには私だけ生き残ってしまってすまない、という感情がずっとついてまわる」

 聖誕祭に結婚式を挙げる。実に素敵な思い出になる結婚式だったのだろう。・・・その日が首都の崩壊の日でなければ。ともあれ、おかげで委員長はこうして今も生きているわけだけれども。

 だからミノタウロスを挑発するような、死に急ぐことをしていたのだろうか。

「でも、おかげであなたに会えた」

「・・・そう言ってもらえるなら、生き残ったかいがあるというものだな」

 エイハムはシアたちの護衛役として選ばれた。彼の上司からはこき使っていいと言われている。

「ここだ。この天幕は好きに使っていい。解体する時は私を呼んでくれ。うちの連中で解体から輸送、再設置をやることになってるからな」

「ありがとう」

「それで?、戦闘でも手伝ってくれるわけですわよね?」

「あぁ。私の使える中隊以下、120人は自由に動かせると思ってくれていい。・・・それ以上のことは指揮官殿と相談してくれ」

 ありがたい。

 エイハムの答えにエステラが満足そうにしている。

 今のこの状況はエステラが勝ち取ったものだ。軍の協力を取り付け、好待遇に自由に使える部下までつけてもらった。

 ・・・それだけの戦果を期待されているということでもあるが。



 三日後、シアに出撃要請がきた。

 相手は魔族1000、魔獣2000の合計3000の相手だ。

 エイハムの部隊他、中隊20の一個大隊2500人で相手をすることになる。

 前衛に盾を掲げた兵士たちが並んでいる。

 その後ろに槍、そして魔術師と弓兵だ。

 開戦はどちらの軍勢ともなく始まった。

 矢と魔術の雨の間を抜けてきた魔獣の突撃を兵士が盾で受け止める。

「急げ!、こいつらは前座に過ぎないっ、さっさと排除しなければ面倒だぞ!」

 剣と槍が魔獣の群れを排除していく。

「くるぞっ」

 盾でふせいでいた兵士たちに、魔術が降り注ぐ。それは魔獣ごと防衛線を作っていた一角に穴を開ける。

 魔族の兵士だ。

「まずい、盾隊が途切れた・・・」

「ふ、ふさげ!いそげっ」

 兵士たちが倒れた仲間を後ろに引きずり、落ちている盾を拾い防衛線を維持しようとする。

 けれど魔族軍の勢いはそれを上回る。

 奴らは開いた穴に魔獣たちとともに、雪崩のように殺到してくる。

「止めろ!一匹たりとも通すなっ!」

 防衛線が崩れればそこから魔術師や弓兵が狙われる。そうなれば被害は大きくなってしまう。

 だからなんとしてでも押し返すのだ、と。

 けれど一度始まってしまった敵の勢いは、兵士たちの心を絶望へと突き落とすようにとどまることを知らなかった。

 兵士が蹂躙されていく。開いた穴へと、周りからどんどん、どんどん魔物が集まって来る。

「ちくしょう・・・っ、おさえきれねえ、おさえきれねえよぉっ」

 恐怖に震え、涙が止まらない。怖い・・・怖い。それでも盾を構え、魔獣を抑え込もうとしていた兵士の背中を何かが駆け上がった。

「え?」

 自分の肩を足場に、そのまま魔獣の群れを飛び越していく。


 それは黒い少女。


 まだ年端も行かない十代の娘だ。けれどその周りに一円、赤い花が咲く。武器がヘビのように舞い、彼女が踊るための血の舞台を作り出した。

 少女は踊る。

 武器を振り回しながら、辺りを真っ赤な花弁で埋め尽くすように。

 兵士たちには下がるように上官から命令がくだる。けれど見惚れる者、呆然とする者、動けない者。彼らはその少女が赤い絨毯を一人、歩き進んでいく姿を目に焼き付けていた。



 シア、そろそろスキルが切れるぞ。

 槍形状であれば《ノコギリ草》の持続時間は長い。けれどそれもそろそろ終わりになる。

 あまり突出しすぎると味方のところに帰れなくなってしまう。

「平気。エステラが温存してる」

 今日はまだ雷光の輝きが放たれていない。シアが戻るのに合わせて援護するつもりだろう。

 それをあてにしてシアは敵陣に切り込んでいくつもりのようだ。

「・・・パパ、行くよ。」

 わかった。《竜力》使う時は教えてくれ。

 内発系のスキルは口に出さなくても発動できる。だがそれでは切れるタイミングがオレにはわからない。

 共有するためにもそれだけはお願いしておく。

「ん。」

 シアは槍を一払いして走り出す。

 敵陣の奥へ。

 狙うのは大将首。


「敵だ!止めろっ」

 魔族の兵は人間の兵士ほど大きな盾を持つ者はほとんどいない。

 体を張って止めに来られても重圧感が弱い。それではシアは止まらない。

 すり抜け、薙ぎ払い、騎乗している魔族に肉薄する。

「愚かな」

 その魔族は斧のような槍を振り回す。ハルバード、斧槍だ。

「《旋風刃エアスラッシュ》っ!」

 槍の間合いでスキルを放たれる。シアはオレを盾にする

《風刃》っ

 防御術で軽減された《旋風刃》はシアを傷つけることなく周りの魔族をふきとばす。

 シアが迫る。

「っ、《風刃スラッシュ》!」

「《風刃スラッシュ》。」

 スキルが相殺される。そしてシアは《風刃》を撃った勢いのまま、一回転してオレを薙いだ。

「《旋風刃エアスラッシュ》っ。」

 槍から鞭へ。蛇腹槍となったオレの攻撃に、シアの《旋風刃》が上乗せされる。

 それは大将だけではなく、大将のそばでシアに魔術を放とうとしていた一団を、まとめて切り裂いていった。

 シアが後ろに飛ぶ。シアのいた場所を魔術が通り抜ける。倒し切れていない一団からの魔術だ。

「《魔素喰いグラトニー》っ」

 シアは《魔素喰い》を複数枚展開する。《魔素喰い》は魔術を吸収するとともにシアの姿を外から見えなくする。それを隠れ蓑に、一気に反対方向へと駆け出した。

 逃げるシアを《雷光》が援護する。流石に遠いのか魔族へ攻撃が当たっていないが、目くらましとしては十二分に効果を発揮していた。

 途中途中でスキルを使いながら魔族の軍から脱出する。シアが人の兵士の中に飛び込むと兵士がその後をすぐに盾でふさぎ、シアの安全を確保する。

「・・・ふう。」


 さてさて、いったいどれくらいの魔族軍に被害を与えられただろうか。

 《ノコギリ草》のクールタイムがあけるには一日かかる。

 同じことをやるには明日にならなければならない。

 けれど他のスキルのクールタイムはもう終わった。普通に戦うことはできるだろう。

 どうする?手伝うか?。

 魔族軍は指揮官を失って混乱している。

 ここで叩いておきたい。

「ん。行こう」

 シアは再び飛び出した。

 魔族軍に大きなダメージを与えるために。


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