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邪武器の娘  作者: ツインシザー
リザード集落
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リザード集落

 家が燃える。

 湖が赤に染まっている。

 あちこちから剣戟の音と悲鳴のような声が聞こえる。


 集落の岩場をつなぐ道が細いおかげで一気に蹂躙されるということはないが、全滅は時間の問題だろう。

 人間は湖から逃げ出さないように、湿地の周りに兵士を置いている。

 集落内部に入り込んでいる兵士の数はそれほど多くはない。

 けれど強さが違った。


 個の強さはミノタウロスほどではないが、スキルや魔法、そして連携がうまい。

 盾を持った兵士を一番手に槍、魔法と並び、こちらの思うように戦わせてくれない。

 強かったはずのリザードリーダーたちが一人、また一人と討ち取られてゆく。


 オレを持つハイリーダーも苦戦していた。仲間二人が盾をおさえこんでいるスキに、最後尾の魔法兵士をスキルで攻撃した。

 それは怪我を負わせただけだった。

 兵士の装備する防具に威力を削られてしまった。

 スキルを使い、大きな隙を見せるハイリーダーの横腹に、槍兵士の攻撃が突き立った。


 ハイリーダーは死んだ。

 槍をぬくために蹴飛ばされるハイリーダーの眼に、魔法兵士が自身の傷を魔法で治癒しているのが映る。


 ――無念だろう。

 オレはシアの”武器”だと思っているが、シアよりずっと長くいっしょにいたハイリーダーを第二の仲間だと思っていた。

 彼が事切れ、彼の手からオレが離れる。戦闘中には決して離れなかったその手が、もうオレを掴むことはない。


 オレの眼は涙が流れない。流すことができない涙が心の中で流れた。


 魔術兵士の回復には少し時間がかかるようだった。

 その間に他の二人が近くの家を調べていた。

 合間を縫うように、ピョコンと、シアの頭がはえた。


 無事か!よかった。

 しかし逃げろ。逃げてくれっ。


 シアはヒョコヒョコと魔法兵士に近づいてくる。

「な、なんでここに人の子供が?」

 驚いたようだが、捕まっていたのだろうと見当をつけたようだ。どこの村の者かと聞いている。


 ごまかせー全力で保護してもらうのだー。

 オレの念話が聞こえているのかいないのか、シアはぼーっとしている。

 あぁ、そうか、シアは人の言葉を話せない。

 リザードマンとは彼らの言語で会話しているようだったが、オレは生まれてから一度も言葉らしい言葉をきいていない。


「うー」

 ほら、たすけて たすけて、って言うんだ。たーすーけーてー

「・・・・・・ぱぱっ」

「ぱ?パパ?」


 ぱぱ。


「ぱぱ。あっち」

 それが初めての言語だった。

「あっち?」

 魔法兵士がシアの指さした方に気を取られている隙に、シアはしゃがみこんでオレを拾った。

「・・・おい子供、それが何かわかってるのか?。なんだ、まさかリザードマンに両親を殺されでもしたのか?」


 仕返しするために武器を取ったと思ったのだろう。

 オレはオレがシアのものだってわかっている。自分のものを取り返しに来たのだろう。

 そうだよな?とシアと目線を合わせる。


 あ

 ちがう。

 それはダメだ。

 それだけは絶対にダメだ。

 けれどオレにはシアを止めるすべがなかった。

 なら一つだけ――一つだけ、オレはシアに送った。


  首を狙え。


 シアが振り上げた槍先は、そのまま兵士の首に流れるようにささった。


 ゴポリと兵士が口から血を垂らす。

 引き抜くと動脈からしぶきとなって鮮血が辺りに飛び散った。


「なにやってる!」

 シアが蹴り倒された。住居を調べていた槍持ちの兵士だ。

 倒されたシアは、それでもオレを離さなかった。


 シアは立ち上がり、槍をかまえて兵士に突きを放つ。けれども半歩後ろに下がっただけで届かなくなる。兵士はそのままオレを絡み取り、打ちあげる。

 なんとかオレを手放さなかったが、体が大きく傾いてしまう。


「どうした!」

 奥から別の兵士が声をあげ、そのおかげでシアの大きな隙は狙われなかった。

「一人やられた!きてくれっ」

 やられなかったが、かわりにまずいことになった。

 こちらにやって来ようとしているのは盾を持った兵士だ。

 ただでさえ実力差があるのに、さらに増えるのではどうしようもない。

 逃げるか?。


「・・・スキル」


 シアが小声で答える。

 スキルが使えるのか?。


「パパは、スキルが使える」

 オレか!?。

 知らなかった。

 そんなバカな、と自分の中を確認しようとする。けれどわからない。唯一自分の真ん中に”可能性”があるだけだ。


 ――可能性


 これか?。

 オレにも使えるスキルがあるのか?

「いっしょに」

 シアが片足を引く。

 まて、スキルなんてない。そもそもどんなスキルを使えるのかすらわからない。

 時間がほしい――そう願うだけの時間が、すでにない。

 兵士が合流しようとしていた。二人になられたら勝てる見込みは零だ。

 これで決めなければ、シアが


 死ぬ


 シアは踏み込んだ。

 首をねらって。踏み込みながら、槍を横にせいいっぱいの力で振り抜く。


 知っている。

 この動作は知っている。

 4年間、何度も何度も何度も見てきた技だ。オレの体から放たれた技だ。


 そうか、放てばいいのか。


 スキル《風刃スラッシュ


 シアの攻撃間合いを量り一歩引いた兵士の首を、オレの風斬り刃が切り裂く。

 首の半ばまでを切断され、その兵士は絶命した。


 つっ、鎧の無い部分を狙ってこれか。オレの脳裏には同じスキルを使ってゴブリン数体をバラバラにしていたハイリーダーの姿が浮かぶ。

 スキルにも熟練度があるのかも。

 今持っている唯一の攻撃スキルがこの威力では、盾を持ったこの兵士は倒せない。

 このまま時間をかけて戦っても状況は良くならないだろう。


 ・・・シア。

 シア。

 憎いかもしれない。

 悲しいかもしれない。

 でも今は、今は逃げろ。

 ”盾”は無理だ。オレの知ってる”盾”職であれば倒すのにかなりの時間を要する。

 今のオレたちにとって硬い敵は邪魔をするだけのデコイ。避けて置いていくのが最適解だ。

 シア、たのむ。

 オレを信じろ。


「・・・・・・んっ」

 シアは走った。盾の兵士を置いて。


 集落はシア達リザードマンの子供達の遊び場だった。逃げることに関しては鈍重な鎧盾を持つ兵士ではかなわないだろう。

 けれどどうする。この集落は囲まれている。逃げ場はないかもしれない・・・。

「南。長老が突撃するって言ってた」

 あぁ、ほんとにリザードマンの言葉がわかるのね・・・。

 シアすげーな。

 いや、そもそも異世界なのに人の言葉がわかるぞ。

 どうなってるんだ異世界。ゲームっぽいし、ファンタジーゲームならいいのか。

 よくないか。


 後で考えよう。

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