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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
129/222

廃都の夜


「・・・普通の童話ですわね。確かに現在伝わっている内容とは異なっていますが。より正確な本、ということみたいですわ」

 焚火にあたりながら《明光》で絵本を読んでいたエステラが、本を読み終えて結論を出した。

夜だ。

 どことも知れないのっぱらの、少し段差があるところに身を隠すように今日の寝床を作った。

 簡単な食事を終えて、少しのんびりとした時間のことだった。


 はずれか。もどしてこようか?。

 いつかあの場所を見つける誰かのために、本も情報の一つになるだろうからさ。

「・・・まだ、持っていて。売れるかもしれないから」

 そうだね。《探索眼》にひっかかる本だものね。きっとレアな古書なのかもしれないよね。

 そんなことはないと思いつつ一応同意しておく。

 夢は残されているよな。

「・・・・・・」

 少しシアがションボリしている。

「・・・・・・シア様、それ、楽しいのですかしら?」

 エステラがシアのスキル訓練を見てそう聞いてくる。

 シアはさっきから《魔素喰い》で作ったMP吸収ホールに《夜槍》を投げ込んでいる。

 自分のMPを回収しつつ両方の熟練度を上げれる素晴らしい技だ。

 《魔素喰い》は魔術しか消さない。物理的なものは素通しである。この様子だと、土や水、氷も通す。けれどそこに使われた魔素だけは吸収できそうな気もする。シアもエステラもその手の魔術を持っていないのでいつかためしておきたい。

 ともあれ。

「・・・楽しい」

「・・・・・・そうですの」

 エステラも暇つぶしにか、《影縛り》を吸収ホールに投げ込んでくる。

「・・・・・・」

 MP増えるからいいが。・・・オレは一人で旋風刃でも撃っているか・・・。

 静かに時間が過ぎて行く。

 そろそろ明日のために寝た方がいいかなと感じるころに、エステラが静けさを破った。


「・・・私には、妹がいます。今年で6歳になっているはずの妹が。なだ幼く、社交界デビューもしていないお子様ですわ。今は母と一緒に母の実家である北の領地にいるはずですわ。・・・・・・あの子は、あの子には・・・」

 言葉が止まる。

 言いたいことがいろいろあるのだろう。シアは静かに待った。

「あの子はもう、父と会えないのですわね・・・。きっと、一度も父から頭をなでられたことも、声を掛けられたこともないまま、こんな状況の国をあずけられる結果になってしまったのですわね」

「・・・・・・エステラ・・・、もし、エステラが」

「いいえ、シア様。それには及びませんわ」

 エステラがシアの言葉を遮る。

「私がこの国を継ぐなど・・・。それは父の意思に反することですわ」

 エステラ――シエストリーネは国外追放処分を受けた。永久に、この国に帰ってきてはならないと、その父、グラッテン国王に直々に言いつけられたのだ。

 その言葉を守り続ける覚悟をしていた。

 まぁ、こうして戻ってきてはいるのだけども。

 死んだことにして名前を変え、姿を変え。ばれなければいいやという適当さで帰ってきた。

 世の中、それくらい適当でいいと思う。

「パパが、適当でいいって。子供は甘やかされて、肩ひじ張らないでいいから、あとは大人が頑張るからって」

「くふふ、そうですか。・・・でも、なら少しくらい、頑張ってもいいですわよね」

 エステラは何か考えがあるようだった。

「私が妹を甘やかしても、いいですわよね」

 6歳になる妹のために、唯一の肉親である姉が、何かをしてあげる。あげたいと。


「シア様、私はこれまで魔族軍の所業を見てまいりましたわ。・・・それは、魔王の支配のせいとはいえ、とても許せるものではありませんでした。許していいものではありませんでしたわ」

 旅の行く先々で焼かれた家、争いの痕、そして埋められたであろう、土の盛土。捕まえて殺して埋める。一人残らず。

 悪鬼羅刹の行いだ。

 人として、そしてこの国で育ち、守られてきた存在として・・・妹に託さねばならぬ、姉として、

それは許せないことだった。

「他人の国土を土足で踏みにじる行為に、私、怒っていますわ」

「・・・うん。」

 正直言って、・・・オレも。

 事情がわかっているだけに、難しい話でもあるが・・・奴ら、ぶち殺してもいいんじゃないかと思っていた。

「シア様、積極的にでなくてもかまわないのですが・・・この国にいる魔族軍は排除してしまっても、よろしいかしら」

 他国に侵略してきてるなら、それは明らかな敵対行為だしな。

 けれどそれは魔族軍とことを構えることになる。

 今までも少なくない被害を与えているわけだけども、・・・これで完璧に敵対者かー。

 もういっそ魔族領まで攻めあがるつもりでいいんじゃないかな。

 中途半端なことを考えても、状況によってはそうもいかないだろうし、この国の範囲内だけで済む話でもなくなるだろうしな。

「ん。・・・とりあえず、この国の魔族軍は排除する方向で。」

 ・・・シアが慎重な判断をしている。

 いつもはもっとずばっと、ん。殺そう。みたいな感じなのに。

「ありがとうですわ」

 ひとまずの方向性は決まった。

 とは言っても、戦力はたったこれだけ。ゲリラ戦をしかけるにも少なすぎる。

 まぁ、そのあたりは前線に近づけばどうにかなるだろう。

 そう遠くないうちにたどり着く。


章 終わりです。

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