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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
127/222

浮遊樹樹海2


 北方領9郷・シルプル郷市は樹海の間に作られたゲリラの集落のような場所だった。

 木で柵を造り、家を造り、やぐらを組んである。

 郷市というが、規模はかなり小さい。

 町。

 そしてそこに住むのは、狩猟を主に行う狩人たちだった。


 郷市に入った二人を多くの狩人たちが囲んでいた。二人に弓を向けながら。

 せっかくもらった眼帯なのに効果ないなぁ・・・。

「あらあら、囲まれていますわね・・・」

「・・・・・・」

 きりりと弓がしぼられているが、どうする?蹴散らすか

「うーん・・・」

 逃げてもあの路をもどることになるんだよな・・・。流石にそれは面倒だと思ってしまう。

 どうするか迷っていると、狩人の中から一人、髭を生やした獣人が前に出た。

「あんたら、手配書にあった魔王様の命を狙った人間だな。この町に何のようだ」

 ・・・おや、どうも他の町とは温度差が違う。他だと人間だと知れたとたんに死すべし!殺すべし!て勢いだったんだけどなぁ。

 話し合いの余地がありそうだ。


「飛行用の馬を借りたい。用はそれだけ」

「けっ、どうだか。人間の手先になってこの町を偵察にきたんだろうさっ。市長、かまうことはねぇ、やっちまおうぜ!」

 そうだそうだと声が上がる。

 それを聞いてシアはオレを構えた。

「じゃ、弓を向けてくるのは殺すから。」

「まてまてまてっ、両方まつんだっ。お前も、そしてあんたらもっ」

 やっちまおうという意見に賛成しているのは主に魔族だ。けれどそれをおしとどめているのは獣人だ。

 なるほど、主が獣人の場合は魔王の支配と獣人の契約とで意識がゆらゆらしているように見える。

 獣人の上には主がいないのか?。

 こんな辺境の土地に住むには獣人の力の方が有用なのか、もしかすると他の魔族領とは勝手が違うのかもしれない。

 辺境ってすごーい

 さて、そんなことをしている間にもオレたちを囲んでいる連中の話あいが行われている。

「んなこといわれるが、ここで見逃すってことはありえねぇだろ。犯罪者だぞ、犯罪者」

「しかし、こいつらはいままで魔族軍を相手につかまってないんだぞ?。おれらじゃ敵わないぞ。死にたいのか?」

「いやぁ・・・死ぬかなぁ」

「あれは殺したことのある奴の目だぜ。おれはああいう奴を見てきたからな。あつかいには気をつけろよ」

「おれもそう思う。命をかけてまで軍に協力する必要はないと思うな」

「じゃぁ、どうするって言うんだよ」

 相談長いなぁ。どうするか決まるまでここで待ってないとだめなのか?。

「・・・提案がある」

 待ちくたびれたシアが口をはさむ。

「決闘、しよう」

 ”決闘デュエル”か。

 それは人間領で行われる、貴族同士の喧嘩のしかただった。

 お互いの意見がわかれたときにどちらの言い分を優先するのか、そんなことを決めるためのシステムだった。

「決闘・・・」

 シアは決闘の説明をエステラに丸投げした。エステラはシアに変わって説明をし、市民たちの理解を得たのだった。


 というわけで決闘だ。

 微妙な広さの広場に案内される。広場の真ん中にはよくわからない獣人の石像が飾ってある。ここではやはり獣人の方が偉いのかもしれない。

「ふん、お前が犯罪者でオレの相手か。ははっ、泣きをみせてやるぜ」

「おやっさん、かっこいいぜ」

「おやっさんたものしいぜ」

「やっちゃってくださいおやっさん」

 市民から選ばれたのは大斧を持つ筋肉質の渋い男だった。

 みんなから頼りにされている所をみるに、なかなかの強さらしい。

 はてさて、どうなることやら。

 舐めてかかって勝てる相手ではなさそうだぞ。


「んー・・・」

 シアが石像を見ている。

 鞭形状になったらぶつかりそうだな。

「ん。邪魔。」

 シアはそう言って蛇腹槍で石像を三つに分ける。

 ごごご ごとん、と石像はすべって崩れ落ちた。

 これで空間を広く使えるな。

 準備できたといった風に、シアがオレを槍に戻して構える。

 ・・・辺りが静かになっていた。

 おやっさんと、その取り巻きが目を見開いて青くなっている。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「じゃ、始める?」


 決闘は行われなかった。

 シアの不戦勝。

 おやっさんの腹が急に痛み出したのだ。

 代理の相手は起たなかった。

 市長はグリフォンを連れてきて、貸してくれるどころか持っていってくれと言われた。

 ・・・グリフォンもらっちった。

 飼い方がわからないので乗り終わったら返しておこう。


 もらったグリフォンは健脚(?)だった。

 郷市を飛び立ち、北へ。

 二人乗りをしてもスイスイ空を駆けてくれる。

 国境を越え、グラッテン王国の南東の地、グラスマイヤー領に降り立つ。

 グラスマイヤー領は今は魔族軍の支配領域である。グラスマイヤーの領主館へも戻りたいが、おそらく警備の兵隊が配置されているだろう。

 安全そうな場所に降りてグリフォンを放す。さようならグリフォン。またいつか会おう。

「では、どこに向かいましょうか?」

「”御子”のいる所」

「・・・トートハイム領のジェラルダス家か、ルービッツ商業都市のメイルヘル家ですわね。ジェラルダス家にいきましょうか」

 イオ君の生家は旧首都ではなく、トートハイム領というグラッテン王国北西部の場所にある。南東のこの場所からだとだいぶ遠い。

 グリフォンを解放するのが早すぎたな・・・。

「申し訳ありませんわ。これは、私のミスですわね・・・」

「エステラは、私の家によるつもりだった。気にしないで」

 グラスマイヤーの館を取り戻すつもりだったなら、確かにグリフォンは連れ歩けない。

 館の住人たちのことが気がかりだったが、きっと魔族の侵攻がはじまったことで逃げ出しているだろう・・・いてほしい。

 とりあえず人のいる場所まで行こう。魔族軍の進軍が、今どこまで進んでいるかも気になるし。

 オレたちは北へと移動する。

 途中途中に警備や人間を探し殺すためにいる兵士たちを避けながら。



 グラッテンを右回りに北へ移動していたが、人に会うことはなかった。

 大穴に土をかぶせたような場所が旅をしている間中あちこちで見られた。おそらく、それが人の墓というべきモノだろう。

 深くは考えたくない。

 旧首都に近づいたとき、エステラが行きたいと言った。

「用がありますわ。私、確かめたいことがありますの」

 廃都と呼ばれるグラッテリア。今は噴火もおさまって灰に沈んだ都市だそうだが、灰の下には昔の建物が残っているらしい。

 そこに用があると。

 危険はあるが・・・どうしようか

「・・・わかった。行こう」

 シアたちは首都に向かう。

 昔はきれいに舗装されていた道も、今は草が生え、人通りがほとんどないことをうかがえた。そしてようやく、大きな外壁が見えてくる。

 あぁ、帰ってきた。

 あの日、逃げ出した場所から。足を遠ざけるしかなかったあの日に代わって、今度は足を前に進める。

 そろそろ10月になる。シアは13歳だ。

 オレの知っている13歳とは大分違う。それだけ大人にならなければいけないことが、多すぎたのだろう。

 その原因の一つがこのグラッテリアだった。


 人どころか、魔族すらいなかった。

 いや、正確には廃都の中ではなく、外に拠点を作り、いくつかの小隊が巡回などを行っているようだったが、積極的に不審者を取り締まろうという気はないようだった。

 そりゃそうか。

 こんなところに来るのは盗掘目的の盗賊やらなんやらのみだ。

 ほとんど毎日することもなく、変化もないならば真面目に警備なんてするだけ無駄である。

 この様子だと城にあった財宝類も掘り出された後のようだし、中に入っても平気そうだな。



 外壁の中は水を入れた桶のようだった。

 火口から出た溶岩石と灰でほとんどの建物が埋まってしまっていた。その上を歩くと少し靴底が沈みこむ。

 ぎゅ、ぎゅ、と足音をさせながら、ほとんどまっ平な首都を進んでいく。

 足跡はのこるが平気だろう。自分たち以外の足跡も多く残っている。

 エステラの目的地は王城だった。


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