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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
126/222

浮遊樹樹海1


 北方領にもどってきた。

 北方領9郷・シルプル郷市。

 北方領の中で最も東にある、樹海と浮遊樹のある不思議な場所だった。


 うわー、面白い。

 あれが浮遊樹ってやつか。ヤドリギを蔓で繋ぎ止めた感じの植物なのか。

 まるでデパートの屋上につけられたバルーンみたいだなっ。

「しけってる・・・」

「湿気が多いですわね」

 エステラが胸元を緩めて空気を入れている。

 まぁ、樹海というか、ジャングルだな。

 夏場なこともあって、緑もモッサリと生えている。

 一応緑の中に道らしきものものこってはいるが、人の往来が途切れたら樹海に呑み込まれるんじゃないかと思うほどだ。

 ・・・途中で道が樹海に飲まれてたら迷子になるんじゃないかな。

「・・・・・・」

「・・・、9郷が嫌なら8郷にしますか?」

「・・・行こう。」

 シアはそう言って緑の路へと足を踏み出した。



「ふぅ・・・ふぅ・・・あついし、服がはりつくし、暑いし、どこまでつづくんですの・・・」

 すごく暑いのか。

「ん。あつい・・・」

 樹海に入って3日がたった。代り映えの無い景色。違うようで同じようにしか見えない場所。

 本当に進んでいるのか、それとも同じ場所をぐるぐる廻っているのか、不安になってくる。


「いたっ」

 シアが腕をさすった。

 虫か?

「ん。・・・《異常消去クリア》」

 毒か。そういやそんな魔物もいるっけな。

 シアが毒を解除してしばらくして、再びどこかから羽音が聞こえてきた。

「虫。」

 オレを振り回し、飛んでいたハチを切った。

 ・・・今、まっすぐこっちへ飛んでこなかったか?

 オレたち、いつの間にかハチに敵対行動とったっけ?

「・・・わかんない」

 そうだよなー・・・あ、

 エステラの方へハチが向かっている。さっきと同じように、一直線に。

「《夜槍ナイトランス》」

「ひゃっ」

 エステラにぶつかる直前にハチを《夜槍》で貫いた。

 やっぱり、狙われてるな。

「ん。エステラ、警戒」

「え?、はい。わかりましたわ」

 エステラが腰の包丁を抜き、盾を構えなおした。

 あらためて辺りを警戒すると、何かがおかしいことに気が付いた。

「・・・・・・鳥の声がしませんわね」

 そうだ。最初の数日にはどこかから鳥や何かも声が聞こえてくることがあった。けれど今は違う。

 聞こえない。何の声も。

 これは・・・

「囲まれてる。・・・いつから」

 気が付かなかった。

 魔物か?、ダンジョンにいない魔物はそれほど強いものはいない。だからそれほど警戒していなかったが・・・。

 シア、ダンジョンレベルの警戒をしておこう。

「ん。わかってる」

 険しい顔でオレを握りなおす。

 見えない敵との戦闘が始まった。




「シア様っ、こいつら・・・おかしいですわっ」

「んっ。」

 豹に、馬に、猿、それから狼。

 種類が違う魔物たちが、まるで連携でもとるようにオレたちを襲撃してくる。

 しかもこちらの反撃を喰らう前に木々の中へと姿を隠す。

 さっきから現れては消え、消えては現れる。――統率された動きだった。

 タシム、やつがここにいる。


 襲い掛かって来る魔物に、こちらもある程度反撃しているはずなのだ。

 兎と馬を2匹、それに豹を一匹倒したはずだ。けれど兎も馬も豹もあいかわらずこちらを襲ってくる。

「森と言うのは、不便ですわねっ」

 エステラの言う通り、戦いにくくて困る。

 《雷光》は木々にさえぎられ、《影縛り》は警戒されてか、鎖が一つでもある場所には近づいてこない。

 シアには最低2方向同時に襲い掛かって来る。

 しかも氷と風の初級魔術つきで。

 いったいどれだけの魔物を従えているんだっ。

 つ、シア、上っ

 シアが頭上へオレを横にして掲げる。

 豹だ。オレは降ってきた魔物へ《三段突き》を放つ。これで豹は2匹目だ。

「くっ」

 シアの足元を猪が通り過ぎる。脛を牙で切り裂かれた。

「シア様っ」

「平気。それより、タシムを探して」

 グリフォンといっしょならあの浮遊樹の中にいそうだけどな。流石にあんなわかりやすいところにはいないか。

 木々の間からはいくつかの浮遊樹が見える。

 これだけ魔物を統率できるということは、こちらが見える位置から指示を出していると思う。

 そうなると浮遊樹の中というのは十分ありえる選択肢なのだ。


「・・・・・・パパ、私たちが、走る」

 わかった。できるかぎりタシムを見つけよう。

 シアとエステラは森の中を走り出した。

 後ろを振り返らず、一直線に。

 囲んでいた魔物たちがあわてて追いすがって来る。

 それをオレの防御術で吹き飛ばしながら走る。

「シア様っ」

 エステラの前に生えていた木が動き出す。手を広げてエステラの邪魔を――できずに、のんびりと動き出したところをエステラとシアが駆け抜けていく。

 追って来る。包囲を維持しようとしている、けれど。

 ――シアの方が早い

 エステラの体を肩にかけ、シアは加速する。

 流れる景色。

 そして追いかけてくる魔物たち。

 その中に一つ、姿を現したモノがいる。

 木々の間を抜けてくるのは羽の生えたトカゲだ。浮遊樹じゃなくて樹木の幹に張り付いていたのか。

 トカゲの背にタシムが乗っている。

 けれど遠く、高い。

 あの位置に攻撃できるのはエステラの《雷光》と《光矢》しかない。タシムもそれがわかっていて警戒しているだろう。

 どうするっ、いや・・・エステラを囮にすればあるいは―――

「んっ。採用」

 シアはエステラに体を寄せて作戦を伝える。

「無茶いいますわねっ、一発で決めてくださいましっ」

 そう言って二人は大きめの樹が立っている場所を曲がる。

「《影縛り》っ」

 エステラの声が遠ざかる。

 エステラはそのまま走り続け、そして木々の間からタシムへと《雷光》を放ち続ける。


 見えた


 シアは駆け上がる。

 エステラの作った鎖の階段を。枝と枝、樹と樹を結ぶように張られたそれは、光の魔術とちがってめだつことはない。けれど吸収もできず、これだけの数の《影縛り》と《雷光》の連続発動はエステラの総MPを賭けた一発勝負だ。


 シアが跳ぶ。

 その一撃で、すべてを絶ち切るために。

「し、あ様っ!?」

 タシムが気が付いた。けれどもう、蛇腹槍は振り下ろされている。

 トカゲごとタシムを真っ二つにする寸前、風のように急降下してきたグリフォンがその身を割り込ませた。

「ん!?」

「グリコっ」

 あぁっ、はずしたっ!

 シアの体が落ちてゆく。

 唯一のチャンスをはずして。

 くそっ、ちくしょうっ!

 配下の魔獣の忠誠心に攻撃を外されてしまったっ


「・・・パパっ!」

 シアは落下する体をむりやりひねり、オレを投げる。投げ槍のように真っすぐと。けれどそれは点の攻撃でしかない。トカゲを操るタシムは、すでに避けるための操作をトカゲに伝えている。

避けさせないっ

 けれどこの状態で使えるスキルはない。《風突》も《三段突き》も変化させてしまった。・・・いや、入れ替えられる。

 オレは《円舞》を捨てる。そしてその枠に、新しく《旋風刃》を覚える。

 よし、《旋風刃》っ!

 オレはタシムに迫る空中で横方向にスキルを放った。

 まだ強くはない風の力だが、それでも反動はある。

 遅いか・・・!

 くるくると回り始めたオレをタシムが避けようと大きく舵を切った。


 だが、その距離では甘いっ

《風刃》っ!


 オレの刃先から出現した風の刃は、トカゲの羽の片方を切り落とすだけにとどまった。《風刃》を乗せきるには速度がたりなかったか。

 けれど片翼の羽を失ったトカゲはまっすぐに地面へと落ちる。

 タシムもろともに。


「しあ、様・・・」

 シアがオレを回収しトカゲの落下地点にきたころには、タシムは虫の息だった。

 トカゲは死んでいた。タシムを下敷きにしたまま。

 身を挺して主を守ったグリフォンとは大違いだ。

「シア様・・なぜ、魔族を裏切ったの、ですか・・・」

「違う。裏切ってない。魔族が、”悪魔”の力でおかしくなっただけ」

「そう、ですか・・・」

 タシムは咳をする。赤い咳だ。

「・・・お嬢様はどこ?」

「さぁ・・・知りませんよ・・・」

「・・・・・・」

「あなたが、裏切らなければ・・・あの人は・・・・・・」

 荒かった息が止まる。

 どことも取れなかった視線の先が、焦点を結ぶことなく、光を失った。

 タシムは死んだ。


 配下である魔物たちはこちらを遠巻きにしたまま、寄っては来ない。

「シア様。魔獣使いは死後、その体を獣たちが持っていくのだそうですわ・・・」

 歩きでやってきたエステラがそう教えてくれる。

「おそらく食べられるのだと思いますが、忠誠の高かった魔物が自分の種族の墓場に埋葬するんだとも言われていますわね」

「・・・そう」

 なら、自分たちがここにいてはタシムの体を埋葬することもできないだろう。

 シアはエステラを連れて歩き出した。

 しばらくして、後ろから獣たちの声が聞こえてくる。

 タシムは愛情で魔物を躾けていた。

 オレは願う。

 安らかな眠りであってほしい、と。


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