逃亡生活5
若先生にだけあいさつして町を出た。
町々を移動しながら魔将のことについて人に聞いて回った。
魔将といってもいろいろだった。
海に棲むモノ、山にこもるモノ、城に住んで何人もの使用人を抱える者、何もしないモノ。
その他の魔将は軍に所属して人間領を攻めている最中だった。
グラフェン・テスラーは城に住んで何人もの使用人を抱える者だった。
「これのっ、どこがっ、使用人ですのっ!?」
エステラが連続で《雷光》を放つ。けれど4つの首を持つキメラには何の効果もなかった。
せいぜい眩しそうにしているくらいだ。
あの首・・・サラマンダーにタツノオトシゴにユニコーンに、あとなんか黒い馬。ナイトメアか?。
属性耐性集めてみましたって感じの生物だった。
使用人と言うより番犬代わりに置いている感じかな。・・・ただ、他にも番犬がいる。今エステラと遊んでいるのを遠目で見ているようだが、これを倒したら別の番犬が襲ってきそうな雰囲気だ。
なるほど・・・グラフェン・テスラーはこういう奴なのか。
生物を合成し、造り出し、それを自分の家に展示しておく。
あまり趣味の良い魔将ではなさそうだ。
「ちょっと!ご主人様っ、助けなさいよ!」
耐性を主目的に合成したせいか、動きはそれほど早くない。ただ、サラマンダーが火のブレスを。タツノオトシゴが水鉄砲を撃ってくる。
キメラから色々なものを吐きかけられながら逃げ回るエステラを横目に、シアは門扉に張り付けられた鉄板に描かれた文字を読んでいる。
シア、どうだ。なんて書いてある?
「・・・留守。軍事研究顧問になったから、魔都にいきます。って」
・・・・・・
魔都ってどこだ?。真都とはちがうんだろうな。
というか、軍事研究って何だろうな。新しいモンスターの創造とかかなぁ。ちょっと興味がある。
「エステラ」
「何っ、遅いですわよ!」
「帰る。」
シアはそう言ってスタスタともと来た道を引き返していく。
「・・・はあっ!?。ちょっと、まちなさいですわっ」
追いかけてくるキメラを振り払いながらエステラがシアに追いついてきた。
「な、何なんですの?。説明してくださいましっ」
「いない。魔都ってところにいるらしい」
「無駄足でしたわね・・・かんっぜんに」
なぜか非常につかれた表情のエステラだった。
どこにいるかわかったのだし、無駄じゃないが。
ただ、軍にかかわりのある施設っぽいのでそこが心配である。
追われる身としてはあまり近づきたくない場所だ。
より深い警戒が必要だ。
と、思ったのもつかの間。
シアがとある宝石店のディスプレイ商品の前で釘付けになっていた。
「・・・・・・買おう。」
いや、ダメだから。
シアを魅了したのは『特殊輝石 魔素治力 100万G』という商品。
垂涎のMP自動回復の石だ。
数値はわからないがそれでも100万G・・・あちら換算で1000万ほどの値段の物だ。
シアがこれまで貯金していた金額であれば、なんとか買えるわけだけど・・・。
お金が下ろせないからなぁ。
貯金は冒険者組合にあずけてある。けれど冒険者組合に行ってカードを出すと、シアの身元がばれてしまう。捕まってしまう。
・・・だが、下ろせないわけでは無い。
通報から衛兵が到着するまで時間がかかるはずだ。
その間に購入して逃走できればいいわけだ。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・やっぱり無理じゃないかな。
「はいはい。ご主人様いきますよー」
「やあぁ・・・」
張り付いていたシアをエステラが引きずって連れて行く。
悲しいけどしかたがないね。
旅の道中ともなれば、そんなことも起こる。
シアとエステラは”魔都”の情報を得て、行ってみることにした。
けれど旅には意外なアクシデントがついてくる。
二人は、とある宿場町で足止めをくらうことになった。
「熱地が大炎上~っ!?。空はっ、空からいけばいけるんではないのかしらっ」
「いやー・・・大炎上の間は空気が燃えてるようなもんだからなぁ。蒸し焼きになりたくなきゃやめとくんだな」
「いつなら通れるようになるんですのっ」
「一月か・・・長けりゃ三月かかることもあるな」
なんてこった。
今いる東方領からさらに南東の魔都、フォルネストに行くには北から大回りをするか、もしくは熱地を一気につっきるしかない。
北周りだとおそらく星くじらの来訪時期に会いにいけないことになるだろう。となれば、魔都に向かうのは星くじらに会ってからになりそうだ。
熱地かぁ・・・、話には聞いたことあるけど、どうせだから見て行くか。
「・・・すでに暑い」
そうなのか。大丈夫だ、オレは暑くない。熱地♪熱地♪
「・・・・・・」
「ご主人様、折りましょう、それ」
「ん。」
ん。ではないが。だって、見てみたくない?、大炎上だぞ。オレの世界では炎上というだけでお祭りだったのに、さらに大がつくんだ。・・・行かねばなるまい。
シアはため息をついた。
「・・・いいけど」
おう。