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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
123/222

逃亡生活4 ヘビ王2

※会話はシアが仲介しています。


 他にもちょこちょこどうでもいい質問を投げかけては微妙な答えをもらった。

 本当に知っていることは何でも教えてくれるいい王様だった。

 魔素治癒の特殊輝石の入手方法を聞けば採れるダンジョンを掘れと言い、

 簡単に”技”スキルを覚える方法はないかと聞けば10年武器を振れと言い、

 エステラが人を生き返らせる方法を聞いてみたところゾンビ化させろと答え、

 オレが《変化》でちょー強くなるにはどうすればいいかアドバイスを聞いたら思い浮かぶが答えないと言った。

 ちくしょうめ


「そうですわ、なら、魔王の”支配”をふせいだり、解除する方法はありませんの?」

「ふむ・・・」

 エステラの質問に、ヘビ王は黙り込んだ。

「・・・・・・すまぬが考えがまとまらヌ。わしの思考につきあってくれ」

 そういって話し出した。

「まず、”魔王”は称号だと言われているが、これはまちがいだろう。<称号>は行動によって得られる。ならば産まれたときから<魔王>の称号を持っていることは世界の掟に反すル」

「世界の掟・・・」

「それも根源の海の一部ダ。いや、掟こそが根源の海と言うべきカ」

「んー?」

「・・・たとえばダ、昼間の空は青い。これが掟だとする。だがこの掟を変えれるとすると、空をピンクにも黄金にも変えられよウ。親は子を愛する。けれど愛を反転させることができれば、親が自分の子を殺すことになるだろウ。わしは、<魔王>もこれに類すると考えていル」

 本来定められた枠の、外におかれた存在ってことか。

「自己情報欄に表示されないモノはいくつかあル。<称号>やスキル習得以前の熟練度、元素、魔素、病気、寿命・・・細かいことを上げれば性別や年齢もダ。ここで大事なのが、<称号>が表示されないということ」

 魔王はスキルでも、固有スキルでも種族でもないから、消去法で<称号>だってことになってるのか。

「そうダ。表示されないもののなかで、何らかの増加効果をもたらすものが<称号>しかなイ。ゆえに”魔王”は<称号>であると言われている」

 けれどルール的にはおかしい。

「”魔王”は<称号>ではない。だが、それならば何なのカ」

 とりあえず困ったらオレみたいなイレギュラー存在としておくのがいいよ。ちょうど良く、困ったら突っ込んどけばいい何でも属性みたいなのがあることだし。

「”邪”か・・・。その特異な能力は確かに掟を思わせル。だが”魔王”は魔族にしか産まれヌ。人でも、魔物でも、獣人でもない」

 オレの世界には寄生ってシステムがあるぞ。他人の生き方のおいしいところだけをもらって、自分を育ててもらう方法だ。本来の子供を蹴落として、その子供に成り代わって親に育ててもらったりもするな。あとは転生・・・転生ってのもある。一度死んだ存在が、別の生命として誕生したんだが、前の存在だったころの記憶を持って生まれてしまうんだ。

「支配する方法を覚えて産まれてくる存在ということカ」

 あぁ・・・オレみたいに。この世界の効率のいい生き方を知識として持って、生まれてくるんだ。

 情報を失わない存在ってところか。

「そのような存在のことは聞いたことがなイ。・・・だが、その邪武器がそうだと言うのなら、不可能ではないのだろう」

 王様の役にたてて何よりです。

「だが、そういう存在がいるのであれバ、・・・掟を持ったまま、別の魔族に生まれることができるのならバ、そういった存在は実在しタ」

 ええと?どういうこと?。

「魔術でも、スキルでもない。”掟”そのものを扱う生き物だっタ。そいつらは、聖剣を持った人間と、龍によってすべて、滅ぼされたはずだ」


「呼び名を、”悪魔”と言う。”獣”の配下だっタ」


 悪魔・・・デビル。いや、イビル・・・邪武器エビルウェポンと近い言葉だな。同じような存在と考えていいかもしれない。

 ”魔王”は魔王ではなく、魔族の中に生まれる”悪魔”王だってことか。

「そうであれば、”魔王”は”獣”の配下ダ。その”支配”能力は、”無”属性の掟の可能性があル」

 ん?あぁ、一番最初の話か。

 どう防ぐか、どう解除するかっていう。

 ”無”属性を解除、無効にしないといけないわけか・・・。しかもスキルでも魔術でもない、”掟”とかいう番外戦術に対して。

「一応、《失力イレイズ》は効果ある。あと、パパとエステラには効かない。わたしにも、効果が薄い」

 それまで王様との会話を中継してくれていたシアがそう発言した。

 ”無”属性魔術は効果ありか?。無というか、”邪”らしいけども。そして同じく、”邪”属性のオレも効かないってことか。エステラはなんでだ?主のシアが拒んだからか?。

「たぶん・・・”人間”ではなく、”人族”だったから」

 シアが言う。魔王の影響力は、限定的だというのだ。

「前に、ミルゲリウスの仕事を手伝ったとき、夏休みの前と後で魔物の生息数に変化があった」

 あぁ、あったなそんなこと。一年以上前か。

「ゲリウスは、討伐を行ったから数が変わったと言ったけれど、その中に家畜である”豚”の魔物の数も、大きく減っていたの」

 豚。

「私は、それを聞いてから、ブヒ蔵が魔王になったと知って理由が分かった気がした」

 ええ、と?。

「ブヒ蔵はあの夏、配下の少年に裏切られて大ケガを負った。・・・それから配下に”人間”に敵対するように命令したのかもしれない」

 ・・・・・・本来配下ではないはずの、同じ”豚”に連なるものにまで、その命令がいってしまったということか?。だからミルゲリウスは豚の魔族を処分した、と。

 モルテイシアお嬢様が自分と同じ”牛”を言い聞かせていたのを見たことがある。

 同じようにブヒ蔵の意思が家畜の豚すべてに効果を与えたということか。

 まだ憶測だが、ブヒ蔵は配下か種族かわからないが、広範囲に影響するスキルを持っている。

「そのころのブヒ蔵はまだ、人の姿をしていなかった。まだ、<魔王>として、本来の力を発揮していなかった。けれどそれでも、特定の種族にだけは効果があった。なら、逆に、魔王の配下でも、特定の種族にまでは効果が届かないかもしれない」

 それが”人族”。

 そうか、”邪”の悪魔は人間と龍と戦っていたらしい。なら、本来人間や龍には効果がないものなのかもしれない。それを配下にすることで、人間にまで効果を広げることができた。

 けれど人間の上位種族である”人族”にまでは、力が及ばない・・・。

 ”種族”による防御があるということか。


 種族、《失力》、無属性耐性の特殊輝石。ひとまずはこんなところか?。

「まだあるナ。揺りかごによる防御ダ」

 ヘビ王がそう言う。

「魔王の”支配”はダンジョンの中には届かなイ。魔王がダンジョンにまで来るならわからんが、世界の揺りかごとダンジョンの揺りかごとは、確かな断絶があル」

 ・・・そうか。もし魔王の力がダンジョンの中にまで効果あったのなら、とっくに人間は滅ぼされていたかもしれない。

 Bランク、Aランク、そしてSランクダンジョンの魔物たち。そんなのがダンジョンから出てきてそこかしこで暴れたら、戦争なんてしている暇もないだろう。

 けれどそうじゃない。理由はこの世界とダンジョンは別の効果範囲だからだ。

 お嬢様をダンジョンにつれてくれば洗脳が解けるというわけでもないだろうが、少なくとも、解除方法を見つけられたのなら、解除はダンジョン内で行ったほうがいいということか。

「ん。」

 一つの目処が立った。

 解除方法はまだだが、解除後に防ぐ方法はある。それだけでちょっと前進した。


「話は終わりましたわね。それで?これからどうするんですの?」

 長い話し合いが終わり、各々が今あったことを頭でまとめている所だった。

 エステラは今後、どう行動するかとシアに聞いてきた。

 王に会う前までなら、人間領域に帰るのだと言えたが、今は違う。

「・・・グラフェン・テスラーに会いたい」

 シアのママだな。人間領に帰ってしまうと、今度いつ探す機会があるのかわからない。今、この時に会って話しておきたい。

「わかりましたわ。そう言うと思っていました。えぇ、もちろん。私もごいっしょいたしますわよ」

 何かちょっと恩着せがましいが、最初からエステラも数に入っている。

 包丁と特殊輝石によるゴリゴリな強化のおかげだが、彼女も立派に規格外戦力に育ちつつある。

 シアの背中を守るに値する、仲間だ。

「ん。ありがとう」

「・・・くふふ」

 何だろうな。

 最近思うんだが、エステラのシアに対する感情が好意を含んでる気がする。昔はあんなに嫌っていたのになぁ。まぁ命がけで魔族から守られてたらそうなるものなのかもな。


「・・・一つ、口を出させてもらって良いカ?」

 オレたちの様子を横で眺めていたヘビ王イグンが声をかけてきた。

「ん?」

「そなた、魔王の支配に抗いきれぬのであろう。自身を守る算段はたっているのカ?」

「・・・・・・特殊輝石」

 無属性耐性。

「わしならそれでも良いがナ。そなたら何年時間をかけるつもりなのだろう、人の子はもっと生き急ぐものだと思ったが、のんびりしたものヨナ」

 わかって言っておられますよね、王よ。

 確かに目当ての特殊輝石を掘り出すのにどれだけ時間がかかるかわかったもんじゃない。

 現実的ではないだろう。

「・・・何か、案が?」

 ふむ、とヘビ王はあごをなでながら答えた。

「龍を探してみぬカ」

「龍・・・」

 恐竜の竜ではなく、本物の龍。シアの中に流れる、ファンタジー生物。

 会ってみたいとは思うが、その龍に会うと何かあるのか?。

「今もいるかどうかわからぬ。その昔、龍は空を渡る翼を持っていタ。星の間を渡る途を知っていタ。悪魔が”獣”の配下ならば、龍は”星神”の使徒だ。その目を持つそなたならば、龍に会い、悪魔に抗う方法を知ることもできるかもしれヌ」

 龍ってそんななのか・・・。

「星くじら・・・」

 あれも星を渡る生き物だったっけな。

「ほう・・・やはりまだいたか。それは竜の星神の使徒であるな。水龍と呼ばれる龍ダ」

 龍なのーっ!?

 あれが龍か・・・くうう、なぜどれもこれも期待を裏切っていくのか・・・オレが異世界に求めすぎなのだろうかっ

 くじらはくじらですー。

 あんなポッコリお腹の龍がいてたまるものかっ

「・・・ふふっ」

 ともあれ、確かにシアの”支配”に対する耐性はどこかで何とかしなければと思っていた。

 その方法を龍が知っているかもしれないと言うなら会いに行くのも悪くない。

 今は5月。星くじらがやってくるまであと3ヵ月。

 それまでにいろいろとやれることがありそうだ。


「ヘビの王様。いろいろありがとう」

「いや、わしもそなたらから教えられることがあっタ。有意義であった。また、用があればまいるがよイ」

「ん。」

「・・・知識でも、わしの持つ財宝でも、ナ」

 それはあんたを倒せってことか?。

 ダンジョンに棲む、ということはそういうことなのだろう。

 ヘビ王を倒したくはないが、けれど倒してもいいし、逆にこちらが倒されることもある。

 そういうもの。

 それがこの世界のルールなのだから。



「・・・これは聞くべきか聞かざるべきか悩んでおったのだが・・・」

 ヘビ王がめずらしく言葉を選んでいた。なんだろうか。

「その頭上の装飾が、今の流行なのカ」

「・・・・・・にゃー。」

 シアはわんだから。

「ふむ、・・・深いナ」

 引きこもってばかりではダメかもしれないと、考えさせられる一幕だった。


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