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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
122/222

逃亡生活3 ヘビ王1


 その後はしばらく大変だった。

 ヘビが残っていないか見回りに駆り出されたり、亡くなった遺族に感謝されたり、冒険者にパーティーにさそわれたり。

 けれどそのどれもが、結局この町を離れざるをえないだろうという結論につながっていた。

 有名になればなるほど、身元がばれる危険につながる。

 今回のことはそのきっかけになる。

 シアが一刀でヘビ戦士を絶ち切ってしまったことも原因だが、エステラの活躍が大きかった。町のあちこちであばれていたヘビ戦士を光と共に殲滅していったのだ。目立つと共に、その雄姿を目に焼き付けた人が多かった。

 シアたちはここを旅立つ用意を始めていた。

 他のひとには知られないように、こっそりと。

 けれどその前に、どうしてもやりたいことがあった。

 ダンジョンの奥へ――再びヘビの王様に会うために、シアとエステラはAランクダンジョンの攻略を始めたのだった。



「《虚無弾アーマーン》」

 ずごごごごと地面に穴が開く。その穴をのぞき込み、下につながっていれば成功、つながっていなければ失敗だ。

 今開けた穴は失敗になる。

「ここも×、っと。どうも下の階は面倒なことになってそうですわね・・・」

 エステラがマップを付けながら嘆息していた。

 1階層目から2階層目は《虚無弾》によるショートカットで難なくこれるようになったが、2階層目から3階層目へのショートカットが見つからない。

 というのも、どうやら3階層は通路よりも大部屋が多いらしく、下につながる穴を見つけても危なくて開通できないことが多いのだ。

 大部屋にはヘビ戦士が複数体うろついている。目的は王に会って帰って来るだけなので、いちいち危ない戦闘をしたくない。

 だから安全なショートカットを探しているのだが、これが見つからなくて困っていた。


「部屋につながる通路の方角だけでもわかれば楽なんですけどね・・・」

「んー・・・」

 貨幣を落として音の反響であたりをつけるとかどうかな。もしくは紙切れを落として風の流れから通路の位置を探るのもいいかもしれない。

「何か一発で下の状況がわかる方法とかあればいいのですけれど」

 流石にそれはないだろう。そこまでの物を求めるなら、魔獣使いでも連れてくるしかない。

「魔獣使い・・・わかった」

 シアが立ち上がる。

 お?、あてがあるのか?

 タシム以外にそんな知り合い・・・ミルゲリウスの部下にいたくらいか。

 シアは地面に対してまっすぐではなく、今度は斜め方向に土を掘り始めた。

 ズゴゴゴゴと穴が開き、坂ができる。その坂を途中まで降りて、今度は垂直に穴をあける。

 あの、シアさん、何を考えていらっしゃいます?

「パパ。偵察よろしく」

 シアはズゴッと開いたばかりの穴にオレをつっこんだ。

 目と目が合う。

 上から降り注ぐ《虚無弾》から身を護るために壁際に退避しているヘビ戦士と目が合った。

 ・・・・・・コンニチハ

 オレはそのままグルリと回され、部屋の全貌を把握させられる。

「どう?」

 ズボッ、と引き抜かれた先でシアに聞かれる。

 つ、通路は2本。ドアで閉じてあって、今エステラがいる方角に3メートルの所。その反対側4メートルの所の2カ所だ

 シアとエステラはうなずいて地図とてらし合わせる。

「ここ・・・いけそうですわね」

 エステラが指さしたのは2階層の通路の一角だった。1階層からも遠くなく、悪くはない気がする。ただ、さっきの部屋からそんな遠くない場所なので部屋の魔物が出てくると大変なことになりそうだが。

「・・・ひとまず、下に降りてから安全なルートを探す」

 そうね。もしくはまたオレだけ穴から出して通路の方向を確かめていけばいいと思う。

 正直冷や汗ものの確認方法だったけどねっ

 二人が安全ならそれでいいよ・・・


 さて、効率の良い確認方法を見つけた二人は順調にダンジョンを下っていった。

「ここですわね」

 ダンジョンのここまでの部屋にはなかった、ひときわ大きい扉の前に二人は立っている。

 魔術も温存し、MPも十分。もし戦闘になってもそうそう負けることはないだろう。

「行こう」

 シアが扉に手をかける。

 エステラがうなづいて、開いてゆく扉のさきを警戒しながらついてくる。

 部屋は暗い。

 エスエラが明かりをつけようとするが、それより前にポッ、と部屋の隅に明かりが灯った。

 ポ、ポ、ポ、と手前から奥へ、明かりがだんだんとついてゆく。

 ――あぁ、やはり大きい。

 部屋の先まで明かりが灯りきっても、その体をすべて照らし出せることはなかった。

 それほどの巨体をかがませ、そのダンジョンの主は二人を歓迎する。


「・・・よく参った。いつぞやの娘よ。まさかこんなに早く再開できるとは思わなかったゾ。・・・それデ、そなたらの望みはなんだ?、争いか、それとも知識か」

「・・・知識を」

 シアは答える。

 エステラは少し緊張の糸を緩めていた。彼女はヘビの王の威圧で体が硬直していたのだろう。戦闘にならなさそうだとわかって気負っていたのが解けたらしい。

「ならば答えよウ。この前の質問は何だったか・・・」

「根源の海」

 ”根源の海”。ヘビ人間の王、イグンが口にしたのは元素を汲み取り、そして還す場所としてその言葉を出したのだ。

「世界は元素で創られている。たとえばこの壁や地面は元素を、花の星神が汲み取り、土の魔素と組み合わせて作りだしたものダ。空は、馬の星神が元素を汲み取り、風の魔素と組み合わせて作りだした。ヒトは天使の星神が元素を汲み取り、生の魔素と組み合わせ、そして核に元素を注いで造り出したのダ」

「星神?」

「世界を創る話ダ。・・・そこから話さねばならんカ?」

「いえ、知ってる。七星のおとぎ話・・・。確か空にある中天軸の星座。七つの星座。でも、七つじゃなくて、もう一つある。七つの星から悪いことをいさめられ、しかられた星」

「そうダ。それは根源の海を守っていた”獣”のことダ。今は七つの星と戦い、負け、根源の海の底で眠りについていル。そのおかげで元素が汲み取れるようになり、世界は七つの星の力で創ることができるようになったのダ」

「獣・・・」

「”獣”としか名の無いモノよ。それは七つの魔素にあらズ。”無”もしくは、”邪”と呼ばれるモノだナ」

 8つ目の属性が、”邪”?。

 邪武器の”邪”か?

「”邪”はわからぬ。この世界に普通に生まれ生きるだけでは触れられぬ領域のこと。おそらく、魔素とまじりあわぬ元素そのもののことだと思うがナ」

「パパが、”邪”武器と呼ばれているけど、聞き覚えはない?」

「無いな。だが、ヒトの打った武器でなければ、あとはダンジョンのように揺りかごの主が創ったのかもしれヌ。ダンジョンが魔道の武器を造り、七星が創った世界が七つの聖剣を造ったように、どこかの揺りかごで”邪”の武器が創られたのかもしれぬゾ」

 オレは、たとえばだが、その根源の海で創られたってことか。

 というか、聖剣もダンジョン産のように、世界産の武器なのか。

「聖剣と同じように・・・」

「そうダ。だが、土の力が弱まったと言ったな。それともかかわりのあることだが、聖剣は壊せば、世界に影響を及ぼス。その”邪”武器とやらも壊れたとき、何が起こるかわからぬゾ」

 そうなのか。

 オレが壊れるとオレが死ぬと思うが。うーん?。

「ダンジョンから武器を持ち出せば、その武器はダンジョンの影響を離れたと言える。もうダンジョンの魔素を受けず、育つこともなくなル。けれどこの世界にある聖剣は、世界のそとに持ち出せないため、ずっと世界とのかかわりを失うことがない。ゆえに、可逆の喪失がおこル。聖剣の元素が失われれば、創った星神の力も失われル」

 ・・・・・・なんかすごくまずいことを言われている気がする。

 聖剣を壊すとどうなるって?

「聖剣を壊すと、世界を創った神が弱る」

「そうダ」

 ・・・・・・もう2本も壊れているんですけど。

 おおい、なんてこった。ヒュリオは知っているのか?、知ってて壊しているのか?。首都崩壊とかいうレベルではないかもしれないぞ。

 世界が崩壊する可能性がある。

 わかっているのかっ。

「・・・すごい話になってきましたわね」

「ん。・・・聖剣は、すでに2本、壊れている」

 シアがそう告げると王様の目が驚きを映すように開かれた。

「・・・そうカ。それがどのような現象を起こすのか、詳しくは知らヌ。生きてきた1000の年月の間には、そのようなことがおこったことはない。わしにわかるのは、その魔素の属性が弱まるということだけダ」

 花の星神が創った聖剣が壊れると、土の力が弱まるように、か。

 そういやさっき、”生”属性って言ってなかったか?

「生の魔素って、何?”魔”属性?」

「そうダ。魔道具、魔物、魔素。どれも”魔”が入っているゆえ、”魔”属性と呼ばれているようだが、本来は生命にかかわる属性だ。古いモノは”生”属性と呼ぶものもおル」

 さらっと1000年生きてるとか言ってるからなぁ。1000年ダンジョンにこもっていたのかな。崇め奉るべき引きこもられし大先輩だったか。

「パパの先輩・・・」

「そう、カ?」

 王様が少し首をかしげている。

 ゴメン。こっちの話です。


「しかし、2本も壊れるとはナ。・・・どの聖剣かわかるか?」

 今度はヘビの王がシアに質問を投げかけてきた。

「ルデリウス神聖国にあったやつ」

 いや、2本というのはただの憶測だけどね。続けざまに同じような災害がおきたのでおそらくは、という話。

「わからヌな・・・いや、ルーデリアス神か。ならばおそらくだが、天使の星神の聖剣だろう。”生”属性の力を持つ聖剣だ。・・・それが本当であれば、世界に生まれる命の数が減るかもしれぬナ」

 おーいっ

 やめて、なんかとんでもない話をサクサクしてくるのやめて!

 知りたくなかった・・・なんてこった。

「このまま・・・聖剣が壊されていくと、どうなるの?」

「わからヌ。こんなことは今までないからナ」

 というか、聖剣を壊して何かをしようとしている存在がいる。

 ヒュリオやオレ達”邪武器”に使命として、聖剣を壊すように言った存在。

 そいつなら、聖剣が壊れた先に何が起こるのか、知っているだろう。


「魔将・・・グラフェン・テスラー」


 そう。オレとシアの、製造主だ。


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