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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
121/222

逃亡生活2


 ダンジョンの採掘がはじまった。

 といっても、封鎖が解除されたわけではない。

 町の男たちが勝手に封鎖を解いてダンジョンに潜り始めたのだ。

 Aランクダンジョンは怖いのか、入り口からゆっくりと壁を掘っていくらしい。

 今日はどれだけ掘った、何が見つかった。

 そんな話を治療院に来た男たちが傷を武勇伝みたいに見せびらかしながら話してくれる。

「そうですかニャ。すごいですわねーニャ」

 エステラがシアにアイコンタクトしてくる。

 シアはうなずいて答える。

 まだまだシアたちのダンジョン入り口からは遠い。

 こうして彼らの進捗状況を探っていればかち合うこともないだろう。

 ――なんてことを、のんびり考えていた。


 ダンジョンの採掘がはじまって2ヵ月。

 この町には薬屋がある。けれど町の主な産業が産業なせいで、品切れが多い。

 そのせいで治療院がにぎわっていたのだが、近くにダンジョンができたせいで薬屋の店主は考えた。

 商品の輸送を待っても状況は改善しない。自分の魔素を抽出してもたかが知れている。なら・・・。


 その魔素をダンジョンから抽出すればいいのではないか?


 この町には冒険者組合がない。

 だから、本来徹底されている”ダンジョン”における禁止事項が周知されていなかった。

 薬屋の店主はダンジョンから魔素を抽出した。ちょっとなら問題もなかっただろう。けれどダンジョンの入り口で、毎日、毎日魔素を抽出してしまった。

 それは生き物である”ダンジョン”の怒りを買う。

 魔素を奪うということは、ダンジョンを衰退させ、最後にはダンジョン自体を殺してしまうことになるからだ。

 それをふせぐために、ダンジョンは魔素を奪う相手に防御機能を発動させる。

 ダンジョンの最奥にいるはずのボスが、手下の魔物を率いて魔素の簒奪者を殺しにやってくるのだ。


 その時、シアとエステラは魔術治療院の1階でお茶を飲みながら休憩していた。

「・・・・・・何か外が騒がしくないかしら」

 最近は安物の茶葉からこしたお茶でも文句を言わなくなったエステラが、茶菓子をつまみながら窓に近寄る。

 外はそろそろ夜になる。町に魔道具の明かりが燈り始めている。

 エステラの目が左から右へと何かを追いかける。何度も、何度も、左から右へ。

 ばんっ、と大きな音がして治療院の扉が開いた。

「せ、先生っ、若先生っ。大変だ、きてくれっ怪我人が・・・いやっ、魔物がっ・・・!」

 なじみの男たちが大怪我をした男に肩を貸しながら入ってきた。

「どうしまし、た・・・せ、先生っ、先生、怪我人がっ、たくさんいますっ」

 男は一人じゃなかった。その後ろにも、後ろにも怪我人を連れて治療院へ向かってきていた。


 シアが背中に背負ったオレを引き抜いて立ち上がる。

「エステラっ」

「えぇっ、シア様、行くのですのっ。何が起こっているかわかりませんが、私たちのかかわりのないことでしょう?」

 男たちと看護術師のやりとりを聞くに、おそらくダンジョンから魔物が外に出てきたのだろう。

 Aランクダンジョン。

 そのほとんどが蛇型、アナコンダソルジャーのはずだ。

 Aランクの魔物と戦える人はどれくらいいるんだ?まずいな。一匹でも出てきていたら・・・かなりまずい。

 シアとエステラは外に出て走り出した。

「いましたわっ、あそこ、・・・シア様、光でいいですわよね?」

「んっ。」

 2匹だ。

 何匹も外に出てきているのか。


 エステラの《雷光》がヘビ戦士を打ち付けられる。

 何度も、相手が動かなくなるまで。

「シア様、私は高いところからヘビを探しますわっ、シア様はダンジョンへ向かってください」

「わかった。・・・気を付けて」

「はいっ」

 シアはダンジョンへ向かう。

 途中途中に殺された魔族の体が転がっていた。

 目の前に一匹。長い片刃の剣を持って辺りの動くものを探しているヘビ戦士がいる。そのヘビがシアに気が付いた。

 笑っている。

 外の世界。ここにいる生き物は、みんなどいつも脆弱だと笑っている。また新しいおもちゃが湧いてきたかと、笑っている。

 シアはオレを振り下ろす。

 槍形状から鞭へ。

 まだ距離が遠く、槍では距離的にあたらないと思っていたヘビは、防御も回避もとらなかった。

 頭の先から足の下まで。

 一撃で真っ二つになる。シアは左右に分かれるヘビの横を通ってその先へ急ぐ。


 声が聞こえる。戦う音が聞こえる。

 どうやらダンジョンへもぐっていた男たちの声のようだ。彼らは冒険者にも声をかけていると言っていた。そのおかげか、無事だったらしい。

 音の発生場所が見えてきた。

 ・・・・・・何だあれ

 5体のヘビ戦士に囲まれて戦っている数人の男たち。おそらく前にいる4人が冒険者だろう。その後ろでスコップやツルハシを構えているのが採掘のやつだな。

 そしてそのヘビの先、ひときわ体の大きな・・・まるで上から覆いかぶさってくるようなほどに大きな体をした巨大ヘビ人間。

 それが、ヘビ戦士と魔族たちの戦いを眺めている。

 大きすぎだろ・・・どうやってダンジョンから出てきたのか。ヘビだからニュルンと通り抜けられるのか?

 どうする?どっちからやる?

「・・・小さいの」

 小さいとは言うが、それでもかなりの大きさである。シアは駆け寄りざまにオレを横凪に振り回した。気が付いた一匹が武器を縦にしてその攻撃を受ける――受けようとした。

 ギャリギャリと武器から火花を散らした後、その一匹は武器ごと胴を腹で分かたれて転がる。あと小さいのが4匹。仲間がやられたことに気が付いたヘビ戦士がシアに警戒音を飛ばしてくる。

 ヘビ戦士は土魔術の石礫いしつぶてを飛ばしながらシアに剣をふるう。

「《風刃スラッシュ》っ」

 石礫を風刃で吹き飛ばしシアがオレをふりまわす。しかし警戒しているヘビ戦士は距離を取って武器で直接受け止めないように戦っている。

 警戒されると厄介だな。

 近づけば遠ざかられる。冒険者たちの安全が確保できたのはいいが、時間がかかってしまう。

 こちらの攻撃を読んで尻尾を振り回してきた一匹に対してオレを再び槍にもどして回転の遠心力を押さえ、素早い振り向きから再び鞭へと攻撃を切り替える。尻尾はシアにたどり着く前に切断され、次いだシアの踏み込み斬撃で胴を絶ち切られた。


「た、助かった・・・ありがとう」

「おい、あんた、治療院のとこのじゃねえか。・・・すげえな」

 喜んでくれてるのはいいが、手こずっている。手伝ってくれるとうれしい。

 冒険者の協力もあり、もう1体のヘビ戦士をたおすことができた。

 あと2体――そう算段を付けたところに、頭上から声が降ってきた。

「自在に動く武器か・・・なるほ

 声を無視しながらシアが全力でオレを旋回させた。ヘビの親玉――おそらくダンジョンのボスに向けて渾身の一撃を放つ。

「《重剛剣グラディエート》」

 ボスはまっすぐ地面に剣を突き立てる。太く重い、まるで鋼の鉄板ではないかという武器だ。それがボスの足元に刺さった後、オレの蛇腹槍が鉄板に打ち付けられる直前、

 オレは上からの重力でその刃をすべて地面に縫い付けられてしまう。


 なっ、ばかなっ

「パパっ」

 めずらしくシアのあせりの声が聞こえる。

 こんな方法でオレが簡単に無力化されるとは思ってもみなかった。

 遠心力で動くオレの刃には、先にいけばいくほどシアの力が直接作用していない。

 だから重力で無理やりその方向を変えてやれば、オレの動きを地面に縫い付けることも可能なのだった。

 っ、戻れ、早く、槍に!

 体全体に指令を出し、別方向へ向かおうとする体を鞭うって集合させる。


「・・・・・・」

 シアは無言で槍になったオレを構える。

 今度はさっきのように攻撃を急いだりはしない。このボスは・・・強い。おそらく、シアよりも。

「・・・なるほド、おもしろいことをしているナ」

 それは巨大ヘビの口から発せられていた。

 まさかしゃべることができるとは。

「しゃべった・・・」

「しゃべれもする。わしハへび人間の王。イグン。そこの不埒物を処罰しにまいっタ。邪魔をしなければみのがすが、どうすル」

 不埒物というのは冒険者に守られている男の内の一人か。きっとその誰かがダンジョンを怒らせるようなことをしたのだろう。だからダンジョンのボスが出張ってきたということか。

「・・・彼らは、何をしたの」

「このダンジョンを殺そうとしタ。ダンジョンとは命をはぐくむ揺りかご。一種族の利益のために壊して良い場所ではなイ」

 そう言われてしまうと反論できかねるが、どうだろうか。彼らはそれでも仲間のことを守ろうとしているようだったが。

「・・・矛を収めてもらうことは、可能?」

「ふむ」

 ヘビの王は考える。

 正直、さっきのやりとりだけで難敵であることがわかっている。戦いたくない。他の解決策があるならそっちですませたい。

 あ、ただしシアに代償を求めるのではなく、彼らの払えるものでお願いします。

「・・・私ではなく、彼らに賄えるもので考えて」

「つまらんな。ならば一番は命ダ。揺りかごを危険にさらした分の”元素”を補ってもらう。これは今後同じことをさせないための安全の意味もある」

 まってまって、元素って言った。元素にくわしいのかこの王様

「”元素”って何?」

「命のことダ。根源の海から汲み取ったすべてのモノの元となるモノ。命を奪うとはその元素を根源に還すということダ」

 なるほどな。まぁ予想できる範囲のことだったが、『根源の海』だけはわからないな。シア、聞いてみて

「根源の海?」

「なるほど、娘、どうやらこの話はそなたにとって重要な部類に入るらしいナ」

 おっと、王様はかしこき王でありましたか。みすかされてしまった。

「続きが聞きたければわしの寝所までまいられヨ。今は別のことに忙しいのでナ」

「・・・命以外では、何かない?」

「ふん。その者たちでは出せる物もあるまい。・・・そなたであればその金色こんじきの眼か、力を持つ宝石で手をうつこともできたのだがナ。今からでも考えてみぬカ?」

 眼はあれだが・・・力を持つ宝石とは特殊輝石のことか?

 そうであれば出せなくはないけども、どうだろうか。

「・・・・・・宝石って、これのこと?」

 シアは自分の胸当ての中にいれていた特殊輝石を一つ、取り出して見せた。今持っている物は《斬撃耐性》《衝撃耐性》《火耐性》《風耐性》《筋力+》《罠回避》の6個だけだ。

「そうダ。他にもあるだろう?、今持っている大きさのモノであれば、あと4個はいただきたイ」

 特殊輝石5個かー・・・高いなぁ。

 シアは固まっている男たちの方を見て聞いた。

「特殊輝石5個分の金銭と、この騒動を引き起こしたひとの命、どちらですませたい?」

「も、もちろん金銭ですっ」

 シアは5個分の相場と思える金額を提示する。今回の騒動を起こしたらしい男は二つ返事でその金額を払うと言った。証文を簡単にだがとりかわし、シアは男の手に5個の特殊輝石を持たせる。

 男は恐る恐る、ヘビの王にその特殊輝石を献上する。

「確かニ。もらい受けタ」

「・・・特殊輝石で、代わりになるの?」

 シアが横から口を出した。

「・・・そうダ。しばらく前から土の力が急激に落ちた。わしらは土の加護も受けている、この宝石で、わしらの子のための土の加護を賄うのダ」

 宝石は土の属性ってことか。しっかし、土の力が急に落ちた・・・?。・・・・・・いやいや、まさかね

「なんで、土の力が落ちたの?」

「・・・・・・さてな、わしには答えられぬことダ」

 今、はぐらかした。知ってても教えられないこともあるってことか。まぁいいか、こんなところで元素のことが聞けただけで十分。5個分の特殊輝石は痛いが、金銭的にはそこまで損ではないし。・・・残ったのは《筋力+》だけか。防御面が大幅に心もとなくなった。

 なんてことをオレは考えていたが、シアはまだ、話を終わらせるつもりはなかった。

 応えられない、と言った王様に、シアはもう一歩踏み込んだことを告げた。

「”花”の聖剣が壊れた。それと関係ある?」

「ほう・・・知っているか。・・・ダンジョンの最奥にこい。わしはまっていル」

 それだけを言うと、王様はヘビ戦士を連れてダンジョンの中へともどっていく。これ以上のことが聞きたければ、ボスの部屋までやってこいということだ。

 ひとまず、話し合いで帰ってくれてよかった。


 あれはまずい。こちらの戦い方と相性が悪そうに思える。おそらくあれだけの巨体となると、オレの神技《ノコギリ草》でも表皮を削る程度にしか効果がないだろう。神技、集団にはめっぽう強いんだけど規格外な巨体の相手にはからっきしだな。

 ・・・しかしダンジョンの魔物でも会話ができる個体も存在するのか。魔物から魔族にならないとダメかと思っていた。いや、よくよく考えてみるとリザードマンも普通に言語はあったからなぁ。覚える気になれば覚えられるのかもしれない。

「ご主人様~」

 遠くから声がする。エステラが手を振りながら駆け寄って来る。

「こっちはどうですか、終わりましたか?」

「ん。終わった」

 それは良かったですわ、とうなづきながら辺りの様子をうかがう。

 地面にへたり込んでいる男たちを見て、何だろうと首をかしげている。

 へたりこんでいる中から数人の男たちがシアに寄ってきて、感謝と感嘆の言葉をくれた。

「すげえな、あんた。おれなんかあのでっかいヘビを見ただけでぶるっちまって声もだせなかったぜ」

「あんた・・・あれを見ても声すら震えてなかったな。どんだけ場数を踏んだんだろうな」

 《龍胆》の力です。下位種族からの威圧は無効なんです。というか、あの王様威圧してたのか。気づかなかったわ。

「ありがとうな。代金は必ず払わせるから、まかせてくれ。あんたのおかげだもんな。命拾いしたぜ」

 そんなことを言われながらぽんぽん頭をたたかれている。

 シアにあまり気やすく触らないでもらいたいっ

「ん。・・・わかった」

「・・・・・・いったい何があったのかしら」

 エステラは首をかしげている。

「え、リステラも、お疲れ様。助かった」

「いいですわよ。うちのご主人様はやっかいごとに首を突っ込むのが好きだというだけですわっ。もう慣れました。それに、そういうの、嫌いではありませんもの」

 そうだな。なんのかんの人助けに走り出すところ、好きだぞ

 シアは照れ隠しに腕で頬をこすっている。

 ふふふ、かわいい。

「・・・・・・ん。今後も、よろしく」

 はにかみながらそう言った。


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