ゴブリン2
――夜。
見張りの数を3倍にして警戒している。
どうやらゴブリンは少し離れた丘に拠点を作っているようだった。
まだ攻めてくるつもりらしい。
シアは無事だった。
だが、今日のやりとりを見ると明日も安全だとは思えない。
コモンまで引っ張り出して戦闘することになったのだ。明日はどうなるか・・・。
いっそ逃げ出してもいい気がする。
オレ達は異邦人だから、ここが危ないとなれば違う場所に行くことは悪いことじゃない。
そういう話をしたいのに、シアと顔を合わせることができないまま、次の日になった。
すでに準備ができていたからか、その日の戦いは有利に進んでいた。
奇襲してさえ落とせなかった集落だ。奇襲がなければなおのこと、攻め落とすことは無理だろう。
心に余裕があるというのはいいことだ。
補助戦闘員としてチョロチョロしているシアの姿をほっこりしながら見れる。
包帯をもっていったり、水を届けたり、ゴブリンの死体を片づけたり。
比較的安全な場所でお手伝いしている。
かわええなぁ。
ほっこり。
そうして昼過ぎ――午後の戦闘が始まるころ、異変が起こる。
ゴブリンの指揮が途切れたのだ。
それまで軍隊のようにまとまって動いていたものが、ばらばらに行動し始めた。
そして自分たちの後ろを気にしている。まるで後ろから何か別の敵に襲われたように。
それは間もなく、こちら側からも理由が見て取れた。
一撃で十数体のゴブリンを蹴散らすスキル。戦場に直線状の傷跡をのこす魔法。
統一された白銀の甲冑に身をつつみ、ゴブリンよりあきらかに大きな体をした――
人間。
それは人間だった。
人間の兵士達がゴブリン達を蹴散らしている。
100人から成る人間の集団は、ゴブリンを包囲しながらその輪をゆっくり狭めてきていた。
なるほど、納得することがある。
もしゴブリンに上位種、ゴブリンコマンダーやゴブリンキングのような指揮ができるものが現れたとする。それは人間にとっても脅威である。
ゴブリンの繁殖力を考えれば、早期に解決してしまいたかったはずだ。
しかしそのゴブリン達、手始めに近くのリザードマンと戦いをおこすようである。指揮官を後方においての戦闘。背中から襲えば楽に目的の上位種を倒すことができるだろう。
頭さえつぶせばあとは烏合の衆。ついでに掃除もしてしまおう。
そしてこうなった。
ありがたい。が、ありがたいですむはずがない。
人間による掃除は、どこまで行われるのか。
人間だった自分だからわかることがある。
ゴブリンもリザードマンも、モンスターでしかない。
どちらも殺しておいてかまわない種族なのだ。
ゴブリンを掃討し終えた人間たちは、次にリザードマンを殺し始めた。