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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
118/222

逃走3


「《風突スラスト》っ」

 シアの《風突》で流れの外にはじき出されそうになっていたオレ達は、再び流れの真ん中にもどされる。

 川の流れは速い。ともすれば流れからはじかれ、川を囲う壁に叩きつけられそうになるほどに。

 川の中は暗い。エステラの魔術の光がほとんど届かない。暗く、目まぐるしく流れる水のなかを、突然現れる岩礁。オレはその岩礁に当たらないように刃の向きを操作し、流れを変える。それでもぶつかりそうであればスキルを使ってシアたちを違う流れにのせる。

 一瞬も気の休まる時が無い。

 オレはまだいい。どれほど水が冷たかろうとその冷たさを感じない。だから変わらない性能を発揮することができている。

 けれどシアは違う。無表情でひょうひょうとして、なんでもそつなくこなせるような奴だけれど、あのこは血の通った亜人なのだ。熱がうばわれれば手から、足から感覚がなくなっていく。体がうまく動かせなくなってゆく。

 そうなればみんなの命をにぎるのは・・・オレだけだ。


 しかし暗い。

 それまで所々にあった天井の穴が、だんだん少なくなってきている気がする。

 本格的に地面のしたに潜り始めたようだ。

 がくっ、と水に沈んだ。

 シア、平気か?。シア?。

「・・・・・・ん。」

 シアの返事が聞こえる。だが今までの繊細な誘導が無い。だんだんとシアの集中力も切れてきたのだろう。

「つっ、シア様っ。岩がっ」

 エステラの切迫した声がした。すぐガンッという何かにぶつかった衝撃がくる。

 何だっ、シアっ、エステラっ、無事か!

 二人の返事はない。

 くそっ、どうすれば・・・

 ええい、いちかばちかだ・・・!

 オレは自分の刃をいくつにも分け、それを二人の体に巻きつけて行く。二人が離れないように、何かにぶつかっても傷つかないように、けれど衝撃まではなくせない。

 どうすれば・・・どうすればいい・・・っ。

 どうすれば二人を守れる、助けられるっ。

 考えろ、

 思い出せ、

 オレに何ができる?

 オレの可能性、

 オレにできること。

 過去を思い出す。


 姿を変えた。質量を代償にして。

 姿を変えた。スキル枠を代償にして。

 姿を変えた。名前を代償にして。

 ・・・・・・そしてもう一人。

 変わった者がいる。

 ヒュリアリア・M・アウグステン

 彼女は”変身”の固有スキルを持っているか、もしくは変装しているのだと思っていたが・・・別の可能性がある。

 シアが言っていた。

 ヒュリオは2度、パパを奪った、と。

 一度は聖誕祭の日。ならばもう一度は――・・・もしかするとシア達が生まれたあの場所で、赤毛の赤ん坊にもがれたオレの一部。オレの、《変化》スキルを奪ったのだとしたら――


 ヒュリオは性別を変えたことになる。


 性別を変えた。おそらく代償は質量だ。男の体から、女の体へと。違和感なく、変化するために、30%分の脂肪や筋肉を捨てたのだ。

 オレのスキル。オレの固有スキル。

 他の邪武器には設定されていない、『30%の代償を払い』という重い文言。

 これには理由があるとしたら・・・

 あまりにも強い能力に、枷として設定されたものだと考えたなら――それはもしかするとオレが考えているよりも、もっといろいろな可能性のあるスキルなのではないか。


 ・・・だとすると・・・あまりにありえないことだけど・・・そう。もしこのスキルがオレの考えた強力なスキルならば・・・

 そして代償を、オレが”いらない”と考えたものに適用できるのならば・・・

 オレは思考し、そして決めた。


 スキル、《変化》を使う。


 よしっ。

 そしてオレたちに岩壁が迫る。

 さっきまでならオレの刃の硬さで強引に防いでいた場面。

 どうだっ


 《風突》っ!


 オレの放ったスキルは突き攻撃ではない。本来の風突は突きをするモーションと合わせて使わなければ、威力は大幅に減少されていた。けれどこのスキルは違う。

『刺突術《風突》』ではない。

 新しいスキル。


『防御術《風突》』


 きちんとそうなっているかはシアかお嬢様でしか確認できない。だが、できたならそうなっているはず。

 よし、突きがなくてもいつもの威力の《風突》が出ているな。やっぱりできたか。

 スキルを《変化》させられた。

 さて、問題は代償だ。・・・どっちだ・・・どっちになった・・・?

 オレは周りの状況に目を配りつつ、時間を量る。

 10秒・・・

 20秒・・・きたっ

 《風突》っ!

 再び風の衝撃がぶつかりそうになっていた岩礁を破壊する。

 約20秒。

 本来の《風突》に与えられている準備時間は30秒だ。オレは代償として、この準備時間を捧げた。

 《変化》の文面にはこうある。『30%の代償を払い』。もしこの”代償”が減少のことだとしたら?。代償が望まない方向への負荷だったなら、ヒュリオは男性だったころよりも大きな女に変化しただろう。だけど逆だ。代償を己の望む方へと、減少のみの効果として使っていた。

 この『代償』は”減少”のことなのだ。

 ならば準備時間を代償に選んだらどうなるか――それがこの答えだ。


 準備時間30秒のスキルから30%の代償が減り、準備時間21秒のスキルになった。


 これはもう、言っていい。言ってしまっていい。


 《変化》はルール崩壊級スキルである。


 このスキルで他のスキルも変化させていくと、一人だけ別ゲー状態を味わうことになる。

 とんでもないな・・・うん。

 ついでに《三段突き》も防御術に変更する。もちろん代償は準備時間だ。

 ははは、岩がシューティングゲームの破壊可能障害物みたいだ。

 二つの防御術を使い、障害物を破壊していく。

 《風突》っ どーん

 《三段突き》っ どどどーん

 《風突》っ どーん

 《三段突き》っ どどどーん

 ・・・・・・やばいな。

 こんな状況なのに楽しい。

 いいのかこれ。強すぎる。

 防御状態のみに設定してしまったが、もっとノーマルに使えるようにするべきだったか。もう一回設定したらどうなるのだろうか。21秒がさらに6.3秒減るのだろうか。


 ・・・・・・よし。

 《風突》っ

 10・・・

 ・・・20 《風突》っ

 あれ。変わっていない。代償が減っていない。

 別の所が代償に選ばれたのか、それとも同じスキルを2度《変化》させることができないのか・・・。もしかすると後者かもしれない。

 これは他のスキルの変化は慎重に行おう。

 今はこれでこと足りる。

 どこまででも、いつまででも二人を守ってやる。

 ・・・どこか、陸に上がれる場所がみつかるまで・・・!



 空が見える。

 青い空だ。

 雲のない、大きな空が見える。

 オレたちは、川の流れの作った砂利の混じった川岸に乗り上げていた。

 いつのまにか、地下の川下りは終わっていたのだ。

 二人は倒れたまま、目を覚まさない。

 ここがどこかはわからない。けれど、できれば捜索隊の捜索範囲の外であってくれればと願う。

 シアたちが本来歩むのは、こんな空の下であってほしいから。

 暗いく冷たい場所を抜けて明るい場所へ。

 ・・・けれど、世界はそんなに優しくは無い。

 川の水が盛り上がる。

 現れた影は二つ。

 どちらも水の中を得意とする、特殊警備部隊の仲間だった存在。

 タシムの部下のリザードマンと部隊の部隊長


 リグナント・リルシャークだった。


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