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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
117/222

逃走2


 けれど一度追いつかれた捜索の手は、簡単には振り切れなかった。

 空を自由に移動できるタシムをまくには、同じように空を支配する存在の力を借りるしかなかった。

 岩場ばかりの足場の中に、”竜”の生息域がある。

 元居た世界の言葉で言えば『プテラノドン』といった所か。羽はあるが形状が少し違う。頭がもう少し小さく、トカゲのように手足を器用に使って岩場を上り下りしている。

 そして何より、自分たちの住処に近づく存在には強い攻撃性を発揮する。おかげでタシムの監視をまける。

 そしてもう一つ。その地の空を制空するのがその翼竜だとすれば、地面の上を行くのは黒い甲殻を体にまとった竜・・・『黒竜』だった。


「うー・・・ここ、たぶん道じゃない」

 シアが壁に張り出した段差に手と足をかけながら嘆いている。

 崖上は翼竜が怖い。けれど下は黒竜が闊歩している。なのでその間をとって崖の壁伝いに移動しているのだ。

「しかたありませんわっ、ちょこちょここちらを追いかけてきているタシムさんのグリフォンをどうにかするには、これしか方法が思いつきませんでしたから・・・。まぁ、まさか黒竜までいるとは思いませんでしたが」

 エステラの提案で入り込んだこの竜の住処だが、竜の中でも”黒竜”と呼ばれる存在は少し意味合いが違うらしかった。

「黒竜は竜の中でも恐れられる存在ですわ。硬く、足が速い。前足はあまり発達していませんが、頭に生えた角と口に並んだ牙は他の竜さえも逃げ出すほどの脅威らしいですわ」

 硬い、といってもどれほどの物か。たしか魔族界隈でも5本の指に入るほど硬いという、亀のタールトの甲羅でさえ、シアの一撃で破壊できた。それより硬いものがそうそうあると思えないが。

 まぁ、だからといってわざわざ黒竜を倒しながら地面を移動するのも面倒だ。

 なのでエステラが言うように、やはり壁を伝ってこうして移動していくのが一番なのかもしれない。

 手が疲れるので時々休憩をはさみながら移動していく。

「ぜー、はー、ぜー、はー・・・、・・・疲れましたわ・・・」

 エステラのばて具合がかなりひどい。

 夜は岩と岩の間にできた狭間を見つけて休む。周りを囲われたここになら竜は入り込むことができない。

 食べ物は岩場をちょろちょろしているトカゲだ。ぶつ切りにして焼き、塩をかけて食べる。

「ん。おいしい」

 そうか。あまり好き嫌いがなくてよい。微妙な顔のエステラと違って。

「・・・まだ慣れませんわ・・・」

 料理ともいえないような肉の味は彼女の舌を満足させられないのだろう。

 それでも無理やりにでも腹に入れなければならない。明日また体を動かすために、栄養を補給しなきゃいけないからだ。

 そして二人は寝る。明かりをつけていたいが、夜は目立つ。

 エステラの作った魔術の明かりに布をかぶせ、冬の寒さをしのぐために体をよせあって眠る。

 次の日のために。

 まだ、逃亡生活ははじまったばかりだった。



 竜の生息域に入って20日がたった。

 2週間ほどタシムの影をみない。そろそろ追跡をあきらめたのだろうか。

「・・・もうそろそろ、ここから出る道を探し始めてもよいかもしれませんわね」

 エステラの言うこともわかる。持ってきた塩はなくなり、水場もほとんどないせいで髪の毛がペタペタしている。

 シアはまだ平気そうだが、エステラの顔には疲労の色が見て取れる。

 まだ倒れはしないが、そう遠くないうちに倒れそうな雰囲気がある。

 ここにきた日数を考えればそろそろ出る方角を決めて行動しはじめていいと思う。

「・・・ん。わかった。ここを出て、どこかの町をめざす」

「あぁ・・・やっとですわね」

 心底安心した様子だ。

 お姫様にはつらかっただろうけども、ここ最近は大分たくましくなってきたと思う。体だけではなく、心も。

 野生児二人目の誕生までもうちょっとというところだったが。

「・・・どの方向へいこう」

「くふふ、ご主人様。私、一つだけ考えていたことがありますわ」

 エステラは地面に座り、砂に地図らしきものを描く。


 それは今まで移動してきて見つけた数少ない水源地、岩と岩の間から見つけた川だった。

 川は岩を削り、その下を流れていた。まるで川の上に岩があるような。川岸がなく、水を得るには岩に張り付きながらコップなどを下ろして水をくむしかなかった、そういった場所だった。

 それが3ヵ所。

 その3ヶ所にエステラは川の流れる方向を書きこんでいく。

「・・・同じ川?」

「おそらく、そうだと思いますわ」

 流れの方向を考えると同じ川だとしか思えない。

 しかし、川か・・・。

 岩の下を流れる川。どこまで続いているかわからないが、この川を利用できればいっきにここを離れられる。空からも発見されない。ただし、追跡隊が川に気が付いていた場合、下りには誰かがいるだろう。

「・・・・・・それでも、行こう」

 川をくだる。

 二人はその準備を開始した。



 舟になるようなものはない。

 だから浮袋を作ることにした。

 用意したのは翼竜の卵の殻だった。

 多少は強度があるけれど元は殻。ぶつければあっけなく壊れてしまうだろう。

「・・・・・・これはダメではないかしら」

 割れ目を合わせて穴を草でしばり、とかした卵を塗って熱で温める。

 ・・・・・・わりとあっけなく草がずれて割れ目から殻がずれてしまう。

「うーん・・・」

 そうはいっても、このあたりにある物は限られてるからなぁ。

 竜とトカゲと竜が餌にしているらしい肉厚なサボテンみたいな植物くらいだ。

「卵の殻が使えないとなると・・・黒竜の死骸から殻をとって来るとかかしらね」

 いやぁ、あれはたぶん水に沈む。鎧と同じようなものだから浮くことはないと思うぞ。

「あとはトカゲくらいしか使える物がありませんわ。・・・皮をはいでみましょうか」

 やめて、グロくなる。・・・ん?。

 いや、そうか、グロくてもいいならないわけじゃないぞ。

「・・・何?」

 内臓――腸だ。

 腸は柔らかく柔軟性があるうえに中に空気をいれて口を結べば袋のかわりにもなる。なんせ中に肉を入れて煮ても焼いても破れない逸品だからな。

 なお、中身の洗浄のことは考えないものとする。

「・・・ん。やってみる」

 というわけで、トカゲを捕まえてハラワタを引っ張りだすことになった。


 ・・・・・・うっわー・・・

 ・・・えぇー?・・・・・・

「・・・・・・パパ?」

 シアが怒気をはらんだ視線を向けてくる。

 だって、グロいんだもん。

 まぁそんなことをやらせているのはオレなのだけれども。

 そうして取り出したトカゲの腸を、洗い、中に程よい加減の《風突》で空気をいれていく。

 空気を入れすぎて破れてしまうこと数回。

 やっと満足のいくものが出来上がった。

 50センチサイズのトカゲから、2メートルの長さの浮袋がつくれる。太さも十分。手首くらいはある。

 これを体にまいていくわけだ。

「ん。エステラで試す」

「」

 声にならない悲鳴が上がった。

 というか、すでに腸内洗浄をやらされていたエステラにとって体に腸を巻かれるというのは・・・・・・もう、どうでもいいのだろう。

 すでに目が死んでいる。

 すべてをあきらめて死んだ顔をしているエステラに、シアがクリスマスツリーをかざりつけるように腸を巻き付けてゆく。

 しかも所々にむずび目を作って一カ所二カ所破れても問題ないようにしている。

 できあがったのがこちら、腸巻き戦闘用メイド『エステラ』である。

 シアは動作テストとばかりにエステラに指示を出してポーズをとらせる。

 ふむ・・・悪くなさそうだな。

 戦闘はできないが、日常動作はできる。自由度が高いのがいい感じだ。

「・・・脱いでいいかしら」

 さて、あとは水に浮くかどうかだが

「試す」

「試さないでも浮きますわよっ。そもそもどこで試すんですのっ。死ねと?死ねということかしらっ!?」

 二人でおもちゃにしていたら流石にエステラが怒りだしてしまった。

 あの川の流れは割と早い。一度落ちたらあとは最後まで流されるしか選択肢はなくなるだろう。

 なので、人体を浮かせられるかどうかは実際の本番で試すしかない。

 まぁ、これ以上のものは望めない。いや、トカゲより大きな腸もあるにはあるが・・・。考えないようにしよう。

 さて、準備はできた。

 浮袋は計3つ。

 シアと、エステラと、そしてオレ用の浮袋だ。

 それぞれ体に巻いていく。シアとオレには別にロープで二人をつないである。

「準備できましたわね」

「ん。」

 水の温度には気をつけろ。エステラは光を。シアは流れに翻弄されないようにみんなを誘導。水中の安全はオレがこの目でなんとかする。

 流れの先がどうなっているかわからない。敵がいるのか、地表に出ることなく地下水となっているのか。

 それでも――この先に今の状況から抜け出す可能性があるなら、進むしかない。

 包囲網の、その外へ。


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