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邪武器の娘  作者: ツインシザー
魔族領 軍隊編
112/222

特殊警護部隊1


「おらおら走れ走れぇ!貴様らみたいな部隊になじもうとしないクズ共は一人でも生きていけるように死に物狂いで鍛えておけぇ。そのかわり死ねば共同墓地に捨ててきてやる。よかったな!ようやく静かに部隊行動がとれるようになるってわけだっ。オレの仏心がわかったらさっさと死ね!それが嫌なら死に物狂いに死ね!とりあえず走ってから死ね!」

 死ね死ね言っているこいつが、新しい部隊の隊長である。

 リグナント・リルシャーク。

 特殊警護部隊の部隊長である。


「・・・・・・ぜー・・・ぜー・・・ぜー・・・」

 エステラが地面に転がっている。体力の限界まで走り続けたのだろう。目を回して倒れている。

 シアもお嬢様もまだまだ元気だ。

 《龍胆》を持つシアはスタミナの回復力も高い。お嬢様はなぜかわからないが、《頑強》のおかげで身体能力が高いのかもしれない。

 入隊式で同じように部隊長を認められずに部隊を離れた新人とその配下の者たちが走っている。

走らされている。

 ここはそんな失格者たちの掃きだめだった。

 軍隊は規律を重んじる。特に魔族は縦のつながりが絶対という主従システムで成り立っている。

 それに納得できない異分子は、軍人として失格であり矯正しなければいけない反逆者なのだ。

「おらおらどうしたどうしたっ、100周終わらなけりゃメシは抜きだぞっ、たった100も走れない軟弱へなちょこやろうなのかっ、気合を見せてみろっ気合いだ気合っ!」

 錬兵所にある訓練広場のトラックは一周が大体500メートルくらいだ。一周2分かかるとして3時間ちょっと走り続ければ終わる計算である。

 ・・・・・・無茶言ってやがる。

 これが成人男子の兵士というならその数字もわからなくもない。けれどみんな十代半ばであり、体が出来きっていない若い魔族ばかりなのだ。半分も走れれば十分だろう。

「・・・ふっ、・・・ふっ、・・・シアっ、・・・私に付き合わなくてもっ、・・・いいんですのよっ・・・ふっ」

 シアと並走しているお嬢様が前を向きながらそう言う。お嬢様も《速力》を持っているが、MP回復速度の関係でかけ続けることができない。その分はどうしても遅くなってしまう。

「ん。いい。私は他にもすることがあるから」

 シアは走りながらオレを持ち、他のスキルの熟練度を上げていた。最近出番の減ってしまった《風突》《三段突き》あとは御馴染みの《風刃》なんかだ。


 結局その日は60周を越えた辺りで部隊長の終了宣言がなされた。

 日はとっぷりと沈み、その時間まで走れていたのは10人しかいなかった。

 半分以上が途中で脱落している。

「うーん・・・軟弱ですね」

 お嬢様はそっち側か。まさかのスパルタ指導側とは・・・もしかするとこの部隊長のしごきに一番適応できてるのはお嬢様かもしれない。

「ふにゅ~・・・」

 そして一番適応できていないのがエステラだった。


 次の日は戦闘訓練だった。・・・ただし、昨日残っていた10名のみである。

 脱落者は再びランニング中だった。

「くっ、ふっ、成長しましたねっ」

「んっ、お嬢様もっ」

 次々繰り出されるお嬢様の小剣をシアの槍がはじいていく。鞭ではお嬢様の攻撃速度に追いつけないので槍形状のままだ。

 お嬢様もシアから距離を取れば不利になるのがわかっている。なので多少の無理をおしてもこの距離を維持している。

 そんな状況がしばらく続き、先に根負けしたのはお嬢様だった。シアの攻撃を避けるために距離を取ってしまう。すかさずシアが武器の形状を槍と鞭、適度に変形させながらお嬢様を追い込んでゆく。

「あっ、ちょっと、だめっ、シア、このっ、あっ、あっ、ああっ」

「んっ」

 キンッ、という音の後、お嬢様の胸元に槍の刃先が付きつけられる。

「よし、そこまでだ。いい動きをするじゃねーか。お前ら二人は明日から一般の兵士に混ざって訓練していい。よし、じゃあ次の奴!」


 一般の兵士に混ざってと言うことだが、大体3タイプにわかれている。

 ひたすら持久力や筋肉を追い求めるグループ。戦闘技術を求めて模擬戦や仮想戦闘を議論しているグループ。あとはスキルや魔術の習得や連携を模索するグループだった。

 お嬢様は見慣れないトレーニング設備にフラフラと引き寄せられていった。新しい筋肉の可能性を発掘しに行くのだろう。

 シアはとりあえずスキルグループの所に行ってみることにした。


「おお、どうした新兵。スキルで知りたいことがあるのか?」

 ぼろぼろになったノートを大切そうにかかえた兵士が声を掛けてきた。

「ん。スキルを、知りたい」

 何が知りたいと聞かれ、シアはスキルの質問をする。それはおそらく、世界にたった一つのスキル

「――神技《ノコギリ草》。」

「!、神技・・・お前、そのスキルをどこで知ったんだ?。そりゃ、魔王様を倒したっていう、勇者が使っていたスキルだぞ」

「ふむ。」

 神技は勇者のみが使えるスキル。

 そのスキルの獲得条件はわかっていない。どのスキルから派生するのか、固有スキルとして与えられるのか、それとも称号を得ることが獲得条件なのか。

 けれどその使用に何か代償が必要なことが分かっている。まるで命を削るように、勇者たちはスキルを解放するのだ。

 効果はどれも圧倒的な威力がある。

 空を割るモノ

 失われた命を取り戻すモノ

 すべてを腐らせるモノ

 体を超強化するモノ

 そのどれもが、使われれば魔王を打ち倒せる代物だった。・・・命を~のは別らしいが。

 ゆえに、そのスキルを持つ者は魔王の敵である。

 そう言われている。

「・・・・・・」

 ・・・・・・へぇ・・・

 どうやら 聖剣=神技 という図式を知らないらしい。

 そっか。その可能性は考えてなかったわ・・・ばれたらまずい。知られたら処されてしまう・・・いやまて

 魔将の一人、グラフェン・テスラーは聖剣のことを知っていたはずだぞ?。

 知っていたからこそ、邪武器に魔剣を壊す機能をつけたのだ。

 一般の兵士にまでそのことが周知されていなかったというのは仕方がないかもしれないが、お願いだからシアがまずい状況になるのだけは勘弁してもらいたい。

「・・・最悪、捨てるしか・・・」

 ぎゃーーーっ

 やめて!パパを捨てるとか言わないでっ

 そうね。スキルを持っているのはシアじゃなくてオレだもんね。そこのところを突き詰めるとオレを隠せば問題ないわけだ

「・・・・・・スキルを、捨てる」

 あ、そっちか。

 スキルは取捨選択できる。枠が7個しかないので、8個目に覚えられるスキルができると、どれかスキルを捨てなければならない。

 もしかすると枠を埋めなくても捨てられるかもしれないがそれはまぁ、もったいないし。

 確かにそれで済むっちゃ済むわけだけど、このスキルの圧倒的性能を考えると、いざって時用に持っておきたい。

 きっと、いつか絶対に勝たなきゃいけない戦いがくる。

 そのときのために。

「まぁ、そんなスキルを持っているやつがいたら教えろよ。魔王様でもかなわないんだ。オレたち一般兵士なんか束になってもかないやしないからな。いの一番に逃げ出すためにも、な」

 兵士はそう言って笑う。

 確かにそうだ。《ノコギリ草》は一発一発のダメージが高くないおかげでなんとか生き残れたが、他もそうだとは思わない。次に神技に出会ったら、今度こそおしまいになるだろう。

 なので見かけたらそそくさと逃げよう。

「・・・ん。」


「他に何かあるか?。人気スキルベスト10とかあんぞ」

 ちょっと気になる。暇なとき教えてもらおう

「発展スキルの、その先のスキル」

 スキルには前提となるスキルとその発展スキルがある。しかし突き詰めてゆくと、さらにその先に”技”と呼ばれるスキルがある。

 ふらふら他のスキルを獲得しないで一つのみを求めることで覚えられるスキル。お嬢様が獲得を目指しているスキルだ。

「”技”は、発展スキルだけじゃ覚えられない。その武器をかなりのとこまで理解していないと無理ってことだ。・・・ただ、もう一つだけ獲得できる方法があるんだ」

 兵士はちょっともったいぶって言う。

「実はな、剣なら剣術の発展スキルをいくつも覚えて、その練度をめちゃくちゃ高くしてやれば、剣技スキルを覚えられるって言われているんだ」

 ほほう。

「おそらく、武器を理解するってことを、その武器の発展スキルの合計練度でむりやりこなしていることにする方法だと思うんだが・・・ただ、この方法はかなり難しい」

「難しい?」

「必要な練度が、おそらく500よりも高い。少なくとも合計で400程度じゃ覚えられなかったらしい。それにな、一番スキルの多い”剣”でも剣術の発展スキルは4個しかない。合計で500以上っていうのは現実的じゃないんだよ」

 なるほど・・・シアはどんなだっけ?と見るまでもなく、剣術、刺突術、槍術の発展スキルが一個ずつしかない。そもそも前提スキルがばらけていて槍なら槍、剣なら剣で複数の前提スキルを持って無かった。

 ・・・・・・もしシアが”技”スキルを獲得するつもりなら、今から前提スキルを増やすか、それとも一つのことに打ち込むか・・・どちらが早いかわからないような状況だった。

「・・・そう」

 めずらしく肩を落としている。

「”技”スキルを覚えるつもりなら頑張れよ。つっても、魔将様でも数人しか覚えてないスキルだからな。気長に目指していくしかないわな」

 獲得するの、大変そう・・・

「・・・ありがと。聞きたいのはわかった。今度は《治力》を覚えたい」

「おう、そういった地道な方がオレは好きだぜ」

 兵士はニコニコしながらシアの手をとって水魔術《治力》の使い方を教えてくれる。

 きっとすぐに覚えられるだろう。なんたって自前でHP自動回復スキルがあるのだ。それと同じ感覚で魔術を使うだけである。

 もうほんと、すぐだろう。


 なんて思ったのが一月前のことである。

 いつの間にかエステラが一般の兵士に交じって訓練を始めていた。驚きの根性である。

 あの!エステラが!あのスパルタ隊長に許可をもらったと言うのだ!

 ・・・何度か血反吐を吐いていたのを知っているだけに、彼女に驚きと尊敬を覚えた。

 すごいやつだ・・・。

 ともあれ、シアは《治力》の獲得に四苦八苦していた。

 どうやら産まれたときから持っているHP自動回復があだになっているらしい。新しくHPを回復する感覚がわからないようだった。


「あは~ん?、シア様、《治力》が覚えられないんですのっ、あらまぁ、私でよければ教えて差し上げましょうかぁ?」

 いらっとくるこの発言は一ヵ月遅れで合流したエステラである。その一か月の先行貯金アドバンテージを自分の持っているスキル獲得に費やしているとなると態度が大きくもなるだろう。

「・・・・・・教えて」

「いいですわよ。そもそもが、感覚なんてしったこっちゃないということから始めましょうか」

 エステラの教えはいつもの教え方とは違った。

 魔術は感覚の共有でスキルを教えて行くものだ。

 けれど治癒力は人がもともと持っていた能力。共有するまでもなく、自身で知っている感覚のはずなのだ。

「ではどうすればいいか?、祈りなさいな。自分の中の命の力を、輝きを、その可能性の塊を」

「可能性の・・・塊・・・」

 シアは目を閉じる。感覚にとらわれず、自分の中にある、命の鼓動に耳を傾ける。――そうか、この命の巡りが、そうなのかと。

 目を開ければそこには”力”があった。


 水魔術《治力》

 それは鼓動のようなスキルだった。


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