ゴブリン
シアが狩りに参加して半年がすぎた。
始めの何回かはシア達の付き添いで狩りに参加できたが、また別行動が増えてしまっていた。
というのも、どうもゴブリン達がきな臭い。本来ならもっと襲撃ペースをこちらで誘導できていたのだが、それができなくなったようだ。
上位種が現れたのか、ゴブリン達の襲撃を思いとどまらせ戦力をため込んでいる節がある。
もしかすると大抗争の勃発である。
ゴブリンなんかには、と思うなかれ。
ゴブリンも進化によってスキルが使えるようになるのである。
いつもは頭の悪いゴブリンを釣りだして相手にしているリザードマンだったが、ごくまれにその上位種とも戦闘することがあった。
ゴブリン戦士やゴブリンシャーマンである。戦士と弓士でも分かれるかもしれないが、わからないので置いておくとして、前者がスキルを、後者が魔術を使う。
リザードマンが”スキル使い”にしか進化できないのに対して大分いろいろなことができる魔物なのだ。それはきちんとした指揮官がいたのなら、どれほどの脅威になるかわからない。
思ったよりやべーやつらである。
どれだけの上位種がいるのか、来るならいつ頃きそうなのか、そもそもリザードマンの集落に襲撃をかけようとしているのか、知りたいことはたくさんある。
そうしたあれこれを偵察しに行く戦力としてハイリザードマン以上の戦力はいつもの6体ひとまとめで行動していた。
その日もハイリーダーは部下のハイリザ5体と共に偵察に来ていた。
ハイリザ達と林の中をゴブリンの集落まで移動していた時だ、一人がころんだ。
足元が整地してあるわけでもないのだし、転ぶこともあるだろう。けれどいつもはそんなことはない。
地面の起伏や木の根の位置など、移動先の足元の状況は自然と把握できているものだった。しかし転んだ。
小さな落とし穴だった。
木の葉でカモフラージュされた、片足を取られる程度の穴。
けれど罠はそれだけではない。木の上から複数の矢が放たれ、足を取られたハイリザに突き刺さる。
矢が射られるのとほぼ同じタイミングで木陰から複数のゴブリンが武器を片手に走り寄ってくる。
数は13体。射られた仲間の安否を確認する暇もないまま、リザードマン達は不利な戦いを強いられようとしていた。
仲間のハイリザが3体死んだ。
なんとか半数のゴブリンを殺し逃走させるまで追いこむことができたが、こちらの被害も大きかった。
みんな満身創痍だ。ゴブリンのスキルを使う戦士を仕留めていなければ、やつらは逃げ出さなかっただろう。
後方を警戒しながらリザードマンの集落に向かう。
だが集落に付く前に辺りが騒然としていることに気が付いた。
集落はゴブリンの襲撃を受けていた。
中までは入られてはいない。だが、湿地のあたりまで戦いがせまっていた。
ハイリーダーは怪我をしているハイリザ2体に集落への帰還を命じ、自身は戦いに参加するために走り出した。
スキルを使った横合いからの攻撃にゴブリン数体が切り裂かれる。けれどスキルは連続使用ができない。たった一体のリザードリーダーの力ではゴブリン数体に囲まれて有利に戦えなくなってしまう。
それでもハイリーダーはゴブリンを殺した。
武器の質がちがう。
手入れのされていない錆びついた武器しか持たないコモンゴブリン相手に、生半可なことでは刃こぼれせず肉を切っても切れ味の落ちないイビルな武器。武器同士をぶつけ合えば壊れるのはゴブリンの武器の方だ。
衝動に駆られて無茶をしなければ何合かに一度反撃の機会がある。あせりはあるだろうが、ハイリーダーはそれでも丁寧な戦いで相手を少しづつ減らしていた。
むしろオレが焦っていた。
シアの姿が見えない。
まだ戦闘に参加するのは早すぎるからと、集落にいてくれたならいいのだが、もし戦闘に駆り出されていたら大変だ。
死ぬな。
そう祈りながら唯一動かせる目玉を酷使してシアの姿を探す。
目が回った。
槍の側面に目があるので、槍が振るわれるたびに視界がギュンギュン動く。
気持ち悪くなったりはしないのはいいが、見ているものに集中するときは大変な作業である。
ふっと、ギュンギュンしていた動きが楽になる。
後ろに目をやればどうやら援軍がきたようだ。
体の小ささから、どうやらコモンリザードマンも槍を取って戦闘に参加しているようだ。
能力は低いが、数に対して数で対抗できる。
敵の側面からの攻撃をふせぐことができるだけで大分楽になるだろう。
その日は集落の近くまで攻め込まれることになったが、結局ゴブリンを追い返すことができた。