残念姫3
「わけがわかりませんわっ、何が悪かったんですのよっ」
学校から停学処分をうけたシエスがプリプリしていた。
2週間の登校禁止である。
暇なのか、タウロン館に戻ってきてぐちっていた。
そりゃそうだろう。魔族は強ければ何でもよし、と思われているが、それにも作法はある。
先手必勝で相手が準備する間もなくぶちのめしたのではただの通り魔だ。
強さを認められるどころか、犯罪者扱いされかねない。
いや・・・、相手が全身包帯で当分入院する事態になったことを考えると、明らかに過剰な攻撃である。
よく退学処分にならなかったもんだ。
「・・・あなたは、加減と言うものをしらないのね。もっと手加減しないとだめよ」
いや、それもあるが、もうちょっとほら。
「そうなのですね、でも初めの一発はちょっと大げさなくらいがいいと聞きますわ。そうすれば今後、私を甘く見てくる輩が減るらしいですわ」
誰が言ったのか。新しく来た使用人かな。
そりゃそうだけど、壁は破壊するなよ。あれの修理費がどこに行くかで未だにビクビクしてるんだぞ、オレは。
タウロン家に請求書来ないといいなぁ。
「というわけでして、しばらくやっかいになりますわよっ」
「・・・今後、あなたのこの館の宿泊には代金を取ろうと思います」
「えー?、けちくさいですわね」
シエスだけではなくその使用人もいっしょだろう。二人ほどメイドがついてきている。
それにシエスがこちらを良く利用するせいで、お嬢様の下にはシエス関係の苦情がいくつか届くようになったのである。
配下でもないのにその世話をさせられているのである。お嬢様の要求も当然のものだと思う。
まったく・・・この問題児はどうしたものかね・・・。
だが、そんなことを言っていられるような状況ではない事態が起こる。
それはある商人からもたらされた。
タウロン郷市に店を構える商人で、今回新しく”人”の奴隷を雇ったらしい。
その奴隷はまだ奴隷になってそれほど日数がたっていないらしく、以前の生活に未練があるようだったので再調教のためにといろいろと聞いたらしい。
聞き出したらしい。
するとその人間、魔族領に送られたグラッテン王国の第二王女の監視、もしくは誘拐のためのイズワルド王国から送り込まれた工作員だった。
・・・・・・グラッテンからの暗殺要員でないだけありがたい。
などというわけではないが、どうもシエスがいることでお嬢様の周辺がきな臭くなりそうなのだ。
お嬢様はシエスとシアと、執事のジョージを呼んで事情を説明する。
この館の主はお嬢様の父上だが、今は本郷で仕事をしていて不在なのだ。
「・・・・・・説明した通りです。それで、シエストリーネ様はどうされるつもりですか?」
「そうですわね・・・」
隣国の誘拐計画を聞かされて、どうするか。
人質になればそれなりの待遇が待っているかもしれない。待っていないかもしれない。どのみち自国には迷惑をかけることになる。
きちんとした交渉の場を設けてイズワルド王国に亡命となれば、そのあたりは保証されるはずだろうしそれでいいのでは?とジョージが提案する。
「けれどそれでは祖国の大変な時期に人々を見限った薄情な王女と言われてしまいますわ」
「そう言われますが、あなたの肩書を残したままですとどのみちここでも問題になるでしょう。今の 魔族領は庇護の無い他国の王族がすきにすごせるほど、温い場所ではございませんぞ」
ジョージの言うとおり、身の振り方を決めなくてはまずいのだ。
いろいろと。
彼女の周囲にたいしても。
「うー・・・」
「シエスは、どうしたいの」
とうとうシアからもせっつかれる。
助けはない。
「・・・イズワルドには行きませんわっ。あそこに行ってもどうせ王家の血を引く遠縁に嫁がされて政治に利用されるだけの人生になるでしょうし、私そんなのはごめんですからっ」
亡命は現在取れそうな選択肢の中で一番よさそうに思えたが。
「ならどうするのですか?あなたの選択できる未来はそれほど多くはありませんよ」
「し、仕方ないですわね。こうなれば私も腹をくくりますわっ。配下に・・・配下になりますわよっ」
おお、とうとう決意したか。結局お嬢様に負担をかけることにはなるが、それが配下のために行うか、そうじゃないかは大きな違いだ。
そっかー、同僚ができたかー。
「わかりました。ジョージ、お願いします」
「まって。違いますわ。配下になると言いましたが、会ってまもないあなたの配下になるとは言っていませんわよ」
ん?
「私はシア様の配下になりますわっ」