残念姫2
お嬢様の所で3日すごし、シエスを届けるために学校のある6郷・アルメイズ郷市へと出発する。どうやらシアが一年とちょっと前に通っていた学校と同じところらしい。
シエスは結局お嬢様の配下にはならなかった。
そうなると不安が出てくる。あの学校は、微妙にブヒ蔵が幅を利かせている場所だからだ。
シエスがブヒ蔵の配下になるというのはちょっと嫌だ・・・。
心配していてもどうしようもない。シアの在校資格はなくなってしまったので、もう生徒ではないのだから。
アルメイズ郷市に入った。もうまもなく学校が見えてくるだろう。
「・・・シエス、護衛はいるの?」
今いる護衛はシエスのおつきの護衛ではない。シエスを魔族領に追放するのを見届ける役目を持った、王の兵士たちだった。
もしこのままであればシエスは一人の付き人もいないことになる。
「後ほど使用人が来ることになっていますわ。別宅を管理していた者たちの内から何人かこちらに来ることになっておりますの。シア様が心配なさらずとも、なんとかやっていけると思いますわ」
そうならいいのだが。
シエスが一人きりになってしまう時間があるのは不安だ。
行きがけに執事長が言っていたこともある。
魔族領の現在の雰囲気といい、シエスは思ったよりも狙われる環境にあるのだが、さて。
このまま放り出して次に再会するときは死体だった、とか後味が悪いな・・・
どうする?
「・・・そう。わかった」
シアはシエスの返事をきいて引き下がった。
シエスにも考えがあるのだろう。
・・・・・・あるといいな。
「ありがとうございました。もうこちらで十分ですわっ」
学校の校門前に降り立ち、そう別れを告げられた。
ここまでいっしょに移動してきた兵士達とも別れの言葉を交わしてゆく。
「姫様・・・」
「辛い役目をさせてしまいましたね。私はもう平気ですので、家族のことを探してください」
そう声を掛けられた兵士が涙を流す。
彼も首都に家族を置いてきた一人だ。シエスが首都から逃げ出した人々の把握に尽力していたのはしっているだろう。なら、彼の家族がどうなったのか、わかっていると思う。
それでもここまでシエスを守ってついてきた。
彼は立派な兵士だった。
そんな彼ら、兵士を見送りシエスとシアは二人になる。
「シア様も、またいつかお会いになりましょう。では、いってまいりますわね」
シエスは校舎へと進んでいく。
階段を上り、校舎へと入っていくまで見守る。が・・・
あそこ、生徒用の入り口で外来用じゃないんじゃないっけ?
「あ」
シアの時はサイクロプスの生徒会長が声を掛けてきて案内してくれたよな。
・・・シエスにも、手を差し伸べてくれるだれかが現れればいいと思う。
さてと、どうする?、フェイ姐やポステリアに会っていくか?。
「んー・・・、それは、あまり良くない」
良くない?何に
「シエスが、あそこでやっていけるかどうか、に。」
シアが学校を望遠できる場所に陣取って10日たった。
露店で買った望遠鏡を目に当てて、まるでストーカーのようなことをさせられている。
オレが。
シアはあきて冒険者組合から借りてきた魔物一覧やダンジョン一覧を眺めている。
オレもそっちやりたい・・・。
シエスの状況は良くない。契約の有無は隠せているようだけど、人族と言うだけで絡まれることが多くなってきている。
学校内に主がいるのなら守ってもらうこともできただろうけれど、彼女は一人だった。
学園とは違い、学校ではシエスの周りには取り巻きはいない。
人間はすでにどこかの派閥の支配下にはいっている。いまだに入っていないシエスは他からも察されるくらい、異なる雰囲気があるのだろう。
これがシエスを敬遠するだけならいいが・・・。
オレの不安はその日の昼に起こった。
廊下の真ん中でチャンバラごっこをして遊んでいた魔族にシエスが注意したらしい。気分を害した魔族はシエスにくってかかる。
こんなときにお互いの力関係がモノを言うのだが、それがないシエスでは魔族に正論を言おうと聞く耳を持ってもらえない。
しまいにはシエスの腕をつかみ、顔を近づけて脅しているようだった。
周りで見たいた生徒もあわあわして役に立たない。
あー、これはまずいな。
口喧嘩してるぶんにはいいが、手がでてくるとどうなるかわからないぞ。
「でも、シエスは負けない」
そうだな。シエスの魔術なら早々負けることはないと思うが・・・しかし勝ってもそれで終わりじゃないかもしれない。今度は相手の主が出てくることになるかもしれない。
誰か仲裁してくれればいいのだけど。
生徒会長はどこいった?、こういう時にはよく出張ってきてたはずだろう?。
「・・・・・・卒業した可能性が」
・・・・・・
シアのいたことから、2期分たったのか・・・。
うん。高確率で卒業しとるな。
ギリギリ高等部の最終学年にいるかどうかってあたりか。
中等部の生徒会長はどうしたー生徒会長をだせーバンバン
心の中でデスクをたたいても助けがくる様子はない。
あ、学校で閃光が
光に遅れてドオンという音がここにも聞こえてくる。
あー・・・・・・
我慢できなかったシエスが魔術を行使したらしい。
校舎の壁にはぽっかりと大きな穴が開いていた。