首都崩壊3
街に灰が降り積もる。
いや、それは”街”と言えるしろものではなかった。
瓦礫の山だ。
形を残して建っているものは何もない。
死の街。
動くものはおらず、時折噴煙によって運ばれた岩石が落下してくる。
地震もまだ続いている。大きい揺れは歩くこともままならず、時折大地を傾けている。
ときおり響く重低音に、心が縮み上がる。オレは上を向くことさえ怖かった。
淡々と、ただ淡々と足を機械的に動かしている。心を殺しながら。何も考えないように足だけを動かしていれば、アレを見なくていい。
けれどどうしても目に入ってしまう。
自分たちの頭上すべてを覆うような黒灰色の噴火煙を。
空は、初めて見る景色だった。
首都の南東――聖剣が破壊された辺りの地盤が隆起してできた火口から今もとめどなく黒雲が立ち昇り、空を覆っている。
時折、雲に稲光が走り赤いマグマが噴出しているのが見える。
今ここが世界の終わりだと言われても不思議はない。
あの下はおそらくもう、ほとんどが灰に沈んでしまった。
みんなと過ごした学園も、輝く宝石であふれていた宝石店も、アンナと過ごしたお屋敷も。歩いた道、寄り道した屋台、誰かが芸を見せていた噴水前。そのすべてが。
二度と手に入らない場所になった。
シアは振り返った。
大切な場所を失うのは、これで二度目だ。
そして―――大切な人も。
アンナはもういない。
あの無垢な笑顔はもうない。部屋に小さなタンポポの植木鉢がおいてあった。
取るに足らないと思っていたただの野草を、アンナは興味深そうに育てていた。ただ、根っこの大半が失われていたタンポポはそれほど長くは育たなかったが。
それでも楽しそうに笑っていた。
一生懸命な姿を見ることはもうない。買ってきたいろいろな衣服や商品をいっしょに仕分けした時のことを思い出す。シアの下着を真っ赤な顔で衣装ダンスにしまっていた。どこにしまったか、どんな種類の下着があるのかを覚えておくことも仕事なのだ。きっちりくっきり記憶して、必要になれば主に渡さなければいけないのだ。
かわいそうだが愛らしい姿だった。
花瓶を倒して落ち込んでいるのを見ることも、もうない。掃除の時間はもとよりお茶の準備の時によく倒していた。あわてるアンナ。申し訳なさそうなアンナ。急いでテーブルを整えなおすアンナ。ありがとう、と言うと少しはにかんで笑顔を見せてくれたアンナ。
けれどもう、彼女はいない。
シアの目の前で、暗い場所へと落ちて行った。
あと少し、何かが早ければ。オレの《変化》が早ければ・・・。
シアの手を届けることができたのに。
アンナのことを嘆く時間はほとんどなかった。噴煙が一気に崩れたのだ。まるで土砂降りか津波のように降り注いでくる高熱を帯びた石灰雨から、命からがら逃げ出すだけでせいいっぱいだった。
地震に足を取られて動けない人々を置き去りにして、オレ達は全力で街を離れた。
シアは、今ようやく振り返り、空を見上げた。
遠い空を。