表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/95

0.98  シノの夢 /dl-/dl



 ()の手から瓶が滑り落ちる。


 そして瓶が液の(おもて)を、ぽたん、と叩いて、そのままゆっくり沈んでいく。


 水槽の中の透いていた液が、瓶の触れた所からみるみるうちに赤く染まって、粘り気を持ちはじめる。


 一つの命が、創られるように。

(一体、この液の正体は何だ?)


 照らされる光で透けて見える赤ん坊も、どんどん赤く染まっていく。

 そして、赤ん坊から周りに向けて、細い根の様な血管が瞬く間に伸びていく。

(赤ん坊がこの()の心臓となるように)


『  』

 液の底から、微かな聲が聴こえた。

(“丹”に違いない)


「なにをした!」

 一人の大人が()に向かって叫んだ。

「さあね」

 ()は答える。


 だって、今更物事を(かい)したところで、できることなんてありはしない。

 それに、本当に(・・・)どうなるかなんて、()もどう言い表せばいいか曖昧だ。


 解する事はひとつだけ。

 後戻りは出来ない。

 ただそれだけ。


 赤ん坊は動かない。

 代わりに、どくっ、と、脈打つように水槽の液が大きく波打った。


 そしてそれはぶるぶると蠢いて、ひとりでに動き始める。


 大人達がたじろいで後ろに下がっていく。


 水槽の中の液が()を伸ばすように上に伸び上がってくる。

 そして、その()が水槽の淵を掴んだ。


 次の瞬間。

 津波のように、液全部が赤ん坊を孕んだまま水槽から床に向かって、勢いよく《《どろどろ》》と飛び出していく。


「なんだこれは」

「やめろ!」

「一旦引け!」


 大人達が逃げ惑う。


『聴いて』

 ()は謂う。


『なんで』

『にげるの』


 そう応えが返ってくる。

 蠢く、その液の底から。


 だから()も聲を返す。


『奴らを喰い殺せ』


 ()の聲に振響(同調)して、■■()となったそれが目星(目的)を持って動き始める。

(驚くほど、僕の聲に従順なこれ(・・)は一体なんだ?)

 大人達に向かって、どぷどぷと音を立てながら津波のように襲いかかる。


 けれど。

 半ば、赤ん坊に繋がったままだった臍の緒が引っ掛かっかる。

 まるで産み落とされるように、赤ん坊が■■()からごろんと飛び出した。


 ■■()はそのまま大人達を追いかけていく。


 ころころと転がった血管まみれの赤ん坊が、水槽にぶつかって止まる。

 ()は、それを静かに見下ろす。


 赤ん坊は動かない。

 けれど、(空気)に触れた所から、音もなく肌がどんどん赤黒く爛れていくのが見える。


(赤ん坊の転がった痕が残る地面も、赤黒く変色していくのが見える)


 刹那。


 赤ん坊の背中の皮の下に、まるで虫が湧いたように。

 ぐにぐにと背中が蠢いた。

形態変化(トランスフォーム)だ!)


 みるみるうちに、背中の皮が破られる。

 破れた所から人の手の形に似た触手が何本も生えてくる。


 その様子を僕はじっと眺める。

(まるで見惚れているみたいに……!)


 そして心の少しだけ開いた隙間に、強い聲が入り込んでくる。


『  だ』


『  だ』


『  だ』


『復讐だ』


『復讐だ』

『復讐だ』

『復讐だ』


 その聲に、()はひどく振響(同調)する。

 吐き気がした。

(これはどちらの聲なんだ。“丹”の聲か、それとも。これは、僕自身の聲なのか?)


『復讐だ』


 気持ちが高鳴って、身体が震える。

 今までずっと夢見てきた。

 この場所を壊すことを。

 それが。やっと叶う時が来た!

 なのに。


 時折、胸の奥がぐっと痛む。

 このいたみ(・・・)はなんだろう。


 これより素晴らしい事なんか、生まれてこの方あるはずがないのに。


この感覚(・・・・)も、僕自身のものなのか?)


 赤ん坊から生えた触手が、まるで蜘蛛の足の様に踏ん張って身体を立ち上がらせる。

(丹化第一形態ヒトガタ、都市伝説名『蜘蛛人間』だ)


『  』


『    』


『        』


 どんどん、一刻一刻、聲が強くなる。


 体の中心から芯が引き摺り出されるように、強く引っ張られる。

(まるで、同調して飲み込まれるみたいに)


 駄目だ。


 あと数刻ここにいたら、()も道連れだ。

(道連れ? さっきと同じように言う事をきかせるんじゃないのか?)


 ()は急いで水槽の上から岩を伝って飛び降りる。


 そして、赤ん坊、否、■■()をその場に置き去りにして、力を振り絞って出口に向かって駆け出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ