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0.36 代赭 つぎは守れるように


「だから僕たちに秘密なんだね」

 僕が笑いながら呟くと、結姫が呆れたように「まったく」と呟いた。


「笑い事ではありません。……が、話を先に進めます。

 つまり私が言いたいことは、丹を一箇所に集める原理は理論上解明されており、それを行うには同調能力のある人間が必要不可欠である、という事です」


「でも話を聞く限り、第六研究室の話は現実的に思えない」

 琉央が考え込みながら呟いた。


「その通りです」結姫も同意する。

「そもそも警衛委員に協力を仰がない時点でアウトです。同調能力者なしで実質的な実験なんて出来るわけがありません。馬鹿げた話、システムの大枠だけ作って後から委員長達に無駄な生命のリスクを背負わせる、という方針を採るなら話は別ですが」


「……ほかに実験体がいたりしてな」

 ぽつりと呟いた睦先生に、結姫が「まさか」と一言返したけれど、先生は変わらず難しい顔をして腕を組んだ。


「どちらにせよ、せっかく集めて育て上げたお前達をお上はみすみす殺させやしないだろう。

 あ〜、第六の件は話を本気にしてなかったからな……真剣に聞いちゃいなかったんだが。だんだん現実味があるような気がしてきたぞ」


「というと?」僕が尋ねると、先生はうむ、と唸って眉間に皺を寄せた。


「楽観的に見れば全て偶然の出来事だ。カイカイさんの奇妙な出現経路、丹の同時多発的な発生、亜種の存在、“聲”とやらに関連した不可解な事象。

 そこに降って湧いたような“杜撰(ずさん)な”第六研究室の新しい研究方針。

 だが、今までのところ“丹”という物質はウィルスや寄生虫、放射能、そういったものに似た自然科学に基づく摂理に則った挙動をとることが確認されている。今回のような|人為的な作用を介したような《・・・・・・・・・・・・・》事象は確認されたことがない。

 すなわち、不自然なんだ。全てが」


「……つまり、丹の存在を知る新たな第三者の存在(・・・・・・・・・)を、僕たちは仮想敵として見据えなければならない可能性もある、と言うことですか」


「それならまだいい」

 僕の問いに先生は真剣な顔でそう答えた後「これは難しい事案だなぁ」と頭をぽりぽりと掻いた。


「本当に怖いのは“謀反(むほん)”だ。

 “丹”という存在を知っている機関は世界でここしかないはず(・・)だ。

 悲観的にこの事態を考えるなら。同調能力を使いこなす警衛委員以外の内通者、ないしは外部の人間、最悪両方が存在し、あろうことかその力は周辺に散らばった丹を一瞬にして収集するほど強力な可能性がある。

 何をしでかそうとしてるのかは分からんがな。

 だからこそ、第六研究室は出来るだけこと(・・)を内密に行おうとしている、またはフェイクとして“内密を装って”情報をあえて漏らし反逆に対抗し得る人物を炙り出そうとしている……まぁ、どれにせよ、まったくもって詰めが甘いな」


「探りを入れたいですね」

 僕は呟いた。

「そうだなぁ……」と睦先生も頷く。


「まぁ、私がその反逆者かもしれないがな」

「もう先生やめてください!」結姫がすかさず言って眉間に皺を寄せる。

「はっはっはっ、冗談だろうよ〜」

「その冗談はゾッとしません」

 結姫の剣幕に先生は相変わらず「はっはっはっ」と笑う。


「だが、丹殲滅・人類救済に命を懸けてきた事こそ私のアイデンティティだ。それに反することは今更したくないな。

 それに何より委員長や委員達(能力者)をこんなことで死なせたくない。委員長なんか、せっかくこ〜んなコメつぶの時から可愛がって——」

「——先生」

 僕は少しだけ語気を強めて呆れた声を出した。


「すまんすまん、ついな」

 先生は頬を掻きながら今度はちょっとだけ申し訳なさそうな声で謝る。

 そして、気を取り直したように「まずはスパイが必要か」と呟いた。


「人の懐に入るのを厭わず、裏を探るのが得意だが、研究室から信頼の厚い人物と言えば?」


「魁ですね」「魁だ」

 先生の問いに、僕と琉央の声が重なった。




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