0.33 百舌 立ち尽くす僕の目の前
ちょっと呆れた。
いや、羨ましいな、と本当は思った。共鳴率が100パーセントを超えるっていうのはこういうことなんだろうか。
いま思ったそのままの表情が、顔に出ている自信がある。
「魁君と同じこと言ってる」オレはそれを隠さず呟いた。
「同じことを言った?」
無表情の琉央さんにオレは「言ってたよ」と声をかけた。
共鳴すると、性格とか、考えてる事まで似てくるのかな。
魁君はこの現象に気が付いてそうだけど、琉央さんはきっと気が付いてないんだろうな。無意識に魁君を拠り所にしていることと同じように。
「琉央さんが泣くとか、珍しいね」
オレはからかったつもりでそう言った。けど、琉央さんは神妙な面持ちで「僕も泣くことはあるよ」と至極真っ当であろう、とでも言うような感じで言い返された。
ダメだこりゃ。
「オレも泣いたから、琉央さんも泣いて大丈夫。そんでもって魁君と二人で泣きなよ」
「二人で泣く?」
「はぁ……、とりあえず場所変わってください。その人、オレの相棒だから」
オレは怪訝そうな琉央さんにそう催促して立ち上がらせる。
それから、そっとシュンさんの体を支えながら退いた琉央さんに代わって、オレがその場所を陣取った。
シュンさんは起きる様子もなく、オレの肩を枕にしてすうすう寝息を立てている。
琉央さんを魁君の病室に送り出して、オレはようやっと落ち着いて、ひとつ大きく息を吐いた。
いつだったか。
魁君が「琉央くんって私生活と感情面ぜーんぶズボラなんだよね〜」と呟いていたような気がする。
確かにその通りだとオレも思った。
ふと、肩に寄りかかる白い頭に目をやる。
隣の人が変わったのに、シュンさんは気が付かないみたいで同じ格好のまま眠っていた。
シュンさんの頭越し、目線の先に柱に掛かった時計を見つけて目を凝らす。
午前7時ちょっと前だ。
シュンさんと共鳴の訓練をしていたのは夜の10時だった。あっという間だな。
そういえば、オレもなんだか眠い気がする。
魁君の事があって、緊張していたからか、眠気がどこかに飛んでいたみたいだ。
訓練のとき「あんまり寝てないんだよね」とシュンさんが言っていたかもしれない。
こんなことになるなら、訓練なんてお願いしなければよかったな。
相変わらず、シュンさんの寝息が規則正しく聞こえてくる。
髪から土埃の匂いがして、こんなにシュンさんの近くに居るのは初めてだ、とふと思う。
案外と背が小さいんだな、とか。筋肉ついてるくせに細い首だな、とか。
そんな事まで無駄に思い至って、琉央さんが見せてくれた写真を一緒に思い出していた。
零樹さんが一緒に写っていたやつだ。
恐らく、正確な年齢はまだ知らないけれど、シュンさんはオレよりも相当年上なはずだ。
言葉遣いも、態度も、オレと比べ物にならないほど大人だし、そもそも少佐にまでなるにはある程度年齢が必要だと思う。
それでも。
あの写真と、今肩にかかる重みが合わさって。なんだか案外と、まだ追いつけそうな気分になる。
共鳴すると似てくるのなら。
オレも、シュンさんと似てくるんだろうか。
シュンさんの大人っぽさが似たらいいな。
そしたら、シュンさんも、少しはオレを頼ってくれる日が来るんだろうか。
でも一方で。
琉央さんと共鳴するシュンさんの聲を、オレはまた思い出してしまう。
————あのあと。
シュンさんは琉央さんと共鳴して、拘束された丹を全て残らずあっという間に殲滅していった。
シュンさんがナイフで丹を突き刺して、その衝撃で抑止、無害化していく。
結姫先生が運転するワゴンが来るまでの間、オレはじっと、微動だにできず、ただただ、その光景を遠くから見つめることしかできなかった。
あの聲は、知らない聲だった。
その聲が、怖くて。
とてつもなく寂しくて。
その寂しさに溺れそうになって。
なんで、その聲をオレと共鳴している時に聞かせてくれないのか、とか、一層寂しく苦しくなって。
そんな気持ちが、ずっとループして止まらない。
『おいで』
『おいで』
『おいで』
『僕の中に』
『僕が君を助けてあげる』
あの聲はあの『カイカイさん』と同調したから出た聲なのか。
それとも、琉央さんと共鳴したから出てきた聲なのか。
何度も何度も考えてしまう。
あの聲の事。
『おいで』
シュンさんは何度もそう謂っていたけど。
本当は違う意味のような気がしたこと。
『おいで』じゃないんだ。
多分。一回くらいは。
『なんで』と、オレには聴こえた気がしたんだ。




