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0.36 露命 命を身体に刻むように

 奴の背後に回り込む。

 気付かれないようにそっと間合いを詰める。


 背後3mまで来たところで、首にかけた音叉に手を伸ばす。

 膝に叩いて、その柄を噛んだ。


 瞬間。

『     ————』


 同調する。


「っ……」

 思わず息が詰まる。

 ぞくぞくと体の中心を突き抜ける。


 聞こえる。

『————おいで』

『苦しい』

『一緒にいて』


『助けて』

『気持ちいいよ』

『嫌だ』


 頭が痺れる。


『行かないで』

『もっと深く』

『ここに堕ちておいで』


 苦しい。


『委ねてごらん』


 汗が噴き出す。

 気持ちよすぎて、気持ち悪い。

 逆上せる。


 このまま堕ちそう。

 それでも。


『————魁』


 その聲の隙間からハクくんの聲が聞こえるから。

 俺は帰り道を見失わない。


 同調が深い。

 このままいける。


 俺は足を強く踏み出す。

 同時に鞘から刀身を勢いよく抜いた。


 瞬間。

 追い風が吹いた。


 砂が舞う。

 小石が足に当たって広場に音が反響した。

 マズい。


『————   あ』

「っ!」


 気付かれた。


 一気に同調が遠くなる。


 同時に、体をひるがえした()の腕がこちらめがけて飛んでくる。

 硬化した腕が赤黒く光った。


 当たったら即死だ。


 刀を構える。


 ひゅっと風を切る音が聞こえて、奴の腕が目の前に振り下ろされる。


 俺は刀身でなして左に受け流す。

 頬を風圧がかすめた。


 往なした腕が、ガツンッ、と地面に突き刺さる。


 隙ができた。

 俺は足を踏み込む。

 そして一気に懐まで突進する。


 奴が大きく身動ぐ。


 次のが来る。

 もう片方の腕が俺の背後から迫るのを感じた。


 抱きかかえるつもりか。


 視界に腕を捉える。

 走っていた足を止める。

 その勢いのまま一気に後ろを振り向いた。


 右足を踏み込んだ。

 上段に構える。


 眼前まで腕を一気に引き寄せた。


 今だ。


 刀身に腕の肉が触れた。

 ぎっ、と。

 鈍い感触を感じる。

 同時に前方に一気に体重をかけた。


 ぐっと抵抗感を感じる。

 躊躇せずそのまま刀を真っ直ぐ振り下ろした。


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


 ぐちゃっ、と斬られた腕が地面に落ちる。

 断面の赤い骨から体液が飛び散る。

 同調が一気に深くなる。


 丹の悲鳴が流れ込んでくる。


『痛い』


「うっ……」

 眉間にシワがよった。


『苦しい』

『嫌だいやだ』


「っく……うるさい!」

『許さない許さない許さない許さない』

『うるさい……っ!』

『いやだああああああああああ』


 すぐに音叉を膝に強く叩いて柄を噛んだ。


『魁、しっかりしろ』


 瞳孔が開く。


 目の前に落ちた腕がビクビクと蠢いた。

 再生する気だ。

 でもまだ動きが鈍い。


 俺は踵を返してもう一度走り出す。


 本体の懐に入り込んで一気に決めたい。


 視界の端から何かが飛んでくる。

 ペグがついたワイヤー。ハクくんだ。

 6本のペグが順繰(じゅんぐ)りに奴を取り囲んで地面に突き刺さる。

 次の瞬間、パチン、とロックが一斉に解除して、ペグが二股になってより深く地面に突き刺さった。

 奴の頭上を頂点に、放射線状にワイヤーが掛かった。


 奴が地面に刺さった腕を引き抜く。

 反動でよろけた。


 一気に間合いを詰めて懐に入り込む。

 刀を下段に構えた。


 奴が体勢を立て直そうとする。

 反動で奴の片足が上がった。


 俺はすかさず奴の股下に刀を入れる。


 独特の匂いがする。

 息を止めて。

 刀を引き上げる。


 刃が奴の左太腿に入った。


『やめて』

「っ……」


 俺は聲を無視して刀を振り切る。

 ぐっと、骨を切った感覚があった。


 斬られた脚が後方に吹き飛ぶ。

 体液が溢れて、奴の一瞬動きが止まる。


 素早く離脱する。


 間があった。



『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ』



「ふっ……うぐ…」


『   』

『イヤダイヤダ嫌だ…ああああああああああ』

『  』

『 』

『もうやめよう』


『一緒にいて』


『一緒がいい?』


『おいで』

『ここへ』

『おいで』

『おいで』

『ここに』

『ここに』

『ここに』

『ここに』

『おいで』


『堕ちろ』


 息が止まった。







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