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0.30 露命 ひみつを埋める

 夜の8時。

 ちょうど、カフェのテーブルでシュンちゃんのお手伝いをしていた頃だった。

 含満(ふくみつ)先生、通称みっちゃんから俺のプライベートiMoniに連絡があった。


『ツツジくん。お疲れ様。無事任務完了しましたよ。

 ご心配のレンくんですが、見事一撃で無害化成功しておりました。

 さすが少佐様の相棒ですね。

 以上。含満』


 俺は思わず、おぉ、と呟いて隣にいたシュンちゃんにその画面を見せびらかした。

「カズ、はじめてのおしごと大成功だって〜」


 すると、シュンちゃんはお上から配布されたつまらない資料を見たまま「そう、よかった」と呟いた。


 つれないなぁ。

 いつもは「むやみに外部と連絡とるなんて危ないだろ」だとか「どこで連絡先交換したの」だとか小言が飛んでくるのに。

 そう思いつつ、俺はそのままシュンちゃんを見つめる。


 シュンちゃんはつい10分くらい前からずっと同じ格好で同じ資料を読み続けている。

 動かすのは目とページをめくる手だけ。


 最近。

 特に、一也が委員会に入ってから、シュンちゃんは様子がおかしかった。


 琉央くんから無理やり聞き出した情報によると、一也がシュンちゃんの前の相棒に似ていることが原因らしい。

(そういった、人の心情の関わる情報については、琉央くんの情報網が役に立たないことが多いけど)

 おそらく、今回に限っては、間違っていないような気がした。


 現世に興味がないようなシュンちゃんにとって、零樹さんが唯一と言っていいほど特別な存在だったのは俺にも十分すぎるくらい伝わっていた。

 シュンちゃんが嬉々として話す昔話は、全部零樹さんのことだったから。


 俺自身は零樹さんに会ったことがない。

 けれど、シュンちゃんが取り乱している様子からするに、かなり似てるんだろうなぁと推測できた。


 俺はまとめていた書類をファイルに入れて、シュンちゃんの手元にそっと置く。

 そして、ねぇ、と声をかけた。

「カズのこと」

「うん?」

「避けてるでしょ」

「……そう見える?」

「見える。バレバレ。シュンちゃんらしくないよ。まぁ、最近死ぬほど忙しいのは本当だろうけど」

 俺が言うと、シュンちゃんは書類をテーブルに置いてため息をついた。


「僕、稚拙なんだ、そういうところ」

「そんな風には思わないけど。まぁ、カズがかわいそうだなぁとは思う〜」

 俺の言葉にシュンちゃんは黙り込んでじっと前を見つめる。


 シュンちゃんの崇高な思考回路は、俺にはさっぱりわからない。

 けれど、このままだと一也との関係は何も進まなそうだな、というのもなんとなくは察していた。


 しょうがないな。

 うちの古参はみんな手が掛かるんだから。

(二人しかいないけどね、てか、四人のうち二人も手が掛かるなんてこの組織ヤバくない?)


「今日、カズすっごく頑張ったらしいし、あったかいご飯作って待っててあげようかなぁ、と思ってたんだけど〜……」

 言いながら俺はシュンちゃんの顔を覗き込む。

 シュンちゃんが眉間にしわを寄せた。

「僕に作れって?」

「それ〜! 話が早くて助かる〜。ねぇねぇ! もう資料読み終わったでしょ? 俺、久しぶりにシュンちゃんのトマトとナスのパスタ食べたい〜! ねぇねぇ!」


 俺が肩をぺしぺし叩くと、シュンちゃんが「わかった、わかったよ」と言いながら椅子から立ち上がった。

 そして「トマト缶あったかなぁ」とか言いながら厨房に向かう。

 お、案外とノリノリじゃん。

 シュンちゃんお料理好きだしな。


 あ、そうだ、と俺は思いついてシュンちゃんの後を追う。

「シュンちゃん明日午後からでしょ? お酒飲みたい! 一緒に飲も! 白ワインあったよね!」

「もぉ、体に障っても知らないからね?」

「大丈夫! 大丈夫!」

 俺は言いながら、冷蔵庫の隣の小さなワインセラーを覗く。

 ちょっと前に買っておいた樽熟成の白ワインがあったはずだ。


 シュンちゃんは、お酒飲ませると少しは素直になるからね。

 と、口実と言う名の言い訳をしつつ、お目当のワインに手を伸ばす。


 少しして、トマト缶を見つけたらしいシュンちゃんの鼻歌が奥から聞こえてくる。

 俺はその歌を聴きながらテーブルの上を片付ける。


 そのうちに、にんにくとオリーブオイルのいい匂いがしてくる。

 途端にお腹が空いてきた。

 毎回思うけど、シュンちゃんの料理は、匂いからして美味しそうだ。


 俺も料理はよくするけど、シュンちゃんみたいにお店で出せるレベルのものは作れない。

 確か、調理師免許持ってたんじゃなかったかな。

 それじゃ敵うわけないよね。ってかいつそんなもの取ったんだろう。ウケる。


 俺はおとなしくサラダとスープの用意でもするか。

 思いながら、俺は一足先に開けたワインを一口、口に含んだのだった。





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