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0.14 朝顔 君を忘れたくない


 “耳”の代わりに例えるなら、“心”を澄ませて。

 そして息を深く吸う。


 今日の任務は終わっていた。

 けれど、僕はもう一つ気にかかることがあって、この日もビルの屋上を歩いていた。


 僕が独自に入手した情報によれば、この近くでカイカイさんが目撃されたらしい。

 丹化第三形態たんかだいさんけいたいヒトガタ。

 都市伝説名『カイカイさん』。

 “丹電子障害の末期患者だ”という未だ都市伝説に収まるその噂は、紛れもない真実だ。


 午前3時。

 やつらは太陽が嫌いだ。昼間は人気のない地下に潜って、夜にひっそり動き始める。

 見つけるにはちょうどいい時間だ。


 お上が抱える研究室は、まだその存在を確認できていない。

 本当なら、丹の目撃情報は研究室にもれなく報告するのが僕らの義務だ。


 けれど、そんなことをしていたらいつまで経っても丹を殲滅することなんかできない。


 存在を発見して、調査、認知し、書類を通して、隊を組み替えて。研究室に話を通してしまったら、きっといろんな手続きに手間取るだろう。

 そんなことをしてる暇なんかないんだ。


 それだから。

 あたかも偶然を装って。

 そっとみつけて。

 殺してしまおう。


 お上の研究室だって、きっとこのことを知っている。

 僕が勝手に判断して、勝手に動いていることを。

 けれど、僕は“野放し”にされている。

 または“そのように見える”。


 早く丹を殲滅したいのはお上だって同じだ。

 けれど、小回りを効かせるには何かと面倒なことが多い。

 “利権”ってやつだ。


 だから僕にやらせる。

 何か問題があったら、僕のせいにすればいい。


 僕は全て知っている。

 けれど、それを知らなふりをしてあげる。

 そうして、僕の思う“正義”を振りかざす。


 人々の生活を守る。人のためにこの身を尽くす。

 そのことだけが僕の存在意義だから。


 口実を作って、利用してあげる。

 僕の心の安寧のために。




 屋上のフェンスの側にそっとしゃがみこむ。

 音叉を膝に叩きつけてから、柄を強く前歯で噛む。


 澄んだ音が僕の頭に響いて、僕が僕であることを思い出させる。

 そうしてゆっくり目を閉じる。


 そして丹を呼ぶ。

『僕はここにいるよ』と。


『お前の仲間がここに居る』


 少しの間、じっと息を止める。

 微かな気配も逃さないように。


 集中する。


 この場所はいつも静かだ。


 今まで何度も“ここ”で彼らを呼んできた。


 莢蒾(がまずみ)地区。

 出動命令の3回に1回はこの地域が指定される。

 ネットで話題の都市伝説の殿堂は伊達じゃない。


 この地域には何かがある。

 僕もそれをなんとなく分かっていて、ずっと調べ続けている。

 けれど、ネットで騒がれている以上の事は全く分からない。


 どこかに発生源があるだろうことは予測できているのに、それをどうしても見つけられない。


 まるで誰かがそれを意図的に隠しているかのように。

(僕の()()()()ならいいけれど)


 どちらにしても、早く。早く見つけて、全部終わりにしたい。

 本当は、こんな戦い早く終わらせたい。

 

 でも、僕はこの行為から足を洗うことなんかできない。


 ひどく矛盾しているんだ。


 責任や人助けのためという概念を超えて、これが()()()()()()になってしまった今となっては。


 抜け出せない。深い闇。

 (もが)いたら、踠くだけ深い闇がそこに待ち構えて、引きずられる。


 けれど赤く塗りつぶされる時だけ形が見える。

 確かな世界だ。






『——       』



 答えた。


 来る。

 感じる。


 あと少し。


 足音を消して、屋上の柵を乗り越える。


 僕は遠く、ビルの隙間から見える広いレンガの歩道に目を凝らす。

 そしてしばらく、そのまま待機する。


 少しして。

 見えてきた。

 赤い人影だ。

 小さい影がゆらゆら彷徨うように揺れている。


 あの大きさは、まだ子供だ。

 かわいそうに。


 それでも、僕は殺さないといけない。

 それはもう人間じゃない。


 僕は殺さないといけない。


 僕は、それを、殺さないといけない。


 殺さ(助け)ないといけない。



「こんな気持ち、僕一人で十分だ」







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