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0.18 雲雀 残り香も

 息を薄く吐いて少し身構える。


 オレが真剣な顔で魁さんを眺めていたら、魁さんが少し考えた顔をしながら「あー……」とバツが悪そうに手を頭の後ろに回した。


「そういうの慣れてないからさ」

「え?」

「いや、真剣にやんなくていいって意味じゃなくて。その……。俺の事は魁って呼び捨てにしてくれていいし、敬語じゃなくていいよ。さん付けとかさ。慣れないんだよね〜。ほら、今まで下っ端だったから」


 オレは、きょとんとする。

 まさかそんな事を言われるとは思わなかった。


「気を張らなくていい」と、遠回しに、オレを傷付けないように言ってくれているのが分かる。


 少し寄り掛かりたくなる。

 琉央さんにもそうであったように。


 でも、甘えちゃいけない。そうオレは思い直す。


 会ったばかりの他人に、不用意に寄り掛かってはいけない。

 だって。優しくしてくれたことを頼りにしてしまったら。

 オレはもっと甘えてしまう。

 その先に待つのは不確かなものだけで。

 安心を求めていたはずなのに、逆に安心から離されていく。


 依存してしまうから。


 人なんて、死んだら終わりだ。

 例え、オレの気持ちをわかってもらえたって、その人が目の前からいなくなったら、それまでだ。


 待つのは、オレの期待に対する無意識の裏切りだけだ。


 結局、自分の気持ちは自分でしか折り合いを付けられない。


 だから。

 全て。

 手放しの無責任な優しさだ。

 そう思うのが一番なんだ。


 たかが、他人なんだから。


 人に優しくするのなんか、どうせその場しのぎだ。

 知ってるはずだろ。

 油断しちゃダメだ。



 オレは眉をひそめて魁さんを見つめかえす。


 魁さんと目があう。

 躑躅色(つつじいろ)の目が、真剣さを浮かべているのが見える。

 少し怖かった。


 魁さんは黙ったまま、オレのことをじっと見つめる。


 オレも見つめ返す。

 しばらく無言のまま。


 茶化されている訳ではないんだと思う。


 けれど。魁さんの本心は読み取れなくて。

 ただ、オレが何かしら返事をするまで待つと決め込んだみたいで。オレが何か言わなければ、口を開く気配はなさそうだった。


 オレはため息を吐く。

 なんか。

 よくわからないな。


 なんでこんなに優しいんだろう。


 そもそもここは“機密組織”なんだから。

 “そういう優しさ”って、不要なんじゃないのか。


 オレをどうしたいんだろう。


 というか、こんなに間があいて。

 ここで「嫌です」なんて、なんだか言い辛いじゃないか。


「…………わかった……魁、くん」


 オレが諦め気味に呟くと、魁さん、もとい、魁君は「よしよし、上出来〜」と心底嬉しそうに笑う。

 そして「一也とは歳近いし仲良くしたいもん」とパタパタと小鳥みたいに腕を振った。


 口だけじゃなくて動作も豊かな人だな、と心底思う。

 さっきまであんなに怖く感じたのに。

 真剣さが、よく分からない。

 オレを試してるのか。

 それとも、何かを悟られないようにしているんだろうか。

 どうして?


 オレは考えながら近くに荷物を入れたリュックを下ろす。

 そうして中からお金だけ入った財布を取り出して、ズボンの後ろポケットに突っ込んだ。


「おっけ」魁君が呟く。


「琉央くんが車出して待ってるから、行こうか」


 琉央さんも居るのか、と思い出したところで「あの」と思わず口をついた。

「シュンさんは?」

「シュンちゃん?」

 意外そうな顔をする魁君を見て、オレはあっと思った。

 後悔しつつ「うん」と頷く。


「シュンちゃんは探せば会えると思うよ。別の仕事で先に行ってるから」


 魁君の言葉に「そっか」と言うと、魁君が間髪入れずに「なんか用事?」と尋ねてくる。

 オレが吃っていると、魁君が「あー!」と思い出した様に笑う。

「もしかして文句? 言ってやんなよぉ、シュンちゃん超ひどい事したんだから」


「いや……何というか」

「うん?」

「何してるんだろうって……単純に、気になって」

「……ほーん。なるほどねー」


 魁君を見る。

 心底納得したような、不思議そうな顔をしていた。





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