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0.17 雲雀 名前も

 おじさんを見送ってすぐ。

 オレは魁さんに連れられて、例の基地に続く厨房の入口をくぐっていた。

 待機スペースを抜けて左手、あの日の会議室へ向かう側とは反対の廊下を少し進む。


 しばらく薄暗い廊下を行くと、先に明るい空間が見えて来た。

 黒いカーペットに白い壁と天井。

 そんな、高級マンションみたいな少し広めのエントランスにドアが左右4つずつ、8つ並んでいる。


『6』と金字で書かれた黒いプレートが下がった焦げ茶色の扉の前で魁さんが足を止めた。


「はい、ここが一也のお部屋〜」

 そう言って扉を開けた魁さんに続いて中に入る。

 靴を脱いで廊下を奥に進むと、中はマンションのワンルームのような空間だった。

 壁と天井は白くて、床は焦げ茶色のフローリングだ。

 ただ壁に窓は無くて、奥の天井が少し傾いていてそこが天窓になっている。

 奥にベッドが見えて、部屋の左手前の奥にカウンター付きのキッチンが見えた。

 他に家具は見当たらない。


「ちなみに」と魁さんが言った。

「ここに監視カメラはないから安心していいよ」


「他の所には付いてるんですか」

 少し驚いて、オレは咄嗟に聞き返した。

 けれど、機密組織であろう施設に監視カメラが付いていない方がおかしいだろうと思い直す。


 そんなオレに魁さんは「もちろん」と返してから少し意地悪な顔をした。

「あ〜もしかして一也く〜ん。恥ずかしいことした覚えがあったり?」

「し、しません」

「だよね〜、知ってた〜」


 オレがむすっとすると魁さんはウケる、と笑った。

 それも気に食わなくて、オレが眉間にしわを寄せると魁さんはまた「あははっごめんって」とまた笑う。


「部屋の説明するから許してよ」

 魁さんが言って、廊下の、玄関から見て右手に二つあるドアのうち一つを開けた。

「ここがトイレ。もう一個のドアがお風呂〜。この部屋全部一也のだから、自由に使ってね。ちゃんとお掃除するんだよ! あ、けどキッチンはあんまり使わないかも。支給物資もあるし、ああ見えてシュンちゃんお料理上手だから。ご飯めっちゃ美味しいんだよ。だからシュンちゃんが作り置きしてくれたご飯食べてればだいぶ満足できると思う。ベッドだけは先に入れてもらったから、今日の寝床は困らないかな」


 オレは話半分に「はい」と相槌を打ってキョロキョロ部屋を見渡す。

 ここでこれから暮らすことになるという実感はあまり持てなかった。

 あまりにも普通だ。

 もう少し、特殊なものが置いてあったりだとか、特別な設備が整えられていたりだとか。逆に、何人もの人が一つの部屋に鮨詰めになっていたりだとか、人間の住む場所として相応しくない場所に押し込まれたりだとか。

 著しく普通と掛け離れた場所を想像していたから、逆に肩透かしを食らった気分だった。


「それでね」


 魁さんの声で思考が引き戻される。


 はい、とオレが返事をすると、魁さんが眉尻を下げた。


「早速で悪いんだけど、これから俺たちのお(かみ)が作った緊急対策研究室っていう施設で詳しい説明と訓練の導入をしようと思うんだよね。一緒に付いてきてくれる? 俺と琉央くんが付き添うから」

「おかみ?」

「飼い主様。ほら、俺たち、“国家”機密組織だから?」


 魁さんの言葉にオレは「あぁ」と納得して、すぐに背筋を伸ばして「分かりました」と答えた。







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