0.16 雲雀 姿は見えず
おじさんに連れられて、オレはあの日ぶりに屯所を訪れていた。
オレの引越しの荷物は、明日屯所に届くらしい。
おじさんと一緒に、あの日と同じようにカフェに入ると、魁さんが「おかえり」と笑顔で迎えてくれて、あの日と同じように紅茶を出してくれた。
そしてあの日と同じ席に座ると、魁さんも目の前に座って「待ってたよ、一也」とにっこりと微笑んでくれた。
「背中の具合はどう?」
「だいぶ良くなりました」言ってオレは下を向いた。
すると、魁さんは安心したように「よかった〜」と呟いた。
「これからは、俺たちに何でも聞いてね。今日からおっちゃんとは、もうあまり会えなくなると思うから……」
「……はい」
「改めてよろしくね、一也」
オレが魁さんの方を向くと、魁さんは目を合わせて尚更安心したように目を細めた。
「あんなことあったからさ……」と魁さんが言う。
「もう来てくれないかと思った」
「たいしたことないです」
オレは咄嗟にそう口走った。
確かに。あの出来事のせいじゃなく、漠然とした不安でここに来るまで心細かったけれど。
隣に座っていたおじさんが「そうだね」と口を開いた。
「おじさんも、ああなるとは思ってもいなかったからね」
「だよね〜」魁さんがへらへらと呆れたように笑う。
「普段はあんな人……だったわ」
「あんな人じゃないと否定しきれない部分は、まぁあるね」
「それ〜。シュンちゃんウチとヨソで差が激しいんだよね」
オレは眉間にしわを寄せる。
やっぱりあの人は不思議な人だ。そう頭の端で思う。
出された紅茶に口をつける。
オレの首を締めて殺そうとした時の顔と、オレに心底申し訳なさそうに謝る顔が交互に浮かぶ。
どっちが本当のあの人なんだろう。
もしくは、どちらもあの人自身か。
それとも、どっちもあの人ではないのか。
考える程、恐らく、オレは興味深くて。
どんな人なのかもう少し聞きたかった。
けれど、尋ねるのも変な気がして口をつぐむ。
俯いていたら、魁さんがおもむろに立ち上がって「さてと」と呟いた。
「おっちゃん、もう時間じゃない?」
「そうだね」と横にいたおじさんも立ち上がる。
「おじさんはこれで失礼するよ。電話やメールではお世話になるとは思うけど。
今度ここに来る時は、新人を連れてくる時かな」
「だといいね〜」魁さんも言う。
ドアに向かっていくおじさんをオレも椅子から立ち上がって見送る。
「またね一也くん」
おじさんはにっこり笑って踵を返す。
「はい。お世話になりました」
オレが言うと、おじさんは振り返らずに手を振った。




