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9 私をお外に連れて行って

 シャルは手元のパンフレットの絵と風景を見比べる。


「はー、ほへー……おや?

広場の大樹が生えているところって、小説の『緑翼』でアレックスがよくルキウス様と一緒にご飯食べていたトコになんとなく似ておらんか?」


 そして発見をしてはこのように、ボクに様々な質問を投げかけていた。

 この小さな身体の何処にその力があるのか、元気いっぱいである。

 ボクが年齢に対して淡々としているだけなのかも知れないが。


 実は僕自身、湖へ直接はそこまで行った事が無い。

 しかし書類上ではボンヤリと概要は掴めていたので、運よく格好悪い姿を晒すことなく、全ての質問に答えられた。


「子供編のアレ?そうだよ。モデルになったトコだね」

「うおっ、当たってもうた。というか、なんで知っておるのじゃ!?」

「あのお話の作者は、ウチの領にある別荘を管理するよう言われている別貴族の家臣だからだね。よく手紙のやり取りとか直接の挨拶とか結構あるんだ。

この部屋にも探せば直筆の手紙とかあると思う」


 特にどうという事もない、つまらない返答だろう。

 しかしボクには、このキラキラした眼に嘘を付くことがどうにも出来なかった。


 読心術はウソはいずれバレるという事を、よく教えてくれる技能でもあった。

 折角ここまで『格好悪くはないお兄様』を演じてこれたのだから、無理せずプライドを保ちたいのだ。


 ところがボクの色眼鏡が見せたのは、更なる煌めきに満ちた感情である。


「お兄様、凄いのじゃ!」

「いや。こんなのこの仕事をしてれば誰だってある事だよ」

「いやいや、それはお兄様しか該当者がいない仕事だからやっぱお兄様が凄いのじゃ!」

「いやいやいや、父上の代理ってだけさ」


 遠慮の繰り返し。

 ハンナさんはゆるやかに微笑むばかりで、シャルの気持ちには焦りの色が見える。

 それは自分で言い出した手前、自分からぶった切るのもなんだか悪いなといった心の表れだろうか。

 少しおかしくなって、ボクは流れを変えた。


「そうだシャル。今行ってみると、取材中だったり休憩中だったりする小説家の先生に会えたりするかも知れないね。

どうだい?ボクも気分転換したかったし、実際に行ってみるのは」

「……えっ!?あ、ああ、そうじゃの!お供させてもらうのじゃ」

「よーし、決定」


 突然話題が変わって、そして受け止めると直ぐに賛成した。

 ちょっと迷うかと思ったけど、実際に行く機会を伺っていたのかも知れないね。


 ところで、今のボクはニヤニヤと気持ち悪い顔を浮かべているのだろう。でも、笑わずにいられない。

 ボクもシャルと実際に行く機会を伺っていたのだから。

 彼女はそんなボクを少し心配そうに見ていた。


「ど、どうしたのかやお兄様」

「う~ん、シャルが安請負しちゃったものだなあって」

「何がじゃ」

「だって今から行くところはデートスポットだよ。ボクから色々なアプローチが来るかも知れないよ?

だって君は、ボクの理想像な見た目をしているのだから」


 少し口角に力を加えるが、正直な気持ちを伝える。

 だって彼女が部屋に入った時には父上の企みによってもう聞かれてしまった事なのだ。今更なにを恥ずかしがるものか。


「……」


 それなのにシャルは鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような顔をしていた。

 暫くして顔を真っ赤にする。焼き鳥にでもなるつもりかいな。


「真顔で言われると普通に恥ずかしくて、その、どう答えたら良いのかのじゃ」

「じゃあ、言わない方が良かったのかな」

「いや、全然!」


 今度はキリリと真顔で彼女は言う。女心は難しい。

 それはそうと、外出するのでボクはハンナさんへ、適当な理由の外へ出る為の都合の言葉をやった。


「と、いう訳でハンナさん。

えーと、領地の視察と市場調査に行ってくるね。お忍びだし近場だから護衛は付けないで欲しいな」

「あらあら、困りましたわね。

まあ……良いでしょう。こういった時の手筈は整えてありますし」


 ラッキーダスト領は観光地なので貴族が多め。

 なので治安には力を入れており、安全な場所であるなら護衛は絶対に必要という訳ではないのだ。

 故にハンナさんは少しだけ困った顔をするも、直ぐに何時も通りの読み辛くも母性的な表情に戻る。

 ただしそこから出るのは、遠回しな警告。これも母性というべきか。


「しかしこのままの格好では少々目立ってしまいますわ。

なので、せめて一般人の服に着替えてから外出なさってくださいませ。一般向けの服を集めた部屋があるので」

「こんな時の用意まであるなんて、ハンナさんってホントにタイミングを読むのが上手いんだなあ」

「貴方と同じくらいだった頃の旦那様が、監視の目を掻い潜っては外出なさる方でしたもので」

「ああ、納得」


 確かにあの父上なら「俺は領主なんざやってらんねー」とか言って部屋の窓を破って外へ飛び出して、盗んだ馬で走り出し窓を棒で割ってたりしても違和感はない。

 さぞかしハンナさんを困らせたんだろうなあ。


 さて行こうか。そう思った時、ちょっとした疑問が浮かんだ。


「そういえばシャルが着る為の服もあるの?」

「ありますが。それが何か」

「シャルが来たのってつい最近な訳で、用意出来る時間あったのかなって」

「それは旦那様が昔、監視の目を逃れるために女装していたものが大量に残っておりますの」


 えっと目を見開く。

 自分の父親が昔女装していただなんて聞きたくなかった。

 そんなボクの様子を人通り見たハンナさんは、手の甲を口元に当てて笑いだす。


「ホホホ。冗談ですわ。本当はウチのメイド見習いの私服ですね。

さあ、参りましょう。きっと坊ちゃまとお嬢様に似合う衣装がありますわ」


 「ですよね」と思う気持ちが半分。

 そしてもう半分は、その過去が冗談に聞こえない気持ちであった。

 しかしハンナさんの気持ちは読めないままであるし、個人的に問い詰める気もない。


 ただ言えるのは、ハンナさんの年齢は不明という事くらいである。

読んで頂きありがとう御座います

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