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66 そして犯人は誰なのか

「そういやシャルって普段はどんな感じよ?」

「普段の……突然普段って言われてもパッと来ないのじゃ。お兄様から見て妾ってどんな感じかや?」

「ボクの膝の上が定位置。可愛い」


 そんなやり取りの後であった。

 アセナは両手をシャルに伸ばす。


「ふ〜ん」


 そのまま脇腹を掴んで、胡座の上に乗せる。


 突然の事に驚く前に、シャルの身体を片手でガッチリとホールド。

 ついでに彼女の臭いを嗅ぐように、スンと鼻を動かす。

 シャルとしてはどうして良いのか分からず、緊張で身体が固まってしまった。


「ああ、確かにこれは可愛いわ。ぬいぐるみとか小動物とかそんな感じで」

「でしょましょございましょ。よしよーし」


 そう言ってボクは、リアクションに困っているシャルの頭を撫でた。

 見ながらアセナは自由にボクの肩を組みながら話しかける。


「……そういえばアダマス。

二人のどっちか、オネショした?」


 そして時が止まった。


 流石に物理的ではなく精神的にだが、体感時間は十分だ。

 ボクはアセナの『能力』を知っているだけに彼女の言わんとしている事が分かり、返答に躊躇する。


 先ず、時止めから解き放たれたのはシャルである。

 当事者らしいといえば、当事者らしい反応だ。


「ど、どどどどど、どうしてっ……なのじゃ⁉︎」

「そりゃまあ、昔もこんな場面があったな〜って思い出していたのもあるけど。

その前にアタシって『鼻』が良いからさ。

脱衣所と廊下に残るアンモニア臭で分かるんだなコレが」


 アセナ達ことルパ族は、見ての通り狼の獣人だ。

 それ故にとても優れた身体能力を持ち、特に嗅覚・聴覚・味覚には凄まじいものがあるのである。


 余談であるが、訓練では真正面からぶつかると直ぐ負けて苦労させられた。

 ある意味ボクが搦め手に特化した原因かも知れない。


 ハラハラとした様子でボクを見るシャル。

 読心術を使うまでもないけど、心の声を敢えて代弁するなら「ひええ〜、どうしましょうお兄様」ってところかな。


 ボクは自らの手の平でアセナの頬に触れた。


「それはボクがやったね」

「……そうかい。

その割にはお前、やたら堂々としてない?」


 彼女は手を払い除けようとはしなかった。

 寧ろ肩に組んでいた腕を移動させて、手に重ねてくる。

 その顔は揶揄(からか)うようで、しかし優しげな微笑みがあった。


 アセナよ、酷い目にあっても知らないよ?

 ハッキリ聞こえるよう、ボクにしては大きめな声で答える。


「それはボクが真実というものに正直だからさ。

そう。ボクはこの歳になってもオネショが止まらなくて困っているんだ!ねっ、シャル」

「えっ、ええとじゃな……」


 顔を真っ赤にしたシャルは申し訳なさそうに下を見た。

 身体はホールドされて逃げられない。

 彼女は自身を抑え込む腕へ、ボクと同じく手を添えて声高に言った。


 声変わりを済ませていない透明な声が、ガラス張りの浴場に響いた。


「ちっ、違うのじゃ!オネショをしたのは妾なのじゃ!

お兄様は無罪なのじゃ!」


 シャルはそこまで言い切って、アセナの手を逃れるとボクの方まで寄って来た。

 穴があったら入りたい気分なのだろう。

 そのままボクの影に隠れる。


 ボクはそろそろかなと、アセナの頬に圧力を加えてグリグリ弄る。


「どうかなアセナ。ボクの妹はとても優秀だろう?」

「そうだな。お前が可愛がるだけある。でも、真実に嘘を付いたのには関心せんなあ」

「いやいや。シャルの優秀さという真実に正直ってだけさ。

ボクがオネショをしたか否かなんてどうでもいいってもんなんだよ」


 シャルは半身身体を出し、ボクとアセナを何度も見比べて、最終的にボクに聞く。


「どういう事なのじゃのじゃ?」


 焦りつつも頑張って話題に着いていこうとしているせいか、語尾を噛んでいた。

 説明を入れる。


「実は、ルパ族の嗅覚は他者の分泌液に溶けている魔力を嗅ぎ分け、個人を特定する事も出来るんだ。

ちょっとソレでゴタゴタがあって、ボクん家に来た理由のひとつになったね」

「つまり、はじめから妾のオネショと分かっていたと」


 訝しげな気配が漂ったところで、アセナが積極的に会話へ入ってきた。

 小慣れた声色で自然な入り方をする。

 流石に暫く、外に出てただけあるな。


「んー。アダマスじゃないってのは分かっていたけど、確信を得たのは抱きかかえて臭いを嗅いだ時だな」

「確かに妾をクンカクンカしていたの。家庭教師の特別授業で感覚が麻痺していたのじゃ」


 アセナは耳をへたり込ませて苦笑いを浮かべる。

 エミリー先生の事を想像したのだろう。


「すっげぇ家庭教師だな。まあ良い。

そういう訳で、お前さんがアダマスを庇い返さなければそのままアダマスのせいに出来た。

でもアダマスを庇ったんだ。

普段のシャルは、アダマスを大切にする優秀な子ってよく分かったってだけさ。お姉ちゃんは感激したぞ」


 微笑みつつアセナはシャルの頬を撫でた。

 撫でている最中、楽しいのか狼耳は波のように揺らいだ。


 そして面白くなさそうな表情のシャルは、その狼耳を力強く掴んだ。

 突然の事にアセナは目を見開いて湯に浸からせていた尻尾を急に跳ねさせる。

 水飛沫が弾ける。


「ピギャッ!な、何しやがるっ。耳は敏感なんだぞ」

「悪戯を良い話にしてお茶を濁そうとしてもそうはいかんぞ。悪ふざけが過ぎるのじゃ」


 アセナは耳を摩(さす)っていた。


「ああー、それな。

それはごめん。アタシもチョーシ乗り過ぎた。

どうしたら許してくれるかな」

「もっと耳を触らせてくれたら良いのじゃ」


 アセナの顔は引き攣(つ)ったが、シャルは知らんとばかりに沢山弄ってモフモフした。

 初めて見た時から気になっていたそうである。

読んで頂きありがとう御座います。


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