61 二人は幸せなキスをして終了
父上との話を済ませて部屋に戻ると、ベッドの上にはシャルが居た。
正確には『シャルだと思われるもの』であるが、ほぼ確定だ。
布団が丁度女の子一人が丁度丸まった程度の大きさをした山を作っているのである。
どうするべきか。顎に手を当て少し考え、ボクはひとつ頷いた。わざとらしく肩を回す。
「あー、今日も疲れたなー」
棒読みで紐ネクタイを解いていくと、山がピクリと少し動いた。
反応ありという事でベストを脱いで、ブラウスの上のボタンを外す。ベッドから見て鎖骨が見えそうで微妙に見えないくらいのバランスが重要だ。
山がスルスル此方側へ寄って来る。
布団の下部が微妙に捲れて、ドギマギとした少女の顔が見えている。
そのタイミングを見計らい、ボクは一気に駆け出した。
「それっ。捕まえたっ!」
「うひっ!」
捲れた隙間から布団の中に飛び込んで、中に隠れていた細くて柔らかい身体を抱きしめた。
そのままベッドの上を転がって、身体を離す。
お互い横になって向き合う彼女は少しバツの悪そうな顔をしていた。
「お、おかえりなさいませなのじゃ……お兄様」
「ああ、ただいま。待たせて悪かったね。ソレ、よく似合っているよ」
「そうかの。有難うなのじゃ」
シャルは照れながら己の服の胸元を引っ張った。
それは何の変哲のない、庶民が着るような綿製の寝巻だ。中~上級貴族にしては中々珍しい。
「しかし君んち位の貴族ってシルクのネグリジェが主流だった気がするんだけど、実家の習慣かなんか?」
「いいや。寧ろ実家では貴族らしくしろって言われていたからそっちだったの。
ただ、一度こういう普通の寝巻でお兄様と寝てみたくたくてのう……えいやっ!」
彼女は少し潤んだ眼でボクを油断させ、逆にボクへ抱き付いてきた。
ありゃりゃ、すっかり懐いちゃって。頭を軽く撫でてやる。ついでに朝の意趣返しでもさせて貰おう。
「ふうん、そんなにボクが好きかい?」
「大好きなのじゃ!」
「いっぱい大好き?」
「いっぱい大好きなのじゃ!」
「その感情は恋人としての好き?」
言うとシャルは、ボクと一緒にコロンとベッドの上を転がった。
そうして彼女はボクの下になる。
「大好きなのじゃ!恋人として!
シャルロットは、お兄様をお慕い申し上げておりますのじゃ!」
表裏の無い笑顔。
「彼女も好きだと思ってくれたら良いな」と、仕草を感じる前に思っていた。
意地らしくも、改めて仕草から読心した結果は目一杯の好意。
それが身体全体に浴びせられる。
だからボクも本音を返す事にしよう。
眼の形は相変わらずジト目だが、彼女が『綺麗』と言ってくれたそれは少し弧を描いた微笑みになっている。
「ふうん、ボクも好きだよ。キス、しようか」
「うむ。折角だしの」
そうしてボクらは唇を重ねる。
キスは昼もしたが、何処か甘苦い味がした。
そしてシャルに先程父上と妹であり婚約者であると伝えてみるが、「ふーん」と反応する程度であまり興味は湧かなかった模様。
彼女が言うには「今はお兄様と一緒に居られれば良いのじゃ」との事。
二人で特に理由もなく、柔らかいベッドの縁に腰をかけていると、シャルが此方を向いてきた。
「なあ、お兄様。もしかして、何か考え事かの?」
「分かっちゃった?表情にあまり出さない方なんだけどなあ」
「よーっく見ると機嫌がいい時のお兄様と微妙に違う気がしての」
「そうかい。いやさ、なんか微妙に忘れている気がしてさ」
「ふーん?」
ボクがそう言って腕を組んでいると、彼女は何か自分でも出来る事はないものかと同様に腕を組みつつ周りを見回した。
そのせいか肩同士がコツンと軽くぶつかる。
おや、大丈夫かい?
そう言おうとした時、彼女の視線に刺さるものがあった。
「お兄様、ベストとタイが脱ぎっぱなしなのじゃ」
「そういえばそうだね。
でも、ああいうのはハンナさんがやってくれるからなあ」
「では……お兄様がブラウスとカーゴパンツという外着のままベッドに入ってる事かの?それで寝るつもりだったのかや」
「ああ~、確かに後で着替えなきゃね。只、これはシャルを捕まえる流れで自然発生したものだから違うなあ」
お互いに悩みながら目を合わせていると、ドアがノックされる。
入ってくるのはハンナさんだ。
「坊ちゃま、お嬢様。失礼します。そろそろお夕飯のお時間になりますが……」
「「それだっ!」なのじゃ!」
同時に目を見開いて息の合った返事をした。
そういえば今日はお菓子をいっぱい食べたし、特にエミリー先生の所で大きなアップルパイを皆でワイワイと食べたから覚えてなかったんだ。
納得したボク達は食堂に移動する為ベッドから腰を上げる。
しかしシャルは少し不安そう。
「ところでこの格好で大丈夫なのかの?」
「ああ、大丈夫だいじょうぶ。ウチはそういうところマイルドだし、どうせシャルは昔から厳しい訓練を受けていた事なんて分かるしね」
彼女の背中をポンと叩いた。ハンナさんも頷いてくれる。
さあ、ご飯でも食べに行こうか。
嬉しそうに期待に胸を膨らませる妹を見ていると此方も嬉しくなる。
「ご飯を食べたらお兄様と一緒にお風呂に入って、そして今度こそお兄様と一緒に寝るのじゃ!」
「うふふ。今日のご飯はお嬢様の為にご馳走にしてますから、お楽しみ下さい」
「わーいなのじゃ」
こうしてボク達は平和的に部屋を出た。
◆
ああ、そうそう。これは寝る前の話なんだけどさ。
なんか机の上に『あるメイド』がシャルの専属になりたいっていう就職願いが来ていたんだよね。当主の許可も取っていないし、紹介状もない殆ど独断で。
なのに手紙に書かれた態度はやたら上から目線だった。
だから取り敢えず不採用にして、その理由を特別にテンプレを使わずメタクソに書き、ハンナさんを介して母上へ送っておいた。
母上が清書するから、多少マイルドになってミュール辺境伯には届くんじゃないかな?
まあ、どちらにせよそのメイドが社会的に死んだのは確実だ。
「お兄様、どうしたのじゃ?一緒に寝ないのかや?」
「ああ。ごめんごめん、ちょっとつまんない仕事がひとつあってね。直ぐ向かうよ」
ボクは空色の寝巻を着て、シャルの隣で横になる。
先程お風呂に入ったので、隣からは良い臭いがして心地よい。
おやすみなさい。
読んで頂きありがとう御座います




