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608 レイドボス戦

 巨馬を操るフォウは、ビルの上で大きく円の軌跡を描き全力で駆ける。

 相変わらず仕切りたがりなヤツだな。


 そう思いつつ、ボクは彼に並走した。

 彼の連携は、ゲンとサイとかいう手下二人を引き連れる直線的なものなので、セオリーからは外れた走りだろう。

 だが、だからこそ、ボクの乗るバイクの速度でセオリー通りに後ろに回ると、かえって邪魔になるのだ。

 バイクに追いつけるのは彼の乗る名馬だけだ。


 ついでに彼等は何時やられるのか分からない最弱の勢力という事で、こうしておいた方が咄嗟の判断でボクが離れる事も出来るな。

 馬の将棋倒しに巻き込まれるとか、たまった物じゃない。


 そんな連携陣らしき物に混ざりつつ、横のフォウに雑談よろしく言葉を投げた。


「こういう連携って練習とか必要なんじゃないの?」

「それぞれが高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に攻撃するから良いのだ!」

「ハイハイ、行き当たりばったりにそれっぽい名前を付けているという事ね」


 獣人の戦争ってそれぞれの氏族が思い思いに行動しているから、割と普通のやり方なのかもなあ。

 そこら辺どうなんです、ルパ族族長のアセナさん。

 ああ、普通なんですね。

 合っていたようで何よりです。

 そんなアイコンタクトのやりとり。


 とはいえ、フォウ達の行動に良いところも見いだせた。

 確かにほぼ本能の攻撃だ。

 しかし銃を相手にした場合では正解に近い動きだとも言える。

 常に動いているので狙いを付け辛いし、床に刺さっている沢山の槍が障害物になるからだ。

 そして夜という時間が視力を阻害していたのに対し、獣人は耳と鼻だけでも位置の把握が出来るのだ。


 で、どうやって中心のタカラに近付こうか。

 このままグルグル回っていたらバターになっちゃいそうだなあ。

 しかし、なんか勢いに任せて突撃するだけでは、最初にやられた手下のチンみたくバキューンと反撃されそうだ。

 そうして悩んでいると、だ。


「せいっ!」


 アセナが勇敢にも飛び出した。

 勿論タカラは、ボクの不安通りに直ぐにライフルを両手に構える。

 三馬鹿程度ならあのクルクルと回す構えでも良いが、アセナ程の実力者相手では普通に構えた方が強いのだろう。

 変則的な技術とは大体そんなものだ。


 月を背景に、アセナの刺すような飛び蹴りがタカラに放たれる。

 即ち光で目くらまし。

 古典的ではあるし太陽程の効果も無いが、不足分はアセナが個人の能力で補う。


 タカラの腕がライフルの標準を上にしようと一瞬だけピクリと反応した。

 けれど、その動いている最中にぽつりと呟きもしていた。


「蹴り、にしては遠近感が……成程」


 彼女は直ぐにうつ伏せの構えを取る。

 そして彼女の上を『靴』が飛んでいった。


 外から見ているボクだとよく分かるのだが、アセナは予め靴の踵を踏んでおり、正面から蹴る形で靴を投げ飛ばしていたのだ。

 彼女の靴は戦闘用に頑丈に作られている。

 これで「足が近くにある」と勘違いして靴ごと足を撃とうとすると、靴が銃弾の壁になって威力が落ちるという仕組みだ。


 タカラが罠に引っ掛かった場合、アセナは多少の傷を恐れず攻撃に入るか、回避して接近するかが可能だったのだ。

 しかしタカラは、近付く靴のサイズと後ろのアセナの身体のサイズが合っていない事に気付いた訳だ。

 絵描きでも難しい事だというのに、流石は一流のスナイパーといったところか。

 彼女は下からアセナを狙った。


 だけどこれは一対一の試合じゃない。

 タカラの直ぐ傍まで『矢』が迫っていた。

 フォウと三馬鹿──いや、もう二馬鹿か。

 彼等の弓が強く引き絞られ、放たれていたのだ。

 馬に乗って獲物を取れる事は獣人の成人の基準なので、彼等は王国基準では弓の名手のカテゴリに入る。

 まるで強敵が後半でモブとして出て来るあの現象だ。


「流石に無理かしらね」


 タカラはゴロゴロと横に転がりながら矢をかわした。

 鉄の鏃が、深く石の床に突き刺さる。

 原始的な武器だと油断して避けなかったら即死だったな。

 しかし転がりながらもアセナに一発。

 そして拳銃を取り出し、二馬鹿の内の一人に銃を放った。

 そりゃ持ってるか。

 太腿を撃たれた彼は落馬して戦闘不能となる。


「ゲーンッ!」


 フォウが彼の名を叫ぶが、無慈悲に身体は転がっていった。

 流石に死んだんじゃないかと思ったが、服を脱いで止血をはじめた。

 丈夫だなあ。

 ともあれ落下時に脚の骨を折ってしまったらしく、戦線復帰は無理……と、原始的な手信号で伝えてきた。

 笑うべきな泣くべきなのか判断に困るね。

 シリアスな笑いってきっとこんな感じ。


 これで三馬鹿はとうとう一馬鹿になってしまった。

 もう只の馬鹿でも良いかも。


 そんな事よりアセナだ。

 銃弾は頬に掠ったがダメージらしいものは無し。

 彼女はその驚異的な視力で銃口の方向を見極め、身体を捻ったのだ。

 狙って引き金を引く為のタイムロスがタカラの敗因だったと思われる。


 そしてアセナは、そこらに突き刺さった槍を握り引き抜いた。

 槍投げの構えを取ろうとするが、その頃にはタカラは次弾を装填していた。

 ならば槍と銃という異種の早撃ち対決となるか。

 いいや、そうはならない。

 何故ならイチかバチかな戦いはアセナの嫌うところにあるからだ。

 遊び人に見えるけど、結構合理主義なのだ。

 逆にエミリー先生は結構バクチに出て、武器の性能のゴリ押しでどうにかするタイプ。


 投げられなかった槍は、地面に突された。


──バン


 彼女の居た場所を銃弾が通り過ぎる。

 アセナが、槍を使った棒高跳びのように宙を舞っていたからだ。


 靴を先程投げたので、彼女の片足は素足。

 つまり足指で摘まむ事が出来る状態である。

 故に床に刺さった槍は、上に跳んだ後に足の爪先で『掴んで』回収されていた。


 因みにアセナは足で槍術を繰り出す器用な技術も持っている。

 なんせ訓練で何度も見せられたからね。

 足でめっちゃグルグル回していた。

 骨折などで手が使えない時用の技らしいが、見事なものだ。


 さて、そしてアセナに槍を使わせるのが弱いボク達の仕事だ。

 憲兵を上手く使ったお爺様のアドバイスが身に染みるね。

 ボクはナイフを取り出し、バイクのアクセルを回した。


「フォウ!」

「おうっ!」


 並走するフォウと左右に分かれ、タカラを挟む形で動いた。

 今、タカラは銃を撃ったばかりなので大きな反撃は出来ない。

 装填は一瞬で出来るが、人間の手は二本。

 装填に至るまでの時間を取らせないのがボクの作戦。

 どんなに直感の優れた人間でも、物理的限界はある。


 一瞬に全力をかける!

 ボクは業物のナイフを惜しみなく投げ、回転により弧を描く軌道でタカラの手を狙った。

 ようするに野球の変化球。

 彼女は狙撃銃を回転させてナイフを弾く。

 そのまま慣性を利用して装填しようとするが、フォウが飛び込む。


「取ったああああ!」

「甘いですね」


 タカラは片手で拳銃を構える。

 しかしフォウは二ッと豪胆に笑い、手綱を動かした。


──グシャ


 蹄鉄を付けた馬の蹄がタカラの手に振り下ろされ、拳銃もろとも圧し潰したのだ。

 うわあ、痛そう。

 愛馬を信じ、馬術を磨いてきたからこその使い方だった。

 ボクだったら、馬にそこまで細かい指示は出せないな。


「~~~~!?」


 目を仰天とさせたタカラは、赤く化粧された唇を噛んで痛みに耐えた。

 上からはアセナが迫ってきているが、迎撃は不可。

 しかも馬によって手が床に固定されてしまっている。

 タカラは直ぐに狙撃銃を『自分の肘』に向け、片手で放つ。


──ドパン


 肉が破裂し、肉片がべちゃべちゃと飛び散った。

 肘から先の無いタカラだが、痛がっている暇はない。

 直ぐに転がると、肩があった位置を槍の鈍い刃が床を穿った。

 足によるアセナの槍術。

 ぱっと見、サーフィンみたいに槍に乗っているようにも見える。


 このように一撃はかわされたが、アセナは四肢を振り回し、空中で胴を回して突きから振り下ろしにシフトさせ、二撃目に入る。

 出たよ得意技。


 もしも宇宙空間に出るとするなら、姿勢のコントロールで多用されるであろうテクニックだって軽口を言っていたっけ。

 そういえばアセナの師匠はトレカなのだから、今頃エミリー先生はこの技を使われている可能性もあるのか。

 うん、今は関係ないね。


 タカラの出血は致命的。

 達人の素早い二連撃は、寝転がったままでは回避不可。

 勝敗を決する時は近かった。


 しかし結果は予想外のものとなる事を、ボク達はまだ知らなかった。

読んで頂きありがとう御座います。


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― 新着の感想 ―
すごーい戦闘! 読んでてドキドキしました 次話で何が起こるのか、楽しみです
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