603 重量級
ロボットに乗って出撃したシャルであるが、ボクの『予想通り』の結果になっていた。
さて。
物事には優先順位というものがある。
例えばご飯を食べる時に好きな物を最後に味わって食べたい人が居る。
ならば雑多なオカズを優先して食べるだろう。
例えばいつか行こうと思っている店がある。
こういう場合、意外と実行に移すのは特にやりたい事が無い時に多い。
それではもし、戦場で手が離せない状況で「此方に攻撃が当たらないけど物凄く硬いロボット」が、敵に居たならどう対応するだろう。
集中して叩けば倒せるかも知れないが、それをする時間は無い。
そして今すぐ倒さなければいけない程の脅威ではない。
殆ど全ての人間が『後回しにする』を選択するのではないだろうか。
「くのっ!このっ!ええい、待つのじゃ!」
シャルがコテツの大きな拳をブンブンと振り回す。
けれど大抵の飛び道具を回避する獣人に当たる筈も無し。
服をかする気配すらなく、巨大な丸い鉄塊が勢いよく空を切った。
最高速度で体当たりとかすれば、運が良ければ戦果を出せるかもしれないが、シャルの視点じゃ恐怖以外のなにものでも無いだろう。
ボクも最初のバイクは怖かったし。
ゲシリ。
ある獣人が試しに避けた反動でカウンターを入れてみたが、倒れない事を再確認。
あの重量を支えるんだから、そりゃ転ばないように下半身ガッチガチだろうね。
そして今の獣人にとって、お爺様の率いる軍への対応の方を優先したい。
「くっそ、なんだコイツ。全然効かねえぞ」
「ソイツはもう良い!相手にするな!」
「おうっ」
結局シャルは相手にされず、去っていく獣人達をコテツで追うという状況に至るのだった。
ともあれ、少なくとも敵を散らすという効果はあるので無駄という訳では無いと思いたい。
分厚い装甲に守られているので、流れ玉でやられる心配も無いだろう。
取り敢えず応援くらいはしておこうか。
「シャル、無理はしないでねー」
「おーう、なのじゃ!」
成果が出なくても腐る事なく前向きなのは凄い事だと思う。
ボクには出来ない事だ。
彼女はブンブンと器用にロボットの腕を振って返した。
格闘センスは壊滅的だけど操縦は上手い。
そういうシャルも可愛いものだ。
ちなみに今の隙だらけの動作の最中に、ある獣人が背後から思い切り鋼鉄の槍を振り下ろしたが、コテツは無傷で槍がひん曲がったのだった。
さて、それでは本題。
決着を付けにいこうか。
インフラ用の太い蒸気配管を足場として使いたいところだが、結構上にあるな。
練習はしたんだけど、そう都合よくいかないか。
だったら、自力で上まで昇るしかないかあ。
勿論、バイクでだ。
アクセルを回し、近くの安アパートの外付け階段にバイクを乗せて駆け上がる。
防御力高めに設計した分厚いタイヤならではの技だ。
扉の並ぶ廊下に出ると、最大加速で前方に突撃。
爆弾も防ぐ装甲と、交通事故も無傷にする玄武咆哮。
その組み合わせで起こすのは、廊下の細い手摺りの破壊だった。
労働者が住むような安アパートに頑丈な手摺りが使われている筈ないよね。
因みに後日無料で修理するのでご安心を。
そして、隣のビルの壁を這う太い配管に乗り、壁を走るようにタカラの元まで向かう。
近くで壁走りしているフォウと三馬鹿が見える。
早まるんじゃないぞ、せめてボク達と合流させなよ。
ボクが来ても戦力的に微妙かも知れないけれど、ちゃんと計画位はあるのだ。
その時である。
上から降りてきた人影が、バイクの後輪泥除けに着地した。
シュタって効果音が似合いそう。
アセナだ。
「よっし、行くぞ。
落ちないようにしっかり捕まっていろよ」
彼女は膝を曲げてしゃがみ、抜群の平衡感覚で体勢を変えずに、ボクに指示を出してきた。
ボクのプランとして、蒸気管のカーブ部で足場は無くなるので、そこで勢いのままタカラの居るビルに飛ぶというのを考えている。
ヨーヨーを使ってビルに取り付くので、バイクは途中で落ちて犠牲になる。
だが、この時のボクはアセナというものを見誤っていたらしい。
「アダマス、ヨーヨーを前に飛ばせ!」
「え?うん」
「よっし、落ちないよう気を付けろよ!」
アセナはしゃがんでいた体勢によって出来る身体のバネを利用て前に跳ぶ。
鎖を掴んだ。
そして彼女はボクの正面──コースにしている蒸気管のカーブ部に着地する。
つまり、アセナの後ろからボクのバイクが突撃する形となる。
大丈夫?
ねえ、本当に大丈夫なの?
「いっせーの……どりゃああああ!」
彼女は衝突するタイミングを計って、バイクの前輪を足で掬い上げた。
もう片手で、バイクのハンドル部を握り『投げ飛ばした』のだ。
「えええええ!?」
んなアホな。
それじゃ、はじめからバイクを投げ飛ばして移動できるんじゃないのか。
そう思ったが、死の間際の走馬灯の集中力というヤツだろうか。
空中での浮遊感を味わっている最中にタネが分かった。
前輪の回転する方向だ。
前輪下部が後ろに向かって回るから、それと同じかそれ以上の速度で足を滑り込ませ、筋力ではなくバイクの勢いを利用して投げ飛ばしたのだ。
ほとんど柔術の投げだな。
そしてバイクはアセナよりも重いので、そのまま『重し』として活用出来る。
直後、彼女は蒸気管を足場として再び跳び、宙のバイクを追い抜き『ビルの壁に着地』した。
壁走りの原理で、屋上まで走って到着。
同時にバイクは壁に、タイヤからぶつかる。
タイヤは回ったままなので少しは上ろうとするが、『本来』なら自重で落ちていくだろう。
しかしアセナは腕力を以て、ボクとバイクを引っ張り上げた。
獣人だからって流石にきつくないか?
重力と加速って知ってる?
しかも片手しか使わない。
「身体強化発動!」
だが、彼女が使ったのは筋力だけでは無かった。
獣人のフィジカルで忘れかけていたけど、大平原独自の身体強化魔術があるのを思い出す。
「ふんがっ!」
タイヤの回転と獣人の筋力、ついでに身体強化魔術もフルに使ってバイクは壁を走るかのように上がっていった。
速く上がるのはタイヤの回転によって勢いが死んでいないからと思われる。
時間にして数秒。
体感時間にして数分。
バイクは一本背負いのようなポーズで引き上げられ、屋上に到着した。
この時意外だったのは、アセナは片手を使えるよう、鎖をもう片手で握って歯で噛みながら引っ張っていた事だ。
そして使えるようにした手にはククリナイフが握られ、タカラの狙撃銃と相対していた。
バイクを引き上げている最中、既に戦いははじまっていたのだ。
銃口に切っ先を合わせる構えは、銃弾を切り払う為のもの。
正確には射線に刃物を『置く』事で銃弾を切る為の技だな。
引っ張り上げている最中に、そりゃ狙わない訳ないよね。
お疲れ様。
そう言いたいけど、どうもこれからクライマックスバトルがはじまるらしい。
読んで頂きありがとう御座います。
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