602 脇役の戦い方
お爺様はボクの肩をポンポンと叩く。
その手の感覚から、孫に自分の得意分野を教える嬉しさが感じ取れた。
「いいかのアダマス。
お爺ちゃんの指揮をよく見るのじゃぞ」
「は、はあ……」
沢山の援軍が来たもの、戦況は読めない。
そして相手は騎兵の集団。
用兵の基本に則るなら突撃されたら一巻の終わりなのでは。
そんな状況なのにお爺様は自宅でくつろぐかのような気軽さだった。
「この戦は既に勝っておる。
相手の総大将はタカラという事になるのじゃが、信頼関係を築けていないのでそれぞれが好き勝手行動する。
そしてそれぞれの部族間同士にも溝があるので、軍として機能していない。
旧い世代の戦い方じゃの」
「でも、獣人は物凄い身体能力と馬術がありますよ?」
「その通りじゃな。
だが戦争というものは、無双の豪傑がコロリと死んでしまう場でもある。
それは数の利というよりも、戦略の理に押しつぶされてしまうのじゃ」
お爺様が指揮を出す。
ルパ族が攪乱しながら馬で戦い、憲兵達が援護。
そして横から風俗ギルドの重火器が飛ぶ。
その弾幕によって、敵の獣人達は上手く動けないで討ち取られるようになっていた。
はじめての連携の筈なのに、教本のような騎兵・歩兵・砲兵の動きになっていた。
まるで全てが噛み合ったオーケストラのような指揮だった。
「戦争は最後には歩兵で決まるとよく言われるが、正にその通りでの。
意外かも知れんが、今回鍵となるのは憲兵隊なのじゃよ」
「深手を負わせられないのにですか?」
憲兵の一般向けライフルは馬すら倒せなかったのを思い出す。
「うむ、アイツらは今回の三勢力の中で、最も『連携の訓練』をしている連中じゃからの。
常にチームで動く警察はそれが出来んと話にならん。
ルパ族と風俗ギルドの連携を作る為の『繋ぎ』が奴等の役目じゃ。
ひとつの生き物になるのが目的じゃて」
「ああ、確かに……」
ひとつの生き物とはどういう事か。
それは戦闘とは、隙の奪い合いであるという事だ。
相手が攻撃をしたらその隙を突く。
死角に回り込んで奇襲を放つ。
攻撃の未熟なところに合わせて後の先を撃つ。
なのでターン制になる事も珍しくない。
けれど、攻撃の間に『弱い攻撃』が挟まると隙が無くなる事も多々ある。
それは鼻を叩くジャブだったりすれば、帽子や砂などの物を投げる視界封じの時もある。
なんなら実際には攻撃していないフェイント動作だって十分効果的だ。
こうして些細な攻撃に当たった敵に大きな一撃を食らわせる。
それこそコンビネーション。
ボクシングのワンツーパンチもこれに当たる。
「ガタイが良くても『素人』がプロの格闘家に、正面からぶつかって勝てる可能性は低いという事じゃて。
……おや?」
そこへ一人の獣人が、フィジカルを活かしてお爺様の方に突撃してくる。
馬はやられ、本人も血塗れであるが、老人を殴り殺すには十分だ。
相手が只の老人であれば、だが。
お爺様はニヤリと黒い笑みを浮かべ、懐から銃のようなものを取り出した。
先端は銃口ではなく、鋭いアンカーが付いている。
船の錨の事をアンカーとも言うね。
お爺様の現役時代の武器であるワイヤーガンだ。
先端にアンカーの付いたワイヤーを蒸気の力で飛ばす、ボクのヨーヨーの元となった武器である。
しかし正直なところ、実戦で使っている様子は見た事が無かった。
鉄鎖術の奥義継承の際に型を見せて貰った程度か。
「この老骨に態々見せ場を作ってくれるとは、なんとも素晴らしいザコキャラじゃのう」
お爺様はワイヤーガンを正面向かって撃った。
獣人の動体視力はそれを捉えたし、横から握って止めるだけの力もある。
しかし、握ろうとする直前にお爺様はワイヤーが伸び続ける射出を止め、急に巻き戻した。
なのでワイヤーがたわむ事になるが、お爺様はそれを自分から手で握り、鎖鎌よろしく振り回しながら前に跳ぶ。
振り回しと跳躍で勢いの乗ったアンカーは、獣人の側頭部を狙うが、それも反射神経によって回避された。
人の力で振り回した程度の速度のワイヤーが獣人に当たる筈無い。
だが、それは獣人に対するフェイント。
アンカーの行先は街のインフラとして使われる蒸気配管。
これが本命だ。
正確過ぎるコントロールのアンカーは、菅の繋ぎ目に命中した。
噴き出させた蒸気を、獣人の身体に浴びせる。
「火傷の心配はしなくて良いぞ。お前は此処で死ぬのじゃからな」
そしてガンのスイッチを押し、ワイヤーを一気に巻き戻す。
一瞬で戻ってくるアンカーの、固定用に横に伸びた鋭い箇所が獣人の首を掠るように切った。
正確に狙われたそこは、動脈。
蒸気の中で盛大に血が噴き出る。
お爺様は満足そうな顔でボクに向き直る。
「まあ、こんな感じじゃの。
練習してれば出来るから、やってみるとええ。
お勧めは足場の不自由な海戦じゃし、今度『釣り』にでも行くか?
最近、小国で海賊が暴れているという報告があってじゃな……」
「あ、いや良いです」
「そうかあ、まあ気が向いたら何時でも言うのじゃぞ」
そして指揮に戻ると同時、思い出したように再びボクの方を向く。
「あ、そうそう。
そろそろ友達とアセナを連れて、大将首を取りに行った方が良いじゃろ」
「友達では無いのですが……」
「カッカッカ、利用出来る内はみんな『トモダチ』じゃよ。
トモダチは大切にした方が良いぞ。必要な時に肉壁になってくれるしの」
ああ、そういう事ですか。
う~ん、この下衆っぷり。
悪党しているなあ。
「それに、このまま放置してると、多分アイツ死ぬぞ」
見ればフォウが、三馬鹿を率いてタカラの立つビルに突進するところだった。
そりゃ無理だ。
ボクは急いでバイクのアクセルをかけ、フォウを追いかける。
直線ならバイクの方が速いしね。
そういえば、タカラにとって絶好の機会なのになんか狙撃少ないな。
ビルへの攻撃は大砲とか投げ槍とかだが、関係があるのかな。
その理由を考えていた時に、シャルが見えた。
やはりというかシャルの現状は『思った通り』の状況になっていた。
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