601 オリオン代官 “海賊王”のドゥガルド
ボク達の目の前に広がる獣人の群れ。
まるでバトル系の話のザコキャラ大集合だ。
これでボクが父上のように強ければ、自慢の体術で千切っては投げの無双ムーブが出来るのだが、生憎彼等一人一人がボクより強い。
タカラは帽子の唾を摘まみながら言う。
「うふふ♡
持つべきものは、仲間です」
ロングスカートがビルの上ではためいた。
いや、おかしいな。
はためくような風は無い筈だぞ。
ボクは先程彼女が見ていた、上を見る。
変わらずの夜空。そして変わっている、一つの『影』。
ポツンと浮かぶ、例えようのないフォルム。敢えて言うなら『船』が近い。
ボクはそれを知っていた。
見た時間は僅かだったけれど、セト・ヤクモとはじめて会った時に見たものだったから印象に残っていたのだ。
「『ジャバウォック号』……」
ぽつりと出てきたのは、『宇宙戦艦』の名前だった。
秘密結社ミアズマの旗艦。
魔力の影響で電気関係は使えないが、緊急用の別エネルギーで動く機械類は使える。
故に大量のプロペラを外付けしているのが特徴だ。
あれは多分蒸気機器。
風はプロペラから出ていたのだろう。
つまりは『空輸』という手段が使えるのだ。
輸送中に人に見つからない危険に関しては学迷彩が使えた筈だ。
ワープ機能もあったと思うが、その辺はどちらでも同じだろう。
重要なのは、これからどうするかだ。
地の利はあるので逃げる事は出来るかも知れないが、フォウと三馬鹿を犠牲にする必要は出て来るかも。
シャル達を囮にするなんてとんでもないし。
そんな事を冷静に考えていると、ポンとアセナがボクの肩を叩いた。
彼女を見上げると、微笑みを向けてくれる。
安心した。
「なあに、誰も犠牲にする必要はねえさ。
こういう時は大人に任せておけば良い」
ボクの気持ちを読んだかのような言葉。
まあ、彼女の方がボクより軍略に優れるのだから当然か。
指揮官としての経験も長いし。
でも、いくらアセナでも相手は同種族の上に狙撃手まで付いている。
獣人の身体能力チートで無双できる相手じゃないぞ。
「実はこういう展開は予想していたんだ。
アタシがこの戦いの指揮官になるとしたら、先ずトレ子に重要な情報は伝えない。
如何に切れるタイミングで有効に使うかって考えるね。
つまり目の前に居るような大軍が揃った際に、トレ子を囮として切り捨てるのが丁度いい。
宇宙戦艦を使うのは予想外だったけど、別のルートとして海道とか大きく迂回して山脈地帯から進軍という可能性も十分あった。
だから、領内で戦争をおっぱじめる可能性は高かったんだ」
おや、なにか話の風向きが変わったね。
つまり予防手段を取っていたという事かな。
そして考えられるタイミングは、ボクとシャルがフォウの相手をしていた時。
エミリー先生はロボットを取りに行っていたけど、アセナはなにをしていたか。
「相手が戦争をする気なら、こちらだって戦争の準備をすれば良い。
アタシは、『兵隊』達を集めていたんだ!」
──バン、バン
大量の銃声が鳴った。
ゾロゾロと闇の奥から出て来るのは、ライフルを持って軍服を着た男達。
そして先頭を歩くのは、恰幅のいい男。
「憲兵隊隊長トーマス、参上つかまつった!
街の平和は我々が守る!」
ウチの憲兵隊だ。
緋サソリ相手に爆弾でパニックになった印象はあるけど、本来はこういう市街地戦で優位になるお巡りさん達。
アセナは秘密警察の権限で呼び出せるという事か。
しかしまだ弱いのではないだろうか。
実際、今の攻撃で重症になっている敵は一人も居ない。
弾がめり込んだ馬も、戦争慣れしているのか平然としている。
と、その時だ。
──ズドン
響き渡る巨大な音。
横からヌッと現れるのは、貿易商人が海の魔物退治で使うような大砲。
他にもガトリング砲やらグレネードやら、警察の範疇を超えた武装が出てきた。
武器を扱うのは黒服の男達。
どう見てもカタギの人間ではない。
この兵器群には流石に馬の数匹が脱落した。
出て来るのは、ピシリと焦げ茶色のスーツとタイトスカートを着た妙齢の女性。
ハットから伸びるブロンズのロングウェーブの髪が靡く。
「風俗ギルド長、ベアトリス様のお通りだ!
ウチのシマでドンパチなんて良い度胸してるじゃないか」
更にビルの上から弓や投げ槍やらが飛んで来る。
人の反射速度を上回る旧式武器たちが、複数の馬と獣人を仕留めていく。
ビルの上に立つ騎馬軍団。
それを率いるは、隻腕の老人だ。
「ルパ族副長、ファン・ベルド見参!
裏切者共が……生きて帰れると思うなよ!」
今までトレ子達や街中に入ってくる他民族の捜索に回していたルパ族を呼び寄せたのか。
しかしこれほどの集団が息を揃えて早い動きをするには、かなりの指揮能力が必要になるぞ。
そう思っていると、ボクの後ろからカツカツと革靴の音を共に『総司令官』が現れた。
月光に質のいいベストが照らされる。
彼はゆっくりと口を開いた。
「前ラッキーダスト侯爵にして現旧都オリオン代官。
そしてアリエス海賊団船長“海賊王”のドゥガルド。
貴様らを征伐しに参った」
ああ、そうか。
経験値、才能、カリスマ、読心術……。
確かにこの人は、ボクの知る限り最強の司令官だ。
ボクの上位互換である彼はポンと皺だらけの手をボクの頭に乗せて、ゆっくり撫でた。
「お爺様……」
「おお、そうじゃのアダマス。お爺ちゃんじゃ。
まあ、此処は『大人』に任せておけ。
お前はホレ、あそこに居座っておる大将を討ち取ってくれば良い。
男は戦を乗り越え成長する物じゃ」
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