600 連打技してるだけで勝てる格ゲーキャラは割とよく居る
ボク達はスナイパーの元に向かう。
「待てっ!」
叫んだのはトレカだった。
声色からして折れた鼻の痛みに耐えているようである。
彼はアセナとの戦いを中断して一歩を踏み出し、ボク達を追わんとする。
──ヒュン
だが、彼が横切ろうとするアセナの影に隠れ、棒のような影がゆっくりと伸びてトレカに迫った。
「……ッ!?」
トレカの動体視力が捉えた『それ』は、畳んだコウモリ傘だった。
形だけ見ればとても脅威には思えないものだ。
だが、彼はそれを感知した瞬間、直ぐにバックステップで退避した。
この危機感知能力こそ、彼を今まで生き延びさせて来たのかも知れない。
そして予感は当たっていた。
「やっほ~♪」
エミリー先生が、アセナの背中に隠れていたのだ。
その片手に持っているのは、彼女の最強兵器である『クロユリ』。
見た目は只の傘だが、その正体は液体金属の布地を持つ傘型の穿孔機。
触れた物を消滅と勘違いする程の速度で削り殺す、エミリー先生唯一にして最強の純兵器だ。
もしも追い掛けるのに邪魔だと払っていたら、毛皮の有無に関係なく腕が吹き飛んでいただろう。
正確には様々な武装が付いた汎用兵器なのだが、主だった使い方はドリルである。
なんせこれだけ振り回していれば、大体の敵に勝ててしまうのだから。
コテツの説明をしていた通り、先生は技術者型の人間なので体術よりも武装に力を入れている人間なのだ。
理想は「適当に振り回しておけばどんな達人にも勝てる武器」。
「後は頼んだぞ!」
「ほいさ、任せんしゃい」
そしてハイタッチ。
入れ替わりにアセナがボク達に合流し、エミリー先生がトレカに向き合う。
トレカとしては戦う相手が、アセナからエミリー先生に変わった訳だ。
『相性』の問題である。
トレカはアセナの上位互換に近い。
つまり戦い方の『ルール』が同じだ。
ボクシングだって、ミドル級とヘビー級が同じルールで戦えばヘビー級が勝つ。
そこで彼にとっては異色の戦士、エミリー先生をぶつけようという作戦だ。
ワーウルフが『駆除』されたのは文明の力によるものだった。
彼女は高速回転するクロユリを、騎士のレイピアの如く構えて言う。
「まあ、特に恨みはないんだけどこういう段取りだし、やろうか」
「立ち塞がるなら倒さねばなるまい。
しかし今は急ぎだ。見逃してやらんでもないぞ」
「あっはっは、寝ぼけた事を言う。
君の恨みの矛先は『王国』だ。
つまり王国民であるアダマス君も対象に入っている」
彼女の纏う黒い液体金属がボコボコと沸騰して、膨れ上がる。
まるで彼女のドス黒い怒りを示すかのように。
──ブツブツ
かなり小さな声で独り言を呟いていた。
何を言っているかは分からないが、病的な事なのは間違いない。
ボクとしては好きじゃないけど、戦闘モードに入る時の自己暗示みたいなものかな。
相手強いし。
「全部壊してやる……」
この瞬間、天才の思考の矛先は全て『滅殺』に向けられる。
故に叫ぶ。
まるで、見境なく攻撃して回る狂犬の雄たけびを。
「アダマス君の敵は、みんな私の敵だあああああ!」
流石、ボクの敵に回るならこの王国だって滅ぼしてみせると豪語するエミリー先生だった。
ヤバい人と言えばそれまでだが、実際にその通りなのだ。
悪人属性てんこ盛り。
彼女は味方というだけなのだ。
◆
エミリー先生が見えなくなって、ボク達は歩を進める。
バイクで『歩』を進めるとは言葉がおかしいかも知れないが、メンバー的に歩の割合が多いので歩で良いだろう。
シャルの乗っているコテツがタイヤモードで走っているので、2対3の接戦だ。
三馬鹿は三人で一人扱いである。
どうでも良いね。
「シャル、ついて来れる?」
「うむ。馬やバイクほどではないがコテツも十分な速度じゃ。
流石エミリー先生じゃの」
目指すはビルだ。
位置がバレた事を察した影響か、彼女は自分の姿を隠しもせず、堂々とビルの屋上に立っていた。
こういう時は逃げるのが定石なんだが、そうでもないんだ。
なんか考えがあるのかな。
ボクに対して狙撃銃を構えたので、バイクでグネグネと蛇行運転し焦点をずらす。
勿論射撃の名手にそんな小細工は通用しないかもしれないが、此処は建物が混み合っているので、動く事で物陰に隠れるのだ。
なんならコテツを盾に使っても良い。
いざという時は、こういう時の暗殺対策で習得した玄武咆哮で受け止めようとも思っている。
カウンターの理屈でバイクの速度が銃弾の速度に追加されるけど、大丈夫だと信じたい。
暫くやっていて当てるのは難しいと感じたのだろう。
ならばとタカラは、銃口を三馬鹿とフォウの方に向ける。
騎馬民族は馬を巧みに操れるが、馬は怪我をすれば簡単に倒れる。
将を射んと欲すればまず馬を射よというやつだな。
だが彼女は少し考え、銃を下ろした。
何故だ。
思っている内にもうビルは目の前。
ボクは配管を道にして屋上に向かう予定だ。
すると機械のようなものを取り出し口元に近付けた。
声が大きく出る。
小型過ぎてよく分からなかったが、拡声器らしい。
マイク型かな。向こうの世界の技術なのだろう。
「この度はようこそ皆様おいでなさいました」
「なにをのうのうと!今度こそ真実を白状して貰うぞ!」
フォウはビシリと指差し、拡声器にも負けない声で叫ぶ。
まるでレスラーのパフォーマンスだ。
獣人は身体能力に優れるので、当然人間より大きな声が出せるのだ。
ぶっちゃけ凄くうるさい。
鼓膜がキンキンする。
「あらあら、私の気持ちは何時でも変わりません。
ただ、貴方を応援したいだけですの」
「どの口が言うか!待っていろ、今そっちに向かって根性叩き直してくれる!」
「はあ……それは構わないのですが、果たして貴方に出来ますかね」
──パカラ、パカラ
言葉の直後。
蹄の音が四方八方から聞こえてきた。
「さて、貴方から『頂いた』ものを使わせて頂きましょうか」
「まさかこいつ等は、我が軍!?」
建物の隙間から出て来るのは、民族衣装に身を包んだ大量の獣人達。
全員が大平原で鍛えられた立派な馬に乗っている。
フォウがタカラの裏切りによって奪われた、かつての彼の『誇り』そのものだった。
それが全て、彼に矛先を向けているのだ。
でも、この獣人達はどこから来たんだ?
タカラの裏切りは昨日なのに、国境のミュール辺境伯領からだと馬で来るには時間が足りないぞ。
その疑問は、とんでもない方法で解決されていたのを知る事になる。
読んで頂きありがとう御座います。
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