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564 悪い子じゃないんだけど

 族長の癖に仲間の動向も「知らんぞ」ってあんた。

 戦争中なのにそれを把握していない事は致命的なのではないだろうか。


 フォウは日除けの上で馬に乗る。

 煙と馬鹿は高い所が好きといったところか。

 とはいえ今は、圧に当てられ比較的弱気な態度である。

 つまり一方的ではない会話が出来る状態という事だ。


「それに関しては何時もタカラが管理してくれるから……」


 なるほど、一般的な子供ってこんなもんか。

 確かに帝王学も学んでいない子供がそんな事出来るはず無いし。


 ボクがある程度政治が出来るのも、貴族としてのお家柄な面が大きい。

 子供だけど来年には旧都の代官やらなきゃいけない程度には政治への教育に重点を置いているし、今だって父上の仕事の手伝いをしている。


 例えば、チート主人公の物語によくある悪い領主を倒した展開の後に、その土地の内政やら後始末を適当な貴族に任せる展開の『適当な貴族』くらいの能力はあるつもりだ。

 あれって、ほぼマイナスからのスタートだから任された方は大変だよなあ。


「じゃあ、そのタカラは何処に行ったのさ」

「むむ……それが、余が勝負を受けた事を仲間達に伝えに行くと言って、出て行ってしまったのだ。

それでやれる事はないかと敵陣視察にでも行こうかな、と」


 それで領主館に来た訳か。

 う~ん、この王として余計な行動。

 騎馬民族かつ古い戦争観で動いているなら一騎駆けもなくはないが、これは偵察だしなあ。


「此処に来たとかで袋叩きにあうとか、殺されるとか考えなかったのかい。

君、前に負けているよね」

「なにを!アレはアセナが乱入したからで負けてないぞ!」


 おい、話が逸れてるぞ。

 認めている事に対しては受け入れる……と、いうより全責任を負うって感じだけど、認めていない事に対しては直ぐ反論が口に出るな。

 めんどくさい人間だ。

 これだから子供は。


「じゃあ、負けてないで良いから、自分はやられないって考えてなかっただけ聞かせて。

父上の名に懸けて誓うから」


 こういう手合いには家族や先祖の名に懸けて誓うのが丁度いい。

 ボクとしてはクソ親父なので、いつでも無下にできる只の言葉でしかないが。


「ルールで決めた勝負をすると誓ったからである!」

「……あ、ハイ。

でも君が言っても説得力ないね」


 飛び出したのは、アセナと同じ台詞だった。


 それって強い立場だから筋が通っているのであって、弱者が言っても現実的じゃないからね。

 例えばダーティーさに定評のあるお爺様だったら、真っ先に捕らえて人質にするとかは平気でやると思う。

 フォウが人格者ならもしかしたらとも思うが、リン族の評判は凄ぶる悪い。

 特に此処に居る皆には最悪だ。

 しかし、彼はニカリと太陽のように笑って話を続ける。


「だが、実際にそうであろう?

特にアセナは、草原の民として同じ価値観を持っていると『信頼』してるのでな」


 先ほどの不安はどこへやら。

 彼はアセナに視線を送る。

 そしてアセナは、イラっとした様子で眉間に皺を寄せたが発言を撤回するでもない。

 フォウに危害を加えようとするエミリー先生の行動を止めてしまったからかな。


 意外と他者の価値観を汲み取る力があるな、そういう意味では長に向いているのかも知れない。

 若すぎるのが欠点だ。

 と、そこでシャルが手を挙げる。

 相手は敵だというのに、憎しみのいっさい籠っていない純粋な瞳だ。

 ボクの妹マジ天使。


「なあなあ、だったら昨日捕まったリン族ってなんなのかの?

つまりタカラはレースがあることを伝えに行った訳じゃが、そのタカラと入れ違いになったかもって事じゃろ?

だとしたら捕まったリン族は『レースがある事も知らない』のに、『妨害工作を行っている』事になるのじゃ」

「ふ~む、それが余にもさっぱりなのだ。

そもそも、知っていたとしてコースへの細工はルールで禁止されているではないか。

馬競べで不正をするなど、リン族族長としてあってはならん事だ」

「でも、あの祭りの場に居ればレースがあることくらいは耳に入るよね。

なんたって最後の『お楽しみ』だし。詳しい情報は入ってこなかったとか?」

「う~む、それも確かに」


 こういう事には真面目そうだ。

 彼はとても攻撃的ではあるが、理想主義過ぎると思う。

 だからこそ、最悪のパターンを想像しない。


 もしかしたら後から来たリン族が勝手にやっているというパターンも考えられる。

 しかし一番に考えられるのは……。


「でも、そもそも妨害工作の犯人がタカラの可能性もあるよね。

要塞の守りを越えてやってきたリン族に、バッタリ会ったタカラが妨害工作を命じたんじゃないかな」

「むむっ……それは違うと信じたいの」

「なんで?物凄く怪しいじゃん、

見た目も口調も怪しいし」

「何故なら、余が信頼している人間だからだ。

貴様らには信用出来んと思うが、余にはアレが居なければ此処に来る事なんて出来なかった。

少なくとも、侵略は余の価値観における『正義』の為に行っているのでな」


 賛同は出来ないが共感は出来た。

 だとしたら彼のやる事が見えてきた。

 だとすれば、ボクのやる事は決まってくる。


 ボクは軽く手を振った。


「そうか、じゃあ頑張ってね。

ボクからは言葉位しか飛ばせないけど、大変だね。」

「……ちょっと待てい!」


 フォウがずっこけそうな位に前のめりになった。


「そこは余と一緒に犯人捜しをする流れだろうが!

事件の香りだぞ!」

「いやあ、そうは言ってもボクは君と戦う為にバイクの練習をする必要があるし。

そもそも君にそこまで義理立てする意味合いが無い」

「ぐぬぬ……」


 彼は歯噛みする。

 だって当然の対応じゃないか。

 秘密に関わるので此処では言えないが、玄武咆哮の使用時間も勿体ないし。

 地道に練習を重ねるのが一番の近道だ。


 事件による話のテンポなんて知らないさ。

 こういう時に盛り上がるシャルも、今回は無反応だし。


 けれどそんな状況で、意見を唱える者が居た。

 ザッと靴音を立て、此方に近付いて来る。


「あらあら、良いではありませんか。

此処は付き合ってあげるのも一興ですよ」


 のんびりとした口調で現れたのは、何時も通りメイド服を着たハンナさんだった。

 口元の黒子がセクシーだ。

 こんな見た目だが彼女は『アンタレス家』というれっきとした独立貴族の当主であり、父上の補佐をする直臣でもある事もあり、強い権限を持たされていた。

 特に今回のように父上不在の時とかは大体彼女がどうにかしている。


 ソースが曖昧なのであんま信用性ないけど、数世紀前のラッキーダスト家二代目当主の正体は彼女だったなんて話もある。


「坊ちゃま、バイクに乗って外に出ては如何でしょう。

きっと『実践』として練習になると思いますわ」


 ああ、そういう事か。

 つまりバイクに乗ったボクが街中に出れば、何かの事件に巻き込まれるのでレースの練習になると。


 事件に巻き込まれる事を確定で言っているよ。

 厄介な事に、ハンナさんの目が節穴だった事は一度も無かった。

読んで頂きありがとう御座います。


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