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557 強化イベントの修業期間は短縮される

 『玄武咆哮』について、ボクはハンナさんの説明を受けていた。

 これから一日どころか数分で覚える予定の技である。


「──と、いう訳で、正しい覚え方をするなら才能と長い鍛錬が必要な技で御座います」


 説明の内容は難しくてあまり頭に入らなかったが、つまり『一日で覚えるなんて無理だろ』という内容だ。

 才能が無いと一生かけても取得は難しいとか。


 まあ、理由は分からんでもない。

 フワフワし過ぎなのだ。

 『防御力』の強化ってなんだよ。

 ステータスで数値化されている訳じゃないんだぞ。


 筋力を上げて、馬力なり速度なりを上げる『攻撃力』の強化ならまだ分かる。

 しかし防御となると、硬質化させるのか、しならせるのか、弾くのか。

 概念によっては回避も防御力の範疇に入るし、どのような攻撃から身を守るのかで大分意味も変わってくる。


 で、ハンナさんの回答はこうだ。


「亀のように硬く。

蛇のようにしなやかに。

それこそ防御の奥義『玄武咆哮』で御座います」


 コツはバリツの基本である『受け流し』。

 故に『ズル』をしようとしても普段からの練習がかかせないとか。

 ズルってなんだと聞けば、『後で』との事。


 どのようなダメージも一点に留まらせずに体内で分散させて地面に流す。ある程度は力んで受け止める。

 さらに強化魔術による皮膚の硬質化や衝撃緩和などを精密に、負荷の起こるタイミングに合わせて流動的に行う。


 無茶だ。

 合気とかでも理論上可能とか言われているけど、実践試合で使える人間が居るかといえば分かるだろう。

 大人になるまで修業を続ければなんとかなるかも知れないが、今すぐは絶対に無理。

 才能のあるボクだからこそ、理解出来た。


 しかしハンナさんは微笑み、指を一本立てる。

 『ズル』の話に入る。


「坊ちゃまの思う通り、正規の方法では時間が足りません。

なので今回は少し『ズル』をしようと思います。

某ハンターな漫画だったり、少年誌のお約束と言って良いでしょう」


 彼女は不思議な事を言うと指を少しずつほどいていき、手の平を広げた形に。

 それをポンと、ボクの胸の中心に置く。


「私の魔力で坊ちゃまの体内を、少し刺激させて頂きます。

『玄武咆哮』が発動した状態を、知識よりも身体そのものへ焼き付けるように記憶させるのです。

では……いきますよ」


 それは不思議な感覚だった。

 ハンナさんの手の平から放たれた魔力が、ボクの皮膚に染みつき体内に溶けていく感覚を覚える。

 力は五臓六腑に染み渡り、まるでボクがハンナさんの一部になったような、自分の身体でないような感覚だ。

 まるで絶対者に己の全てを握られているようであるが、不思議と嫌という感触はない。

 例えは悪いが、オスを取り込むアンコウの交尾とかこんな感じなのかも。


 彼女の魔力に身を委ねていると、ギュルギュルと体内で波打つ感覚が湧き上がって来た。

 皮膚が、内臓が、骨髄が圧縮したり広がったりして強度そのものが変わっている。


「うぐ……」

「今、坊ちゃまの潜在意識下に現在の感覚が焼き付けられております。

考えるでは無く感じるものとして、技を覚えている筈です」

「ぐっぐっぐっ……」


 ダランと全身の力が抜けて、途切れ途切れに息が出る。

 今まで味わったことの無い負荷と快楽によって、考える事を拒否している。

 只々脳の奥底に動きを染み込ませられている感覚を覚えていた。


「……さて、こんなものでしょうかね。第一段階は終了です。

しかし只人に戻る、その時が一番負荷が大きくなります。

ここより少々ご辛抱下さいませ」


 ゆっくり背中から手を離すと、ボクの中でプツンと何かが切れた。


「うぐっ!」


 ブヨブヨしたスライムのようなものがハサミで切られたような感覚。

 言わずもがな魔力の繋がりだ。

 だが、ここまで人体の深部まで影響を与える魔力を味わった事は無い──と、いうか『取り扱った事がない』と言った方が適切なのだろう。


 本来、玄武咆哮を使うにはコレを自分の力で出来る程の鍛錬が必要という事である。

 ズル(チート)には代償があって当然なのだ。


 体内が元に戻ると同時に、変な汗が全身から出て、眼と後頭部がガンダンと痛み出す。

 地面が迫ってきたと思いきや、一拍置いてボクが前に倒れていると気付く。

 周りが何か言っているが、それをボクが認識する事は出来ない。


 腕が動かないと思いきや、痙攣を起こしていた。

 全身が内側に引っ張られるかのような錯覚が起きる。

 頭痛はどんどんと増していく。

 全身も痛い。

 内臓や骨髄などが震えて、ボクの皮膚を突き破って来そうだ。


「あうあうあうあ……」


 え?これがボクの声か。

 心配そうに見ているアセナとシャルが居る。

 「平気だよ」と言葉にしなくては。

 それなのに言葉にならず、うめき声が漏れるのみ。

 そうか、言葉が聞こえないのだから言葉を発せなくて当然だよな。


 自身の痙攣により、頬を畳みに押し付けていると喉に熱い感覚を覚える。

 そしてボクは、嘔吐した。

 うわぁ、顔に思い切りゲロかかっているじゃん。

 道着に着替えといて正解だったかも?


 そんな呑気な事を考えていると、今度は下半身に生暖かい感触がある。

 え?まさか漏らした?

 うわっ!ちょっと皆の前で勘弁してくれ!


「あぐ……」


 どうしようもない事をどうにかしようと、身体を魚の如くグネグネと動かすがどうしようもない。

 寧ろ床に飛び散った汚物を伸ばすという逆効果になっている。

 身体全体に浴びるとかマジで最悪だ。


 直後、爆発するように激痛が訪れた。


「んぎいいいいいい!!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!


 今まで気にしていた身体の痛みの比ではない。

 無理やり四肢がピンと張って、海老反りになる。

 なんか死後硬直っぽいけど、大丈夫だよね?ボク死なないよね?

 冗談じゃなく死ぬほど痛いんだけど!


 身体の穴という穴から苦痛を出している最中、ボクの意識は痛みに耐えきれず闇に落ちたのだった。

 父上の肉体強化は殆どが『人間の技術』によるものだというけれど、常人が簡単に出来るとはまた別の話なんだなあ。

 バリツの訓練を進めていくと更にコレを残り三種覚えろというのだから酷い話だ。


 取り敢えず、ボクの意識はそこで切れた。

 死んだかも。

読んで頂きありがとう御座います。


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