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548 ガンマンの決闘

 エミリー先生が銃撃を放たんとしている敵は、巨大な馬の後ろに横座りする女性。

 外見年齢は、30に届くか届かないか。

  艶やかな髪を下の方でお団子状にまとめて、唇には赤いリップを塗っており、若いだけの女性にはない魅力がある。


 服のデザインはまるでフラメンコの踊り子のよう。

 ヒラヒラとした袖と赤いドレス。

 そして、頭にかぶった赤いシルクハットは金色の歯車型の飾りをジャラジャラと付けて、服装にバランスよく馴染んでいた。


 その手には、厳ついライフル銃。

 先端には円柱型のマズルブレーキ。精密射撃の安定性を上げる物だ。

 そしてバレルの根元には、二脚の台座、銃身上部にはスコープが付いている。

 分かり易いスナイパーライフルであった。


 そして何より目につくのは外装に『プラスチック』が使われているという事だ。

 古代の宇宙開発文明では石油製品は多く使われていたそうだが、ボク達の世界ではそうでない。

 それに相当する部位は、骨を削って作成している。

 魔物が居るので大きい骨にも困らないし。


 つまり彼女は、別の文明の住人。

 そして思い当たるのは、ひとつしかない。


 秘密結社『ミアズマ』の構成員!


──フッ


 彼女は素早く、何時の間にか銃を構えていた。

 とはいえ速度はちゃんと人間の物で、目にも留まらぬという訳でもないのに、気付くとそうなっていたという感じだ。

 それは素早さを競う武術の達人というより、手順に無駄のない物凄い料理が上手い人とかに似ている。


 エミリー先生は天才であるが、戦士ではない。

 故に、女性の方はややタイミングが遅かったにも関わらず、銃口同士が向き合った。

 狙撃銃を構える女性の上体は、真っ直ぐでは無く傾いている。

 今にもずれ落ちてしまいそうな不安定な姿勢だったのだ。


──ガォン!


 銃弾は同時に放たれた。

 結果がどうなったのか。

 先ず動きがあったのは女性の方。

 糸の切れた人形の如く、馬からズルリと、発射と同時に落ちていく。


 ならばエミリー先生の勝ちか?

 いや、そうではない。

 先生の視線の先、彼女の武器の先端にヒビが入っていた。

 

「……やってくれるね」


 エミリー先生は眉間に皺をよせ、恐ろしい声色で呟く。

 目もドス黒く濁っている。

 基本的に彼女は面白お姉さんだが、身内以外には割と冷酷なのだ。

 特に明確な『敵』である『ミアズマ』に関しては、生きている事を後悔させたいと思う程度には憎いと思っている。


 しかし相手は余裕の表情。

 落馬したように見えたその身体には、傷一つ付いていない。

 落馬しながら身体を捻り、受け身を取ったからだ。


「取り敢えず、休戦にしない?」

「……チッ」


 鳴るのは巨大な舌打ちの音。

 しかし武器を下げざるを得ない先生は、物凄く悔しそうだった。

 ひょっこりと、何時の間にやらボクの隣に座っていたシャルが質問を投げかける。


「つまり、どういう事なのじゃ?」

「ああ、それはね──」


 ボクはシャルに説明した。

 とはいっても、人間の視覚では判断が難しいところもあったので、アセナにも補足して貰っての説明だ。


 銃弾を同時に撃った時、互いに『かち合った』のだ。

 正面からぶつかるという意味だ。

 ただし完全に正面からという訳では無く、狙撃銃の弾がエミリー先生の針を、やや(こす)る程度の衝突だ。


 これは偶然ではなく、あの女性の技術によるものである。

 何故なら、エミリー先生の極太針と通常の銃弾が正面からぶつかった時、質量のある針の方が勝つという事。

 対して擦るように横から衝撃を加えれば、軌道をズラして速度を軽減させる事が可能だ。


 ただし、針を僅かに反らした程度では身体に当たる危険性がある。

 そこで敢えて身体を不安定な姿勢にして撃つ事で、直ぐに馬から滑り落ちれるよう『構え』を取っていたのだ。

 ボクの眼では馬上から撃ったように見えたけど、アセナが言うには、実際は落ちながら撃っていたらしい。

 なんせ銃弾相手だからね。

 なので落馬後は受け身を取って無傷だった。


 そして、やや軌道を逸らしつつも小さな銃弾はエミリー先生の銃口近くに当たる。

 これは拳銃の銃身が破損した状態に匹敵する。

 なのでエミリー先生は銃撃という攻撃手段を失い、武器を下ろさざるを得なかった。


 補足すると彼女の『クロユリ』の本質は接近戦にあるのだが、攻撃力が高すぎて周りを巻き込み易いという欠点もある。

 そういう事をしない為には精密な武器操作をする必要があるが、それは戦士の領域であって、技術者の先生の領域ではない。

 逆を言えば、先生は手作りの武器をブンブン振り回すだけで殆どの敵に勝てる人という意味でもあるが。


「なるほど、お兄様達を巻き込まない為に接近戦をしないんじゃの」

「うん、その通り。シャルは賢いね」

「うへへ」


 ボクはシャルの頭を優しく撫でる。

 髪をツインテールに結んでいるので、触ると綺麗な頭の形が分かって気持ちいい。


 エミリー先生が口を開く。


「一応、名前を聞いておこうか」

「秘密結社ミアズマ幹部、【タカラ】。

担当は見ての通りスナイパーだけど、暗躍なんかもやっているわね。

若に聞いていたと思うけど、よろしくね」


 すっくと立ち上がり、身体にしなりを作り色っぽいポーズを取った。

 ライフル銃のゴツさがアクセントを生む。

 ていうか、フォウをそそのかしたのって、きっと彼女だよね。

 彼一人だけの力では、現在の状況に持っていくにあまりにも弱すぎる。


 何故ならミアズマは、最近ボク達と抗争中の『悪の組織』だ。

 彼女の言う『若』こと、セト・ヤクモを総帥としている。

 宇宙文明の異世界から来ておりボク達の眼に見えない外国に、宇宙戦艦を着地させて事務所としている。

 幸いなのは、この世界のあらゆるところに存在する『魔力』は電気を阻害する性質があり、宇宙戦艦をはじめとした未来の武器が使えない事だろう。


 活動内容としては、エミリー先生が拉致されて働かされた違法風俗の補助や、ルパ族が大草原を追放された内乱の黒幕など。

 その目的は『この国を無政府状態の実力主義社会にする事』である。


 つまりロクでもない連中だ。

 無能な若君をそそのかして戦争を起こす理由としては十分だった。

挿絵(By みてみん)

お絵描き。タカラ


読んで頂きありがとう御座います。


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