545 王子様系女子のキスは柘榴の味
花より団子。
子供にとって、お祭りの醍醐味といえば食べ物の事ではないだろうか。
サーチ能力はビンビンだ。
美味しいご飯を呼び水とし、更なる食事を求めて、ボク達は宴会の場をウロウロする。
目に留まったのは、握り拳程度の大きさをしたドーナッツのような物。
「これはオヤツ版の揚げパンだな。」
「なんか前作ったものより大きくない?」
以前、アセナと一緒に作ったヤツは親指位の大きさの物だった。
小麦粉で作ったシートを小さな四角形に切って、捻ったのだ。
主食にもオヤツにも使われる、家庭の味であるとは聞いたな。
「時間をかけて揚げたものだからな。
小麦粉と砂糖と砂糖を混ぜ合わせている、代表的な屋台のオヤツだ。
まあ、食べてみろ」
──パクパク
「ふっくらモチモチだね」
「そうかそうか、アッハッハ」
アセナは酔っ払いの様に、バンバンとボクの背中を叩く。
自分の結婚式なのに、ボクが食べている様子を眺めているのがとても嬉しそうだった。
ハンナさんは「沖縄のサーターアンダギーに近いですわね」と言った。
物知りだなあ。
そして食べ終わり、ボクが歩くと皆がゾロゾロと付いてくる。
半分に切ったトマトを大鍋で煮込んでいる場面に遭遇した。
「これは?」
「煮込みケバブだな。
大平原では肉料理全般を『ケバブ』と呼び、他にも串に刺したシシケバブや、回転させたデカい肉を切ってナンに挟むドネルケバブと呼ぶ。
ほれ、焼き飯と一緒に皿に盛ってやったぞ」
──モグモグ
「トマトの酸っぱさに染まったラム肉がご飯とよく合うね。
ちょっとオムライスっぽいかも」
「今回は豪勢な仕様で、香辛料で味を調えているのもポイントだな」
「ていうかこの付け合わせの焼き飯はレーズンが入っているんじゃの。
意外と相性が良くて驚きなのじゃ」
そしてどんどん食べていく。
──ズルズル
「ラグマン。麺料理だな。
コシが強いのが特徴だ。
よくトマトスープで味付けしているけど、汁なしもあるな」
「結構野菜が多いね」
「ハンナ、お箸ありがとうなのじゃ」
「いえいえ、これは『うどん』に近いですね」
──ツルツル
「アシャリャンフー。
でんぷんで作った麺料理で、半透明なのが特徴だ。
トマトスープは酸味と辛味が強めだな」
「ツルツルモチモチだね。
こういう麺だからパンチが効いた味付けなのかな。
あ、ニンニクも入れているんだ」
「ちょっと冷麺っぽいです」
──ゴクゴク
「甘酸っぱいね。これは?」
「果実水。ザクロのジュースだな。
こういうのを作る風習は無いんだが、海外貿易で砂糖が入るようになったし、観光用に作るようになったんだ。
ザクロは草原を駆け回っているとよく見る、文字通り『道草を食う』のに馴染み深い果物だ。
沢山食べていると喉が渇くだろうから丁度良いだろ」
「うん、のど越し爽やかだね」
色々と珍しい食べ物を満喫した。
喉を潤し一息つくと、アセナが手を差し出して来た。
「さ、踊ろうか。
結婚したし大人なんだから、団子より花を愛でたって良いだろう?」
光を背景に、薄く影がかかったその笑顔はどこか蠱惑的。
その中でも金色に光る眼にはついつい惹かれてしまう。
狼の獣人なので暗い所でも視力が効くのだ。
手を握ると、引っ張られて皆が踊る中に向かっていく。
「でも、大丈夫かな。
ボクって社交ダンスみたいな踊りしか出来ないよ?」
ナイトクラブは貴族への憧れの色が強かったので、それに合わせた踊りが出来たが此処は全くの独自文化だった。
酷い例えかも知れないが、ジャングルの奥地の民族の踊りに合わせられるかと言われたら無理だと思う。
しかしアセナはフワリと微笑み此方を真っすぐ見る。
控えめに開けた口からは白い歯が覗く。
「なあに、大丈夫……」
両手を使って、ボクの手をそれぞれギュっと握った。
軽く体重を後ろに落し、腕で輪を作ってダンスのステップを踏む。
「アダマスとアタシなら、フリースタイルで最高のダンスが出来るから、ね」
それはまるで物語の王子のようだった。
立場的にボクの方が王子なのだが、実際にそう見えたのだから仕方ない。
王子様系女子というものだろう。
シャルがボクを見ている時、こういう風に映っているのかもなあ。
彼女はステップで、ザックリとたリズムを教えてくれる。
確かに好きに踊っているが滅茶苦茶でないという事は、何処かに統一性があるという事だ。
こうして伝えられると、なんか踊れそうな気がした。
意気込んでいると、再びアセナが囁くように喋る。
愉快な歌や楽器の音の中だとういうのにハッキリと聞こえた、ハスキーボイス。
普段がヤンチャな雰囲気の女性なのでドキリとする。
アセナはボクの口にキスを落とす。
先程ジュースとして飲んでいた甘酸っぱいザクロの味。
そういえば今日のアセナは、お酒を飲んでいないんだなあ。
ボクに配慮してくれたのだろうか。
なんか少女向けのロマンス小説みたいだ。
男女逆転している事を除けば、だけど。
まあいいか。
互いに飛んで跳ねて腰を回して、自然とボクが遊牧民の一員になれたような感覚を覚える。
周りを見れば、シャルとエミリー先生も楽しそうに踊っていた。
かわいい。
でも、一番注目を受けているのはボク達だった。
主役だからだろうか、踊りが優れているからだろうか。
ラッパや太鼓、笛等の音に合わせ、夢中になって踊るのは夢のような時間で。
このまま終わらなければ良いのにと思うと同時、アセナをリードできるようにはやく大人になりたいという矛盾した気持ちを抱くのだった。
ああ、楽しいなあ。
ところで、だ。
この後にボクは大草原の隠された結婚の文化があるのを知り、後に大問題に巻き込まれる事になる。
それを『誘拐婚』といった。
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