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518 爪先からナイフが飛び出る靴ってなんて名前の武器なんだろう

 戦いの最中というものは、相手から目を離さない事が重要である。

 それ故に、些細な言葉にも反応してしまう事が多々ある。


 ボクはお喋りな方では無いのだが、目の前に立ち塞がるイオリの勝利宣言につい反論した。

 勿論ナイフは構えたままだ。


「強がりかい?

追い詰められているのは君じゃないか。

出入口は塞がれ、人数比は5対1。

両手を挙げて降参の方が正しいと思うけど?」


 けれどイオリは、細い目を更に細めクスクスと笑った。


「いやいや、正確には2対1だ。

アズマ、グリーン、そしてシャル(そこの子供)は戦力外。

しかもエミリーは、その三人を液体金属で守る必要があるので俺とお前の戦いにはほぼ参加出来ない。

『人質』が三人居るとも解釈出来るな」

「ふ~ん……そうかいっ!」


 ボクの靴は、足の爪先がサンダルよろしく剥き出しになっている。

 ぶっちゃけ只のお洒落だ。

 戦闘においては爪先蹴りの威力が落ちたり、防御力が下がったりとメリットも少ない。

 けれど、それを『個性』として活かす能力も、腕力やら素早さやらのステータスではない重要な『戦闘力』だ。


 ボクは、足元の椅子の破片を指同士に挟んで『握る』。

 使うのは椅子の足の部分。

 金属製だがパイプの様に空洞だし、細く短いので足の指の力でもなんとか持てる重さだ。

 ボクとイオリはやや離れているが、これなら届く。

 視線は逸らさぬまま、ノーモーションで前蹴りを放った。


──キン


 けれど何かに弾かれる。

 故に攻撃はイオリに届かなかった。


 聞こえたのは『金属音』。

 指を通して体の芯まで伝わる衝撃も、正に金属の硬さ。

 しかし何処だ?下を狙ったから、ズボンに金属板でも仕込んでいたか?

 でもそれじゃ、病院で切り裂きジャックとして立ち回った時の軽快な動きに支障が出そうだしなあ。


「おっと危ない。

殺し屋だから隠していたけどさ、実は俺、結構強いんだぜ」


 スッと膝を上げると、イオリの革靴の爪先からナイフの刃が出ていた。

 ああ、それか。

 スパイや殺し屋がよく愛用する隠し武器。

 主にハイヒールに仕込んで、足技を使える女性が使う物だったか。

 踵のところにスイッチが仕込まれており、床で思い切り叩くとナイフが飛び出るのだ。

 暗器故に普通は細くて折れやすいのだが、彼の物は鉈の様に肉厚だ。


 つまり靴底程度の長さのナイフで、何も見ないで切り払ったという事である。

 絶対音感で音を拾ったのかも知れないね。

 牽制で破片を使って良かった。そのまま跳び蹴りでもしようとしたら、指を叩き切られていたかも知れないな。

 ぶっちゃけ、ボクより格上だと思う。


 彼は話を続けた。


「さて。

エミリーなら三人を守りながら液体金属による遠距離攻撃で俺を倒せるだろうが、この『位置取り』を見て欲しい。

いやほんと、椅子に座ってエミリーを目の前に置いた状態から気付かずに持って来るの大変だったんだぜ?

今までのトークもコレから目を逸らさせる為にやっていたんだ」

「先生がボクの背後……あ!?」


 しまった、やられた。

 イオリはボクの目の前に『立ち塞がって』いるのだ。

 つまり、ボクは前のイオリと後ろの先生に挟まれている形になるね。

 この意味は、ボクの身体を先生の攻撃から『盾』として使えるという事だ。

 狭い牢屋なので動きも制限され、回り込むのも難しい。


 先生が何かしようとすれば、ボクを殺すという脅しでもある。

 彼の視点から先生の行動はよく見える訳だからね。


 イオリは目を見開き、怪物のような深い笑みを浮かべた。

 それは正に、彼の味方のマスコミが誇張で思い描いた『切り裂きジャック』の素顔のようである。


「ほおら、これで人質は『四人』だ。

だから言おうか。

エミリー、俺に協力するんだ」


 イオリは柔軟性のある足の動きで、まるで手に持っているかのようにナイフを遊ばせた。

 彼にとって単なる対象外かも知れないが、それでも会話に割り込ませて貰う。


 ボクの予想が正しいならば。

 他人の命を軽く考えているイオリの気持ちになるならば。

外道過ぎてなるべくエミリー先生に浴びさせたくない言葉なのだから。


「イオリ、エミリー先生は此処で「ハイ」と言っても直ぐに反旗を翻すだろう」

「ああ、それはね……」

「いや、言わなくていい。

先生を『改造人間』にする気だろう?

『此方の世界』で改造人間を作る際の子宮を使った方法では無く、ナノマシンの技術を使い、この場で頭だけ生かして、持ち帰る気なんだろう?」


 するとアズマはニコリと笑った。

 ネチャリとした闇の無い、無邪気な笑いだ。

 根本的な「死」の概念が常識とは違い過ぎる、サイコパス故の顔だった


「うん、そうだな。

失血死しないようにする為の機械なら揃っているしな」


 来る途中で見た、絵面最悪な生首の培養装置の事か。


「まあ、生きているから良いだろ?

脳にバイオチップを埋め込み、仕事になったら洗脳機能を発動させて使わせて貰おうと思う。

エミリーは特別だから、薬で頭脳を駄目にもしたくないしな。

普段は機械のボディを付けてそっちに置く、特に変わらない日常が続くだけさ。

別に側室っつっても、子供が産めないなら機械でも似たようなものだろ。

あ、アッチの機能は付けておいた方が良いか。

アッハッハ、こういうのって考えるの楽しいな」


 まるで、自分が『良い事』をしたかのように振舞う。

 いや、彼の価値観では『善行』になっているのだろう。


 ああ。

 やっぱり。

 コイツは……。


「この……ゴミクソ野郎があああああ!」


 ボクは叫んでいた。

 キャラじゃないけど、後悔はしていない。

 先程は彼を『生かしちゃいけない人間』と言ったが、此処まで想像以上のクズとは思わなかったんだ。

読んで頂きありがとう御座います。


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