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512 イオリの正体

「え!?それじゃ、あの時の切り裂きジャックの中身はイオリさんだったっていうの!?」


 グリーン女史は、病院で見た切り裂きジャックの中身が人間だった事に驚いていた。

 部外者だし、バトル系とは明らかに別ジャンルの人なので致し方なし。

 普通、そこまで考えないよね。

 だが、敢えて可能性に過ぎない事を加えておく。


「いや、そうとも限らない。

何故なら、イオリの傷は本当だったからだ。

あれだけの怪我をした人間に、『切り裂きジャック』の見せた機敏な動きが出来るのかといえば難しい」

「確かに、私なんて治療に関わらせて貰ったけどあの傷はヤバかった。内臓も結構傷付いていたし」


 滅多斬りの重症で全治何か月とかそういう人間に「今から成人男性持ってアクロバティックな動きをして下さい」なんて無茶な話だ。

 そもそも彼にそんな筋力自体ない。


「だとすれば……ナイトクラブで大怪我をした後に改造人間の手術を受けた?」


 命に関わるのなら、改造人間の手術を受けて延命するのもやむなしな考えもあるのではないだろうか。

 彼が繋がっていた『裏組織』は見ての通り改造人間を主体とする秘密結社。

 蹴り技を使うような、普通の人間型改造人間手術を所持していてもなんら不思議ではない。


 そんなボクの声に待ったをかける声があった。

 ナイトクラブでのイオリの治療を担当した、アズマである。


「近いな。けれど外れだ」

「……近い?」

「ああ。そろそろ、答え合わせをしても良いか」


 それは、決意の言葉だった。


 彼はポリポリと後頭部を掻いた。

 葛藤を感じていたり考えあぐねていたりするサインだっけな。

 読心術を持つボクは感覚で理解出来るけれど、なんかの本でも書いてあった気がする。

 確か、シャルが面白半分で持ってきた心理当ての本だったか。

 何を考えているのか当てっこするのが楽しかったなあ。


 さて、それはそれとして。

 この施設・組織に詳し過ぎるアズマは口を開いた。


「イオリと俺は、『何時』出会ったと思う?」

「それはグリーンさんと会った時じゃないかの?

だって、携帯蓄音機のスポンサーの関係じゃろ。

その繋がりで、イオリのギターの修理とかやっていたんじゃないかの?」


 なんとなしにシャルが答える。

 思った事を口にしてしまう年頃なのだ。

 その言葉に待ったの声。

 当のグリーン女史である。


「え?ちょっと待って。

アズマがイオリさんのギターを見ていたなんて初耳なんだけど」

「えっ!?いやいや。

妾達がはじめて会った時、アズマがあの真っ赤なギターを見ている所じゃったよ?」

「はぁ!?」


 なにかの事象に立ち会ったか否か故の、『人物像』に対する認識違い。

 グリーン女史は、アズマの方を割と凄い表情で見る。

 アズマは無表情ながらも気まずそうだった。


「……すまん。実は俺、隠れて仕事してたんだ」

「マジかい。それなのにヒモやってたたんかい。

ちょっと、コレが終わったら絞らせてもらうからね、覚悟しなよ」

「うむ」


 ああ、そういう事なのか。

 彼女を成長させる為に、実力を隠していたんだな。

 グリーン女史にとってアズマは、たまに重要なヒントを出し、それ故に養うべき『ヒモ』の位置付けであろうとしたんだ。


 彼は話を戻す。


「そう。つまり、俺とアズマは『俺がグリーンと会う前』から知り合いだった。

アイツのエレキギターを直せるのは俺しかいなかったから、ちょくちょく修理をしていたんだ」

「ん?でもイオリって別枠の『ニホン』から来た異世界人じゃよな。

つまり、この領地に来る前とかに出会ったのかや?」

「いいや、違うな」

「お兄様!?」


 ボクは今まで引っ掛かっていた事を口に出す。

 恐らく、これで合っている筈だ。


「アズマとイオリは、同じ場所から、同じ宇宙船に乗ってやって来たんだ。

そうだろう?アズマ」

「正解だ」


 アズマは関心したように頷いた。

 やはりアズマとイオリは同郷だったか。

 そこで反応を示すのは、シャルである。


「うひっ?でもヤクモは、それを否定してなかったかの?

『ウチのモンじゃない』『別口の転移者』って……お兄様も読心術で真偽は確かめていたじゃろうし」

「確かにヤクモの言っている事は正しかった。

けれど、これはボクが迂闊だったからなんだけど、実はヤクモは別に『同じ場所から来た』という事については否定していないんだ」


 ナイトクラブでエミリー先生とヤクモは、こう会話をした。


──そういえば、此処で人気のイオリってギタリストは、ミアズマの一員なのかい?

──いや、ウチのモンじゃねえな。

別口の転移者なら、イオリが殺し屋だとかの事情を俺が知る訳ねーだろ。


 先ず、『別口の転移者なら』という文について。

 よくよく見れば、『もしもイオリが自分達と別だったなら』という、IFに基づいて言っているだけなのだ。

 ボク達の「イオリは日本から来たのでは?」という思い込みに付け込んだのもある。

 この前提で言っているだけなので、以後の言葉は全て信頼性のない情報になる。

 ホント、悪党だ。

 それらしい言葉で人を騙すんだから。


 そして本題。

 『いや、ウチのモンじゃねえな』という文について。

 これはアセナの新聞社での、何気ない場面で気付いた事。

 『そも生活環境が違うというのは、居る場所が違うという事だ。居る場所は、『所属』とも言い換えられると思う。』

 と、ボクは思ったのだ。


 イオリはミアズマに『雇われている』立場であったならどうだろう。

 では、正体はなにか。

 それこそヤクモ自身が言っていた事だ。


──殺し屋


 ミアズマが事務所経営である事を考えると、自然な立ち位置なのである。

 汚い仕事・何時でも切り離せる仕事は大体外注だ。

 貴族だって騎士がやれない仕事は傭兵を使ってきたのだしね。

 そしてそんな『外注』は、職場が事務所の様に小さい場合、身内のように扱われる事が多い。

 派遣とか……。


「……と、いう事さ」

「なるほど。まさかイオリがこの事件の黒幕……」

「いや、それでもまだそうとは言い切れないんだ」

「なんか今日のお兄様は引っ張るの。と、いうと?」

「先ほどのアズマの話であったように、組織そのものが暴走している可能性もある。

それにイオリは『子供の頃からオッさんになるまで、ずっとギターに命を賭けている』。

そんな人間なのも、『正』なんだ。

人間像が殺し屋と結びつかないんだね」


 ボクが見た切り裂きジャックは、快楽殺人鬼だった。

 趣味であるギターに命を費やしているのに、なんで趣味が殺人になるんだ。

 不思議とボクは、純粋な彼を信じたいと思っていた。


 その為の鍵は、アズマが握っているのだろう。

 話はまだ途中なのだ。

読んで頂きありがとう御座います。


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