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510 未確認で予測可能な気持ち

 アズマは関係者で無ければ知り得ない知識を連呼する

 グリーン女史が震えながらも小さく手を挙げて声を上げる。


 浮かんでいるのは『怯え』の色である。

 恋する対象が敵側の人間だと実感する。

 しかし、愛が無ければ他人として聞き流していた。

 『怯え』は、アズマ自身にではなく変わる事への感情だった。


 ボクも一歩踏み出すのが苦手な人間だから、気持ちは解る。


「ねえ、ちょっと質問して良い?」

「……断ると言ったら?」

「いいや、許さないね」


 怖いけど立ち向かう。

 グリーン女史には怯えの中に覚悟があった。


「ああ、そうだ。お前はそういう人間だ。

他人の事情に深くは踏み込もうとしないが、聞かなければ後悔するような時は堂々と踏み込む」

「悪いかい?確かに私は聞かないって言ったけど、やっぱ気になるものなのさ」

「いや、全然。寧ろ人間としてそれが正解だろう」


 アズマは何処か嬉しそうだった。

 裏社会で揉まれる中、自身が捨ててきた生の気持ちをぶつけられたのが心に刺さったのかも知れない。

 ゴクリと、グリーン女史は息を呑む。


「じゃあ質問。アズマ、アンタってこの『裏組織』となんの関係があるんだい?」

「ふむ……」


 アズマは背筋を伸ばした状態で、眼を閉じた。

 動揺する事なく、ただ考える。

 『どこまで』ではなく、『どこから』話したものかと考える。


 そして彼は目を開いて、グリーン女史の方を向いた。

 後から知った話であるが、彼は人より多くの事を平行して考える事が出来る体質らしい。

 つまり、実際に見ている何倍何十倍の時間を思考に費やしたという事であった。


 彼は短命であるが、体感時間は常人と変わらないのかも知れない。

 ポツポツと言葉を紡いだ。


「信じても信じなくても構わない。

実は、SF作品みたいな『宇宙人』というものがこの星にUFOごと不時着してな……」


 それは、彼の所属する悪の組織『ミアズマ』が此処に来た経緯をザックリと分かり易く伝えたものだった。

 肝心の悪事についてはまだ話さない。

 しかし、元の世界の技術が殆ど使えないので、魔力を用いた技術を求めているという内容なのは伝わった。


 そして肝心な部分に差し掛かった。

 『裏組織』がどのように出来たかである。


「──かくして『宇宙人』達は、魔力文明の技術者を得る為に様々な手段を取った。

ある者は、有望な技術者を育てようとした」

「それはまさか……」

「脱線して詳しく聞くか?」

「……いや、いい。『育てる』なら、後で幾らでも聞けるのだからね。

ただ、私に貴重な技術を持ってきた謎も解けてきたよ。

それに宇宙人なら、常識が無さ過ぎるのも納得だ」

「そうか……」


 アズマは、グリーン女史を育てる目的でヒモとして近付いた。

 つまり自分に優しくしてくれたのは命令だったからという事。

 その事実に彼女はきっとショックを受けたと思う。

 それでも彼との未来のために、歩みを止めずに真実を受け止め続けようとする。

 強い人だ。


「その一方で『育てるなんてまどろっこしい。現地で技術者を集める為の組織を作れば良いのでは?』と、考えた者も居たのだ」


 その言葉に、様々な点が線で結びつき始めたのか、グリーン女史はグッとアズマに顔を寄せる。

 アズマの声色には、どこか哀愁が籠っていた。


「その組織を作るに当たり、『彼』は宇宙の技術を現地民に与えた。

その現地民は、今は組織から『首領』と呼ばれているな。

一発逆転を狙う人間達に未知の技術は劇薬であるし、世界を変えようという自信を持たせる事も出来た。

そして組織が自立した物になる事で『彼』が常に組織に居なくても、自動的に技術者を集める『下請け』になってくれる。

……少なくとも、出来た当初はそう思っていたよ」


 そこまで言って肩を竦める。

 特に感傷はなく、当然だと呆れの色が強い。


「しかし事は、そう上手く運ばない。

首領の組織運営は、余りにも下手糞だったのだ。

何とか組織としての形を保つために首領に代わってちょくちょく指示を出すが、暴走は止まらなくてな。

マスコミを利用した工作なんて正にそれだ。

組織を大きくするための仕組みを作ってやったのに、メチャクチャな使い方で直ぐダメになった」


 『技術者を育てる宇宙人』と『彼』を別人のように言っていたが、今度は同一人物であるかのような口ぶりだ。

 実際、グリーン女史を育てる一方で保険として、別ベクトルの『裏組織』を作っていたと仮定するなら矛盾はない。


 組織が既に彼の手を離れた物であるなら『アズマは裏組織に所属していない』という、読心術の結果にも当て嵌まる。

 そして技術を渡して人を操ろうとするのは、グリーン女史の生活に転がり込む際の手口によく似たものでもあった。

 驚きの顔を浮かべるグリーン女史の目を、しっかりと見る。


「グリーン。

つまるところ、俺はこの『裏組織』と関わりが深い。ロクな人間じゃない。

別れるなら、今がチャンスだぞ」


 ズイと、目と鼻の先まで距離を縮めた。

 しかしグリーン女史はゴクリと喉を鳴らして、ボクでも想像してなかった一言を落とす。


「……アンタ、自分を盛っているでしょ?」

「いいや、真実だが?」

「そうじゃない。

私に怖がられる為に、わざと自分を、必要以上に悪いヤツに見せているんだ。

アンタはこの『裏組織』を作った人間じゃない」


 ピクリとアズマの瞼が上がった。

 平気そうな表情を偽っているが、驚きと同様の気持ちが読み取れた。

 しかし彼は、さも何事も無かったかのように声色で問いに応える。

 負けず嫌いなのだろうか。


「どうしてそう思う?」

「行動が矛盾しているんだよ。

育ててきた私を自分から引き離そうとする癖に、『裏組織』を潰そうとする。

片方だけを失うならまだ分かるけど、両方潰すのは単なる自滅行為だ」


 強い言葉を前に、アズマは少し考えた。

 はじめて彼は息を呑んだ。

 頭は良い癖に、自分の行動から思想……と、いうより『気持ち』を読まれる事には慣れていないらしい。

読んで頂きありがとう御座います。


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