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503/566

503 田舎に行くとカメムシの数にビビったりする

 ピクニック気分で歩く、通路の下の果て。

 様々なダミーの横道を無視しながら進んだ先。

 ある地点でで、アセナは立ち止まる。


「アイツ等の悲鳴は此処からだな。

ジョナサンの対処に大慌ての時に毒霧だったから、寝耳に水って感じだろうな」

「水であって欲しかったね。

そういえば、あの毒霧って上水に合流してバイオハザートとか起こらない?大丈夫?」


 ピーたんは両手でブイサイン。

 何故か指の先っぽをピョコピョコ動かしてみせた。

 微妙に難しいよね、それ。


「時間経過で無毒化する物にしといたから、だいじょ~ぶい。

魔力で動く単細胞生物を生成して使っているから、魔力切れを起こすと自然消滅するんだね」


 ああ、そうか。

 別にケミカルな意味の毒じゃなくても、自身の形を変えるタイプの生物なら新たに生物を作るという選択肢もあるんだな。

 旧時代的な言い方だと『使い魔』だったか。

 シャルの母親のような人工人間(ホムンクルス)の原型になった概念だ。


 さて。

 こんな地下だというのに、目の前には屋敷に使うような大きな扉があった。

 中心には『裏組織』のシンボルらしき、虫をモチーフにした紋章がデカデカと。


 悪の秘密結社らしいなあ。

 ここに来るまでに戦闘員とか置かないんだろうか。

 いや、よく考えたらそれが出ないようショートカットしてきたし、そもそも殆どは真のヒーローであるジョナサンが引き付けているのか。


「……」


 一歩出ようとして、ピタリと止まる。

 キリキリとアセナに振り返った。


「これって、明らかに罠がいっぱい待ち受けているヤツだよね」

「おう。よく気付いたな、偉いぞ。

あの石畳に偽装したスイッチとか、踏むと上から岩が落ちて来たりするな。

そこのドアノブは毒針が飛び出るし、あの金属管も一本は睡眠ガスの噴出孔だな」

「危なっ!確認してなかったら大変だったよ!?」

「大丈夫、アタシが咄嗟に庇える範囲のヤツだから」


 田舎のお姉ちゃんよろしくニカリと笑う彼女はそう言うと、己の二の腕を頼もしく叩いてみせた。

 しかし守られっぱなしもなんか癪だなあ。


「まあ、対処してくれるのは分かったよ。

だったら、罠の解除はボクにやらせて貰っても良いかな。

幾つか心得は持っているんだ」


 自分で言うのもなんだが、ボクのステータスは技術値に全振りだ。

 ヨーヨーが得意なのもこれに由来するし、一度見た技を完コピしたりも出来る。

 そして料理を作るのも好きだす、デートに手作りのお弁当やお菓子を持ってきたりもする。

 将来は街にダミー住居のお菓子屋さんを作って、そこで店主としてお忍びをしても良いんじゃないかと思える程だ。


 と、いう訳でトラップを仕掛けたり解除したりする技能は、本職にはかなわないもののそこそこあるので、この際『勉強』に使ってはどうだろうか。

 と、いう建前の自己アピールである。


「……あ~、その、気持ちは嬉しいんだけどな」


 アセナは申し訳なさそうな笑顔でボクの頭をポンと撫でる。

 そして扉を、真っすぐ見た。


「普通の潜入任務ならそれで良いんだが、生憎ヤバめのトラップがあるんだ」

「ボクに任せられない程なのかい?」

「任せられないって言うか、相性が悪いっていうか……」


 そう言って、少し説明。

 どうやら毒霧を流した影響で、『裏組織』側としては虫を防御に使おうという作戦で一致したそうな。

 アセナの聴力を甘く見ていたのか、敵はペラペラと喋って作戦は筒抜けだったらしい。

 密室での音って反響するんだなあ。


「で、あの扉の裏には今、ビッシリと虫が付いているのね。

具体的には田舎のカメムシみたいになっている。

なんで、トラップの解除をしている間に扉が開いてアダマスが襲われる……なんて事はしちゃいけない訳だ」

「それはなんとも……早めの対処ありがたいね。

しかし、だとしたら扉を抜けるには扉ごと破壊する何かが必要な訳だよね。

火薬は天井が落ちて来るのが怖いし、先生のクロユリは置いてきちゃったし……あ、まさか」


 そこで思い出すのは、かつて建物を『溶断』しながらボク達に攻撃をしかけてきた酸のウォーターカッター。

 ジョナサンの得意技である。

 そしてそれは半魚人の種族特性でもあるので、ピーたんも使える筈なのだ。


「正解っ。良く出来ました」


 再びピーたんはブイサインをして、先端をピコピコと動かしてみせたのだった。

 彼女達をよこした父上の判断は間違っていなかったという事だな。

 彼女は人工川に歩み寄る。

 この人工ダンジョンは生活用インフラとして、何処にでも川が存在するのである。


 ピーたんは再び川に向かって顔を近づけた。

 シャルが心配そうに声を掛ける。


「また飲むのかや」

「ああ、この大きな扉を溶かす面積の酸を生成するとなると、べらぼうな量の水分がいるからねえ」

「また、あの状態になる……ぐふっ。まだ何も言ってないぞ」

「やかましいアズマ。アンタが言うと裏の意味があるのが透けて聞こえるんだよ。

前科があるっていうのはそういう事だぞ」

「ぐうの音も出ないな」


 実際、足抜けしようか悩んでいる犯罪者だしなあ。

 そうしている内にピーたんの補給が完了して、扉の前に立った。


「じゃあ、いくよ。

見た目はめっちゃ悪いから、つっこみ禁止な」


 どう悪い見た目なのかと言えば、このウォーターカッターは口から吐く技だという事だ。

 原理的に胃液を吐き出す技なので仕方ない。

 因みに酸で樹は溶けないが、その辺の事情はもう少し後で話そう。

 そういう訳で、ボク等は無言で扉が溶ける様を見送った。


 つっこみは禁止なので仕方ない。

 只、美人がやると新しい性癖だろうか?とは、少し思ったりしたのだった。

 お粗末。

読んで頂きありがとう御座います。


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