500 街中ダンジョン
祝!500話!
敵の秘密基地に行こうと、扉を潜り階段を渡り地下に進んだボク達。
待っていたのは毛細血管のように張り巡らせた金属管。荒々しい煉瓦。
そして真っ暗な空間を作るトンネルに、中心を走る人工の川だった。
つい思った事を言葉に出してしまう。
「まさか、下水道に基地を?
いやしかし、それじゃ配管掃除の人に見つかる気もするな」
「それに、川が綺麗すぎるのじゃ」
領都の下水事情は結構デリケートな問題だ。
掃除員や冒険者が定期的に見回りを行っている。
これを怠ると水に関する病気が蔓延するのは勿論、スライムや大ネズミなど湿地に住む魔物が繁殖したりする。
余談であるが排水を川に垂れ流すしかなかった時代、水洗トイレが出来たばかりの頃は大災害が発生して、このように巨大なインフラになったとか。
そこへ、この街の配管見取り図を丸暗記しているアセナが口に出す。
「その疑問は全くもって正解だ。
これは『偽装』した下水道だな。
『人工ダンジョン』と呼ばれる悪党の常套手段だ。
本来の下水道を縫うように、通路が上下左右の迷路のように張り巡らせている。
通路だけを抜き出して遠くから見ると箱状になるんだが、狭くて暗いトンネルを渡る事になるので実際より広く見えるな。
この規模だと二階建てビルってところか。まあ、大きい屋敷の使用人室が二つある程度って考えると割と普通の基地だ」
アセナが言うには、この偽装方法には様々な利点があるらしい。
曰く。基地作成中に偶然見つかっても『下水道』と言っておけば大体は納得する。
曰く。煉瓦の壁と複雑な道はそれだけで防衛施設になる。
曰く。『生活用水』が存在するので籠って最低限の生活をしたり、違法な植物や魔物を育てる事も可能。
「ほへ~、因みにこの綺麗な水はどこから来ているのじゃ?」
「川や湖から直接引く場合もあるけど、水源の高さの問題もあるから大体は上水道から無断で引いているな。盗んでいるとも言う。
見つけ次第ぶっ壊せな、一理もないクソ施設だ」
言ってアセナは、忌々し気に壁を殴りつけた。
煉瓦を拳が貫通するが、それだけで全体が壊れる訳では無い。
ルパ族が超人軍団でありながら衰退しているのは、こういうギミック系は身体能力でどうにか出来る物じゃないからなんだろうなあ。
「んで、金属管が必要以上に取り付けられているのは伝声管や蒸気管って事もある。
エミリー、金属管の種類を調べられるか?」
「ほいほい、超音波やスキャンの効かない金属だからちょっと時間が掛かるけど、まあやってみるよ。
三分くらい頂戴な」
シャルはキョトンと首を傾げる。
「そんな事をしなくても、片っ端から破壊して金属管の中身を確認すれば良いんじゃないのかや?」
「アダマス、説明」
「え?ん~……多分だけど、壊す事で怪我をするんじゃないかな」
「危ないのじゃ?」
「そうだなあ、例えば前にアセナが蒸気管を破壊して、吹き出した蒸気で虫を撃退したのを見たんだ。
こんな狭い空間で壊したら全滅とかそんな感じじゃないかなあ」
チラリとアセナを見て確認。
彼女は苦笑いして答えてくれる。
「まあ、8割方正解だ」
「その数値は何処から出たんだい?」
「目分量だ、エミリー」
「そうかい、君らしい」
「あ~、バカって思ったな!絶対思ったな!」
「はっはっは、馬鹿って言う方がバカなのさ。つまり今君は自分をバカと認めたのさ」
「お前も言っているじゃねえか。バーカバーカ!」
狭い通路に響き渡る漫才である。
そうこうしている内に、なんと別に正解を出す者が居た。
アズマである。
彼は病人特有の白い指で金属管を叩いて、反響音で何かを確認している様だった。
「虫、だな。
切り裂きジャック用の虫が通る為の通路が、この地下ダンジョンの管には紛れている。
場所を選べば有利に事を運べるが、こういう場所でシャルの言う通り『出口』を作った場合、そのまま虫の大群が此方へ押し寄せてくる」
ああ、そうか。
『裏組織』が使う場合に限り、それ専用の金属管も作る必要があるんだ。
なんでこんな簡単な事に気付かなかったといえば、如何せん汎用性を重視し過ぎたな。
アセナはポカンと目を開いた。
まるで、あまり喋らないクラスメイトが、突然喋ったのを見たかのような顔だった。
「お、おう……正解だ。
やっぱ工業区の住人としてはそっちに目が行くか」
「と、いうよりアイツは昔からこういうのを作る癖が……いや、すまない。忘れてくれ」
彼は幾つかを指で叩いた後、ある金属管で手を止める。
「これだな。これが、虫が通る菅だ。
切り裂きジャックに使う虫は暗闇でも視界は効くが、それだけでは『操作』が出来ない。
だからある『命令信号』を送る事が出来る菅と合流させる必要があるのだ」
確かに指差した菅を辿ると、別の金属管と十字やT字やらのジョイントで繋がっている部分がある。
しかし、似たような菅も幾つかあるので、何か特別な見分け方は存在するのだろう。
例えば虫そのものが快適に活動する環境などが考えられる。
グリーン女史が心配そうに彼を見る。
「どうしてそんな事を……」
「『知っていた』。
取り敢えず、今はそれだけに留めてくれ。
これが終わったら、話す」
「そうかい、それなら良いんだ。約束だよ」
グリーン女史は心配そうに胸元を握った。
彼女は職業上あまり踏み込んだ事を聞くのは好きでは無かった。
アズマは黙っている事ばかりだった。
この二人は、何処か変わりつつあるのだと思う。
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